第7話 ザ・さかば

 ヘレンが案内したのは小さな町に一つしかない食堂兼酒場だった。


「いらっしゃ……あっ、ヘレンおばちょぶぅ〜!」


「ミックぅ〜?確かに私は五十も近いし? 貴方の叔母だけどね? 私の事はなんて呼ぶか、また体の芯まで教えてあげましょうかぁ〜?」


 酒場に入って青年店員が挨拶を区切り、ヘレンを叔母と呼びかけた瞬間。

 ヘレンはテーブルとイスに座る客の隙間を潜り抜けて。

 ミックと呼んだ青年の口を、片手でガッチリと掴んで圧迫した。


「ひゃ、ひゃい。しゅいましぇんでした。わきゃくてうちゅくしい、ヘレンおにゅぇいしゃま」


「うん、よろしい」


「ハハハ! 相変わらずヘレンちゃんはおっかないなー」


「だが、俺等のカミさんよりはマシだがなっ!」


「違いない」

『ガハハハハハハッ!!』


 ヘレンとミックのいつもの漫才やりとりを見ていた他の客が。

 これまたいつもの会話をして笑う。

 小さいとはいえここは町なんだ、村とは随分違うんだなーとサンテは呆けていた。


「ミックは適当に、料理とお酒と果汁水を持ってきて」


 ヘレンはミックに注文をすると入口まで戻りながら、常連の酒飲み共に向かって言った。


「はーい、皆注目してー。この子が今日から冒険者になる、新人のサンテちゃんよ。サンテちゃん、はいこれ、冒険者ギルドの身分証のタグよ」


 酒場で突然始まった授与式らしきもの。

 サンテは戸惑いながらも、首にかけられた小さな木版に目を輝かせた。


「頑張れよ、小さな冒険者さん」

「危ない事すんなよー」

「ワシの孫の嫁に来んか?」


 四方八方から声をかけられて、処理能力の限界をアッサリ超えてアワアワしているサンテ。


「ヘレンねーさん、料理と酒持ってきたよ。あとジュースも」


「サンテちゃん。料理が来たから、テーブルに着きましょうか」


「あっ、はーい」


 サンテは揉みくちゃにされていた老人達に手を振ると、イスによじ登りヘレンの向かいに腰掛けた。


 領主の目が届かずに、村長が好き勝手出来る超ド田舎出身なので。

 サンテは慢性的に食事量が少なく、年齢の割りにかなり小柄なのだ。


「それじゃ、いただきましょうか」

「はい、いただきまーす!」


 誰が伝えたのやら。

 いつしか大陸では食前のいただきますと、食後のごちそうさまでしたが一般的になっている。

 種族や宗教によっては神や精霊に祈るなどの差はあるが、食事の大切さを説く教えては広く浸透している。


「んんん〜! 美味しいー!!」


 初めて食べるシチューにサンテは大興奮し。

 食事中は終始、笑顔であった

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