エピローグ

第46話 アイドル活動はこれからも続く

 文化祭が終わってから数ヶ月が過ぎた。


 今日は高校生活で初めのクリスマスイブである。同時にこの日は、私達【D-$】のメンバーと一緒に過ごす、初めてのクリスマスイブである。そして今は紗美が用意したという店で、クリスマスパーティーを始めようとしていた。


 店の中は普段は洋風な飲み屋と言った感じではありそうだが、この日は【D-$】のクリスマスパーティーという事で、店内はクリスマスパーティー風に可愛くオシャレに飾り付けをしているところであった。


「ねぇ、今日のステージは、どんな感じになるかな?」


「さぁ、どうなるでしょうね。今日は始めてのファンを迎えての生ライブですからね」


 紗美が用意したという店では、飲食いをしながら生ライブを楽しむ事の出来るステージがある為、今日はここでファンを呼んでの、私達【D-$】の生ライブをやるのである。


 思えば、高校に入学をしてから約1ヵ月後のゴールデンウィーク明けから女月と2人で始まったアイドル活動も、半年を過ぎ、ついにはクリスマスイブまでUTube内でのアイドル活動は続いた。


 始めは大したメンバーも集まる事なく、数ヶ月で飽きて終わってしまうのかと思っていたけど、この思いつきで始めたUTubeでのアイドル活動が、私の中では予想以上に長く続いた。


 私の16年という短いようで長い人生の中で、今までこんなに長続きをさせたものがなかったから、こう思うのだろうか? それとも、アイドル活動を始めた事により、新しく友達と呼べる人が出来たおかげだろうか……


「麻子!! そんなところでボーっとしていないで、飾り付けを手伝ってよね!!」


「分かってるよ、女月ちゃん!!」


 まぁ、それはさておき、今日のクリスマス生ライブの為に来てくれるファン達の為に、早いトコ、パーティーの飾り付けをやらないと。


 そう思いながら私は、【D-$】のメンバーと一緒に、パーティーの飾り付けをやる事にした。





 今から数ヵ月前の文化祭の翌日……


 この日は、私達【D-$】のメンバーは担任の沢谷先生に職員室に呼ばれていた。

始めは今後もアイドル活動を続けても良いという、沢谷先生からの敗北宣言かと思っていたけど、以外にもその答えではなかった。


 何を思ったのか沢谷先生は、文化祭当日の私達のライブが始まった時点での体育館にいた人数が少なかったのを理由に、私達【D-$】に解散をする様に言って来たのであった。     


 こればかりは私達は納得をする事が出来ず、職員室にある自分の席に足を組んで偉そうに座っていた沢谷先生に抗議をした。


 しかし、私達がいくら抗議をしても沢谷先生の考えは変える事無く、ただ一方的に私達に解散をする様にしか言って来なかった。


 この状況を大きく変えたのが、あの謎が多いイケメン教師の霧島先生であった。霧島先生が話に入って来てくれたことにより、沢谷先生を説得させる事が出来、私達は無事にアイドル活動を続ける事が出来たのである……





 私が飾り付けをしながらあの日の出来事を振り返っていると、店の入り口のベルが”ガラガラ”となったのでドアの方を見てみると、そこには【D-$】のファンである一之瀬さんと二葉さんと三井さんの3人の姿があった。


「やっほ~ 阪畑さん達、来ちゃったよ!!」


「まだ準備中の様ね」


「全く、一之瀬さんが早く行こうと言ったから早く来たけど、まだ準備中じゃないの」


 店に入って来た一之瀬さんと二葉さんと三井さんの3人は、店の準備中の飾り付けを見ながら、店内がまだ準備中である事を確認した。


「あっ、3人とも来てくれたんだ!! 今日はありがとう!!」


「当たり前じゃない!! 私達がファン第一号組なんだから、来るに決まっているじゃない!!」


 店に入って来た一之瀬さんに、私は軽く挨拶をした。


「さっさっ、お客さんは、ここの席に座って、待ってて……」


 私は一之瀬さん達に席に座って待っていてもらうよう、ステージ前の最前列の席に座る様に案内をした。


 しかし、一之瀬さん達3人は、席の上に着ていたコートとカバンを置いた後、その席には座ろうとはしなかった。


「そんな、私達だけ準備を見ているなんて悪いわよ」


「せっかくなんだし、ファンである私達も、ここは手伝わせてもらうわ」


「良いでしょ、阪畑さん」


 それどころか、私の方を見て、パーティーの飾り付けを手伝うと言って来た。


「まぁ、いいけど……」


「ホント!! じゃあ、早速手伝わせてもらうわね」


「私達はここの飾り付けをやるわね」


「朝芽さん、一緒にやりましょ」


「あっ、ありがとうございます……」


 そう言いながら、一之瀬さんと二葉さんと三井さんの3人は、詩鈴と一緒にパーティーの飾り付けを始めた。


 ズルい!! 私だって、詩鈴と一緒に飾り付けをやりたいんだから!! っと思う気持ちは置いといて…… 手伝ってくれるのは、ホントありがたいです……


 そう言えば、あの文化祭の日以降、ファンの人達も一気に増えたんだっけな。今日はそのファンの人達も来てくれるのかな?


 私は再び考え事をしながら、パーティーの準備に取り掛かった。





 そう言えば、数ヶ月前のあの日……


 沢谷先生に説得をしてくれた霧島先生のおかげで、今の私達【D-$】があるんだよね。


 あの日、霧島先生に色々と言われた沢谷先生は、面目を潰されたと思い、怒った様子で職員室を出て行っていたっけな。


 その為、あの日の私は霧島先生は隠れファンだと思っていたけど、実際はそんな感じではなかった。寧ろ、あの先生は、物事を面白い方向へと導こうとしているだけの人だと、私は感じた。


 霧島先生の事をそう思う様になったのは、あの日の霧島先生の言葉がきっかけであった。


 それは……


「確かに、お前等の考えている通り、今の時代は昔とは異なり、自分のやりたい事を世界中に発信をして、より多くの人に知ってもらう事が出来るようになった。でも、ただ単に発信をしているだけでは人気は掴めない。いつの時代もそうだが、人気を掴もうと思ったら、人以上の努力は必要だ。でも、今のお前等なら、それくらいの努力も出来そうだし、今後もしばらくは続けられそうだな」


 同時に、その霧島先生が私達【D-$】に対して言って言った一言は、未だに私の心の中に強く刻まれるように残っている。


 あと、もう1つ、霧島先生の言葉で印象に残っているのがある。


「沢谷先生の様に、新しい流行りを否定しようとしている古い考えの人は世の中にはたくさんいる。でも、そう言った考えの人に勝ってこそ、新しい流行りは人々に受け入れられていくんだよ」


 沢谷先生は、ただ単に新しい流行りを否定をしていたわけではないと思うが、少なからず霧島先生の言う通り、沢谷先生はどこか新しい流行りを否定していた面も少なからずはあったと思う……


 そんな古い考えの人間に勝って、新しい道を切り開けってか…… 霧島先生も、見た目とは異なり、結構いい事言うじゃない。


 そんな霧島先生の言葉を信じる様に、あの日以降の私達は頑張っているのである。

かと言って、別に霧島先生が私達【D-$】の顧問になった訳でもなく、寧ろ今まで通り、部活動でもなんでもない活動のままだけど。





 そんなこんなで、私があの日の事を振り返りながらパーティーの準備を進めていると、いつの間にか店の中は、オシャレに綺麗にクリスマスの飾り付けが施されていた。


「ふぅ~ やっと終わったわね」


「そうですわね。あとは生ライブだけですわ」


 店に施された飾り付けを見ながら、女月と紗美は一仕事をやり終えた感じでいた。


 同時に、詩鈴は凄く緊張をした様子で、プルプルと震えていた。


「はっ、初めての、なっ、生ライブって…… 緊張するね」


 始めて? そう言えば、初めて初めてとか言っているけど、実は【D-$】の生ライブって、既に2回やっていたんだよね。最初は夏祭りの時、2度目は文化祭…… そして、今回は……


「何言ってんだよ、詩鈴!! 今回は3回目だよ!!」


「あっ!! あぁ!! そっ、そうでしたわ!!」


 私が今日は3回目の生ライブである事を伝えると、今回が3回目だと気づいた詩鈴は、恥かしそうに顔を真っ赤にした。


 そんな詩鈴も、凄く可愛いと思うよ。


 でも…… ファンを呼んでというのであるのなら、詩鈴のいう通り、今回が初だわ。詩鈴には黙っておこう……


「麻子ったら、余計な事は覚えているんだから……」


「余計じゃないよ!!」


 詩鈴に言った指摘を隣で聞いていた女月が、いつもの如く、私に余計な一言を返してきた。女月のこの余計な一言は、いつもと変わらない。これからも、【D-$】がある限り、続くんだろな……





 その後、クリスマスの飾り付けが施された店の中には、【D-$】のファンの人達がたくさん集まって来た。そんな人達を私達はステージ裏に隠れて、その様子を見ていた。


「人がたくさん集まったね」


「そりゃあ、【D-$】は、文化祭以降、凄く知名度が上がったんだもの、ファンもたくさん増えるさ」


 店の中に用意されていた席が満席になるぐらい人が集まったのを確認した女月は、驚きながらその様子を見ていた。


 その時、紗美が後ろから、私達に話しかけに来た。


「それよりも、今日の衣装の着心地はどうかしら?」


「クリスマスらしくて、凄く良いよ!!」


「まぁ、動きやすいとは思うわ」


「そう、今日の衣装は、クリスマスらしい衣装を作ったけど、結構気に入ってくれたみたいね」


 紗美がこの日の生ライブの為に用意した以上は、クリスマスらしく、赤いミニスカサンタ衣装に、クリスマスの帽子をかぶった格好であった。今回のは、今の季節にピッタリでいいとは思う。


 そう言えば、もうすぐ生ライブが始まるというのに、詩鈴ったら、まだ緊張をしている。緊張をするのはいつもと変わらないが、今日はファンの人達の前での初の1人での生ライブもやるんだっけ。それで、凄く緊張をしているのかな?


「詩鈴」


「はっ、はい!? 阪畑さん…… いっ、一体、なっ、なんでしようか?」


「そんなに恥かしがるなら、いっその事、メガネを外してしまえば?」


「えっ、あっ、あっ!!」


 詩鈴が驚く中、私は詩鈴のメガネを外した。


「阪畑さん、なっ、何をするんですか?」


「ライブをやるなら、可愛い恰好をしないとね。それに、目が悪ければ、人の表情も上手く見えないだろうし、この方が緊張をしないで済むと思って」


「たっ、確かに…… さっ、阪畑さんの、いっ、いう通りだとは思います……」


 詩鈴は私の言った事を素直に受け入れた後、先程までの緊張はウソのように消えていった。


 確かにメガネを外している方が、人の表情を確認できずに済むが、それ以上に、詩鈴はメガネをかけないでライブをした方が、絶対に良いと、私は考えているのだよ。


 そうこうしている内に、私達のファンの前でのクリスマスライブが始まる時間がやって来た。同時に店の中の席からは、私達を呼ぶ声で溢れかえっていた。


「店の中からは、【D-$】を呼ぶ声がするね」


「そうね。そろそろ行きましょうか!!」


「そうですわね」


「がっ、頑張りましょ!!」


 私達はそれぞれの顔を見ながら、一言ずつ言った後、ファン達の待っているステージへと向かおうとした。


「それじゃあ、ファンの人達に生ライブという名のクリスマスプレゼントを、届に行くよ!!」


「オッケェーイ!!」


 ステージへと向かう時、私は気合の一言をかけると、それに続く様に他のメンバー達も掛け声に反応をしてくれた。


 こうして、私達のファンを呼んでの生ライブは、幕を開けた。





 2010年代……


 その時代は今までの時代とは異なり、誰もが自由に自分のやりたい事を、世界中に自由に発信する事が可能となった時代である。

もちろん、それは簡単な事ではなく、物凄く難しい。時には、他人とのぶつかり合いも起こる。


 しかし、それでも活動を続けていれば、応援をしてくれる人達も現れる。そんな人達の応援があってこそ、素人の活動は、次第にプロへと変貌を遂げていく。


 そして今、この瞬間にも、ネットからデビューした4人組のアイドルは、まさに本物のアイドルになろうとしていた。

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動画投稿サイトを使ってアイドル活動をやってみた Reo @renon

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