神域を侵す異形は月光と共に嗤う

虚無

第1話 【蒐集品目録:見越入道】

骨董蒐集家の神無月 虚の家には様々な骨董品が蒐集され陳列してある。しかしこの骨董はただの骨董では無く、その骨董のひとつひとつが『神域』を侵そうとした異形を封じた物でありその蒐集方法もまた独特なものである…

そしてここは、いわばそういった異形達の『監』なのである…


いつになく神妙な面持ちで、今夜も月夜の晩になりそうだな…そう呟くと神無月は村正を懐に収め、火鉢の前から立ち上がり行灯の炎をフッと吹き消した…


外に出て宙を見上げると新月には程遠い朧月であったが、その光は薄ぼんやりと街を照らしていた。あーあ、今日は嫌な予感がするわ…と呟いた矢先に懐の村正から『キーン』という高周波にも似た音が鳴り響いた…

【鳴いて】やがる…神無月の表情は一段と険しさを増し、その音に導かれるかの様に何処かへ向かい走りだした…


神無月のたどり着いた先は古い土蔵のある旧家の屋敷だが、屋敷内からは数人の悲鳴というか金切声が外まで漏れ出していた…

もう始まってやがるのか?神無月は右手にした鬼面のリングを見つめ、『頼んだぞ』と一言呟き、その手に懐から取り出した村正を握りしめ、壁を飛び越え屋敷の中へと向かった…


屋敷の中に入り、悲鳴の聞こえる奥座敷へ向かい、障子を開けるとそこには、天井に頭がついてしまう程に大きくなった見越入道が家人の喉を締め上げていた。その周りにも喉を締め上げられて殺されたと思われる遺体が数体転がっていた…

見越入道は本来、夜道や坂道の突き当たりに僧の姿で突然現れ、見上げれば見上げるほど大きくなる異形であり、人家に現れるものでは無いはずだ…やはりこいつ、月の光を浴びて神域を侵してやがる…制限無く自由に動きまわりやがって…


神無月は村正で斬りかかるが、巨大化した見越入道には全く歯が立たない…それどころか見越入道の手で払い退けられ、障子を突き破り庭へと放り出されるてしまった。

それを追う様にして見越入道は屋敷の屋根を突き破り屋敷から飛び出して神無月の眼前に降り立った。

倒れていた眼前に見越入道が現れたので、神無月はつい、見越入道を見上げてしまった…

すると見越入道は見る見る大きくなり、その大きさはもう電信柱を超えてしまった…

チッ!しくじった…月の力で神域を侵している見越入道を見上げちまうなんて…

神無月は深く息を吸い、大きなため息を一つつくと、あーあもう、コイツじゃ片付けられねーな…と村正を見つめながら呟いた。そして、村正を地面に突き立てると、朱色に光る五芒星の陣が現れ、その中心で鬼面のリングに向かい『我が体に流れし血の盟約により、異界より顕現せよ異形の者よ』と唱えると、五芒星陣から天高く火柱が吹き上がりその中から、見越入道よりも遥かに大きな三つ目の赤鬼が金棒を持ち、姿を現したのだった。

見越入道は、キサマ異形を憑依させたのか?と鬼に向かい言うと、鬼は阿呆が!異形に憑依させるなんてチンケな芸当じゃねぇよ!俺と異形達との血の盟約によって、俺が異形に憑依してんだよ!と神無月の声で答え、さぁさっさとくたばりな!と天高く金棒を振り上げ見越入道を滅多打ちにした。ボロボロになり虫の息の見越入道を踏み付けながら、鬼の姿の神無月は、さぁて、神域を侵し、この世に顕現し、騒動をお越しちまったお前には2つの選択肢が用意されている。まず一つ目は、このまま打ち据えられて、一片の肉片も残さずに無に帰す。そしてもう一つは俺と血の盟約を結び、絵の中に魂を封じられ、骨董として俺に蒐集され、我家の結界の中で穏やかに生き永らえ、俺の呼び出しに応じて、この鬼の様に俺にお前のこの身体を貸すのか…だ。さぁどちらか、好きな方を選べ、俺はすり潰したいんだがなぁ…と言うと、見越入道は、わかった!わかった!すり潰すのだけは、勘弁してくれ!血の盟約でも何でもあんたと結ぶ…結ぶから…と苦しそうな声で答えた。

神無月はじゃあ、交渉成立だな!と言うと、鬼の姿はたちまち消え、先程の人の姿に戻った。そして、村正を引き抜くと、懐から出した和紙で拭き、自分の二の腕あたりにスッと当て、自らの血を数滴見越入道の血上に垂らした。すると見越し入道は一枚の絵に変わり、ひらりと地面に落ちた。その絵を拾い懐に収め、神無月は屋敷を後にしたのだった。

これが、月夜に行われる骨董蒐集家神無月 虚の独特な骨董蒐集方法なのである…


第一話完

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