第16話 こんな神話があるらしい

 この世界は過去に二度、そのことわりを変えている。

 一度目は後に邪神の誕生により、世界が変化したという説が、その多くを占めている。

 世界に魔力が湧き出し始め、その増加に呼応するかのように魔物が発生し始めた。

 一部には神の試練と考える者もいるが、その数はかなり少数に留まっている。


 その理由が世界の二度目の改変にある。

 生命と魔物に対してHPバーが現れ、HPバーを持つ存在の死に方が変更された。

 魔物は煙と共に消滅し、確率でアイテムを残し。

 魔物以外の存在は、魔物には殺されなくなった。

 HPがゼロになると体一つで転移して、安全な場所に現れるのだ。


 そして人間のみ、安全な場所ではなく教会限定で復活する。

 故に二度目の改変を神の祝福や温情と呼び、翻って一度目の改変を邪神の誕生などと言うようになった。

 だが二度目の改変はそれだけには留まらなかった。

 改変当時は発見されなかったが、徐々に発見と研究が盛んになったいった。

 その一つが職業である。


「へー、そうなんだー」


 クヨフ達と町を目指して数日。

 そろそろ馬車の揺れにはなれたが、同時に景気にも飽きてきたサンテ。

 同行しているクヨフの護衛の冒険者から、神話を聞かされていた。

 見た目は布の服に軽装の金属防具なのだが、ひょっとしたら教会関係者なのかもしれない。

 顔はどう見ても山賊、海賊、盗賊のボスなのだが。


「一度目と二度目の改変には長い年月がかかっている。だから今でも人間には、魔物に対する死の恐怖が残っていると言われているんだ」

「へー、そうなんだー」


 サンテ、まったく興味なしである。

 それでも彼は話し続ける。

 他の冒険者達はヤレヤレと呆れ、またかとうんざり、二つの表情をしていた。

 これで周囲への警戒は疎かにしてないので、リーダーも何も言えないのであった。

 聞かされ続ける相手には、たまったものではないが。




 目的の町が見えた辺りで、ガイがクヨフに貨幣を数枚渡している。

 町とサンテを指さしているので、クヨフには貨幣の理由が直ぐに理解できた。

 なんの事はない、通行料だ。


 冒険者のリーダーからサンテに、最低限の荷物で旅するのが冒険者の基本だぞと言われ。

 その日からサンテは、肩から小さな袋を掛けている。

 中身は町で暮らすのに最低限必要な物だけで、重い物やかさばるものは、全てラムが亜空間に収納している。


 いつの間にか進化していたのだ。

 冒険者達の考えでは野営の時に狩りに出て、鹿を狩ったのはいいが運搬できずに困惑。

 そんな時にサンテの不思議パワーでラムが進化して、収納能力を身に着けたのだと予想。

 実際、帰ってきた時に透明な体から鹿を出したし。

 翌日からはサンテの荷物は、ガイではなくラムが収納して運ぶようになったから、本人達は間違いないと確信している。


 クヨフにサンテの通行料を渡したガイは、ラムを残して姿を消した。

 それは文字通り、その場から消滅するかのようだった。


「えっ、ちょっ……ガイさん達が、消えちまったーぁ!?」

「ねぇちょっと、サンテちゃん。どういう……ダメね、サンテちゃん寝てるわ」


 無色透明でサンテの護衛を任されたラムだけが、この場でガイ達の消失の真実を知っていた。

 そのラムは、サンテの呼吸を妨げない程度にサンテに薄い膜となり。

 あらゆる攻撃から主人を守る、最強の盾となっているのであった。







 サンテの仲間、一口メモ


 ラム 無性別

 スライム → ディメンションスライム

 次元操作

 時空間操作

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