最強のふたり

 魔物達の中でも、さらに暴虐非道な魑魅魍魎の集団である百鬼衆をつけ狙う、恐れ知らずの命知らずな凄腕の剣士が存在するという──確か、その男の名前が斬喰郎ざんくろう

 しかも、そいつが扱う刀が実に厄介で、どんな魔物や物の怪すら斬り殺すことのできる妖刀・魑獲紗丸チェシャマルだときている。


「おまえのような若造に、黙って斬られる戯光之介げっこうのすけ様ではないわッ!」


 ちょっとばかり〝群れ〟を離れて羽を伸ばした代償がこれとは、面白くもなければ笑い話にもならない。

 みにくい顔をさらにゆがませる戯光之介の身体が、みるみるうちに大きく膨らむ。瞬く間に顔や手足の肌を突き破って、一匹の巨大な青白い大蜥蜴オオトカゲの姿に変わった。


「ケタケタケタ! 斬喰郎……百鬼衆に刃向かう愚かなヤツめ、返り討ちにしてくれる!」

「そっちこそ尻尾巻いて逃げんじゃねぇぞ、トカゲ野郎が」


 斬喰郎が緩やかに刀を上段に構えれば、戯光之介の人の頭よりも大きな黄色い目玉が不気味に光り、瞳孔が縦横無尽に動き回ってかがやきをさらに強く増していく。


「──な!? うっ……おお……!」


 すると、それを見つめていた斬喰郎が構えるのを急に止めた。

 そのまま刀を握る右腕が徐々に折れ曲がっていき、大きく開けた彼の口へと、なんの抵抗もなく自ら剣先を飲み込もうとする。


「ケタケタケタ! 天下に名高い妖刀で、てめぇーの喉を貫くがいい! ケタケタケタ、ケタケタケタ!」

「……あんた、馬鹿だねぇー」

「へっ?」


 突然、うしろから聞こえた女の声。


 振り返れば、闇夜を彷彿とさせる濡羽色ぬればいろの長い髪に猫耳の生えた振袖姿──雷雲に稲光りの奇抜な紋様──の浅黒い肌をした美しい女が、切先と同じ形をした瞳孔を妖しく光らせながら牙を剥いてほほみ、袖を見せつけるようにして佇んでいた。


「本当の魑獲紗丸ちゃんは、こっちなのよん♪」


 おどけた風にそう言って、魑獲紗丸が左右の袖を円形に振り回した次の瞬間、戯光之介の巨体は八つ裂きになり、青紫の血飛沫と脈動する臓物、悪臭を巻き散らかして月夜に弾け飛ぶ。


「な…………はぁ!?」


 だが、それでもまだ絶命には至らない。

 天高く吹き飛んだ戯光之介の頭部が、はっきりとした意識で怒りをあらわにする。


「クソ、クソ、クソ、畜生どもめ! 新しい身体が生えてきたら、この御礼を必ず……」


 夜空に浮かびながらそう叫ぶ戯光之介の目の前に、燃えさかる紫炎に包まれた斬喰郎が鬼神の如き表情で現れる。やがて、着衣が燃え尽きて一糸纏わぬ姿となり、激しく躍動する筋肉の鎧が月明かりに照らされ──


「ひっ!? ヒィィィィィィィィィッツ!!」


 斬喰郎は間髪を入れずに戯光之介を一刀両断し、これを見事に退治した。


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