第12話 言葉が通じなくても一緒に踊ればダチ

「うーん……ちょっと何を伝えたいのか、分からないですねえ」


 ガガーン!!


 得意のジェスチャーでクヨフに話しをつけようとしたガイ。

 しかし護衛を含めて、誰もその不思議な踊りを解読出来なかった。

 故にガイは、半歩足を引き驚きのポーズをしている。

 単純な意思疎通なら相手が理解出来るジェスチャーを取るのだが。

 なぜか長文になると、踊らずにはいられない不思議な性格をしている。


 更に難儀なことに、テイマーとの意思感情の疎通を彼? は、切っているのだ。

 カナイ町を出てから、サンテが一度聞いてみたことがある。


「なんでガイさんは、私に心で話してこないの?」


 その時一度だけ、ガイはサンテの心に自らの思いを届けた。


「じゃあガイさんは、そのヘンテコな踊りでしか、お話しをするつもりがないんだね?」


 コクリ。

 ヘンテコな踊りと言われ、内心ショックだったが隠し通し。

 返事の代わりに頷いたガイは、それ以降サンテの心に思いを届けることはなかった。

 そしてそれは、これからもそうだろう。


 ガイの横ではスライムのラムと蜘蛛のコスモスまで、一緒になって好き勝手に踊っている。

 ウズウズ、ウズウズ。


「私も踊る!!」


 楽しそう? に踊る三名を見たサンテも、次第に我慢出来なくなり、ついに踊り始めた。

 それを見ていた冒険者の女性が、とうとう耐えきれずに声を荒げる。


「あーもう、ヨニンとも、オドリのキソがわかってない! ワタシをミテ、マネしなさい!!」


 女性は邪魔な革の部分鎧を外し、丈夫で身軽な革の服だけになると、様々な舞を魅せた。

 熱く激しい情熱の舞。

 儚くも美しい愛の舞。

 喜びを表す祝いの舞。

 怒りと悲しみの落差の舞。


「どう? これがオドリよ!!」

『おおおおおおおおお!!』


 女性の仲間の冒険者達。

 商人のクヨフ。

 サンテとその仲間達。

 そしてゴブリン。

 全員が女性と踊りに対して、惜しみない称賛の拍手喝采をあげていた。


『ってぇー、ゴブリン!?』


 ゴブリンに気付いた冒険者達が、即座に武器を抜き放ち戦闘態勢に移行。

 順番にクヨフを掴んでは背後に送り、依頼人の安全を確保する。


 対してサンテやガイ達は、ゴブリンに危機感を持っていない。

 それは注目されたゴブリンが、拙いながらも女性冒険者のマネをして、舞を披露していたからに他ならない。


「ゴブリンさん、凄いすごーい! 一回見ただけで、覚えちゃったんだー!」

「ギャッギャッギャッギャッ!」


 サンテに褒められてクネクネと照れているゴブリンに、冒険者の警戒心も薄れていった。


 ッガーン!


 ガイが己の拳と拳をぶつけて全員を注目させると、不思議な踊りで何かを伝えだす。

 それを見ていたゴブリンまで含めた全員が、掌を肩あたりで上に向けたヤレヤレポーズで理解不能と返す。

 手のないラムまで左右に体を振っている、見事なシンクロ振りである。


 ガイの言いたいことは、ガイの代わりにラムがサンテに伝えた。

 当のガイは馬の隣に膝を抱えて座り込み、遠く上空を眺め哀愁を漂わせている。


「えっと、このゴブリンさんを? うん、わかった。ゴブリンさん、ゴブリンさん。私とお友達にな」

 バシュン!


 ゴブリンに勧誘の言葉を投げかけている途中で、いつもの繋がった感じがした。


「ったね? まだ、名前つけてないのに。ゴブリンさんは男の子? じゃあ女の子なんだね」


 ゴブリンは男の子と聞かれた時に腕でバツ印を作り、女の子と聞かれた時に指で丸を作っていた。

 初めて見るのだろうか。

 クヨフや冒険者達は、サンテとゴブリンが契約する光景を、静かに興味深そうにして見ている。

 サンテは視線を彷徨わせ、林に背の低い一本の木を見つけた。


「ゴブリンさん、貴方の名前は……」


 こうして、サンテの仲間に新たなメンバーが加わったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る