第10話 カナイ町からの卒業

 蜘蛛のコスモスを仲間にして、宣言通りヘレンの食事代を払ったサンテ。

 今はヘレンの案内で、町唯一の雑貨屋に来ている。


「おう、冒険者の嬢ちゃん。いらっしゃい」

「おっちゃん、おはようございます」

「おう。ヘレンちゃんも、おはよう」


「おはようございます。今日はサンテちゃんの、初心者冒険者セットを購入に来ました。多少重たくてもこちらのガイさんが持てるので」


「おう、そうか!ちょっと待ってな。一番良いのを持ってきてやるよ!」


「一番!? やったー!!」


(誤差程度しかないから、品質はほとんど同じはずなんだけどね)


 雑貨屋店主の言葉に素直に喜ぶサンテ。

 大人のヘレンは商品についても常識が備わっているので、店主の言葉もリップサービスでしかないとわかっている。

 それでも喜ぶサンテに水を指す事は言わずに、自分の内に秘めておく。




 しばらく待ってから店主が奥から出てきた。


「待たせたな。ほれ嬢ちゃん、一番良いのを選んできたぞ」


「おっちゃん、ありがとうー!!」

「ガハハッ!なーに、いいって事よ!」

「ガハハ!」

(あら? 本当に一番良いのを選んでいたのね)


 笑う店主とサンテを見ながら、ヘレンは感心していた。




 店主にセット内容と使い方の説明を受けてから、雑貨屋を出るサンテ達。


「ヘレンさん。これからどうするのが良いと思いますか?」


「うーん、そうねぇ。サンテちゃんはこの町を出て、もっと都会の街へいくのが良いと思うわ」


 サンテはこれまでの人生で最大級のショックを受けた。


(ここが一番の都会じゃないなんて!?)


 サンテは田舎少女ゆえに、自分の知るより少し建物がしっかりしている。それだけでもう、彼女にとっては十分に都会だったのだ。


「ここよりもっと広くて、人がいっぱい居る街に行くとね。建物も大きくなって、お料理ももっと美味しくなるのよ?」


「はい、行きます。私は都会に行ってビッグな女になるんです!」


 即答だった。

 決して、料理に釣られたわけではない……だろう。




 ヘレンはサンテを町の入口まで案内すると。

 サンテに道を教えるていで、ガイに道を教えた。


「サンテちゃん、道順は覚えられたかな?」

「はい、完璧です!」


 チラリと横目で見ると、ガイも頷いているので大丈夫だろう。


「名残惜しいけど、サンテちゃん。いってらっしゃい」


「はい、いってきます!」


 荷物の全て入った袋はガイが肩にかけて、果実の在庫がなくなったラムは自力で移動する。

 掌サイズのコスモスはガイの兜の中に巣を張り、主人であるサンテは元気よく歩く。

 時々振り返りながらヘレンに手を振り、姿が見えなくなるまで繰り返した。


 振り返りながら歩くので時々転けるサンテに、ヘレンがハラハラしていたなんて知りもしないで。

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