第28話 D-$に合う曲は?

 旅館に帰ったあと、私達は早速、次の投稿に使う曲探しを始めた。旅館にノートパソコンを持って来ている人は誰もいない為、今回もいつものようにスマホからUTubeを開き、人気のある曲探しを始めた。


「ん~ この中に【D-$】に似合う曲なんてあるかな~」


「それを今から探すのでしょ!!」


「それは分かってるけど、こんなに歌動画が多い中からだと、なかなか見つけれないよ~」


 UTubeに投稿されている歌動画の数を見た私は、この中から【D-$】に似合う曲を探す事を考えると、凄く怠そうな作業だと思い、私はそのまま旅館の部屋の畳に寝転がった。


「全く!! 自分で次の投稿用の曲を変えると言っておきながら、それなの!?」


「確かに疲れる作業ですけれども、頑張って探しましょ。きっといい曲が見つかりますわ」


「そっ、そうですわ。こんなに数がある中だと、確かに大変かも知れないですけれども、みんなで探せば、きっ、きっとすぐに見つかりますわ」


 私が畳の上に寝転がったのを見た女月と紗美と詩鈴は、言い方は違えど、私に【D-$】に似合う曲探しを頑張る様に言ってきた。


「そんなことぐらいわかってるよ」


 もちろん、皆に曲探しをやる様に言われた私は、すぐに畳の上から起き上がった。


「そう言うなら、始めから寝転がったりしないの」


「寝転がるぐらい、別にいいじゃないの~」


 そんな感じで、私はスマホの画面を再度見始め、【D-$】に似合う曲探しを始めた。


 しかし、いくら探しても、なかなか【D-$】に似合うと思える曲は見つからなかった。


「ん~ どれを見ても、いまいちパッと来ない曲ばかりだよ~」


「確かに言われてみると、【D-$】に似合う曲がありませんわね」


「た、確かにないです」


 それは、私だけでなく、紗美と詩鈴も同じ様に思っていた。しかし、そんな中でも女月だけは様子が違った。


「ねぇ、この曲はどうかな?」


 どうやら、女月は【D-$】に会うと思える曲を見つけたようである。


「どんな曲?」


 私はどうせ女月の事だから期待は出来ないと思いつつも、とりあえず聞いてみることにした。


「この曲だけど、どうかな?」


 そう言って、女月はスマホを操作し、その曲を再生し始めた。


「ん~ これだと昨日まで練習に使っていた曲と似てるじゃない」


「そうかな? こっちの方がもっとポップな感じの曲だと思うのだけれども?」


「そう? じゃあ、とりあえず紗美さんと詩鈴にも【D-$】の曲に会っているかどうか見てもらおうよ」


 そう言って私は、女月がお勧めする曲は、本当に【D-$】に相応しいかどうか、紗美と詩鈴にも感想を聞いていた。


「ねぇ、女月ちゃんのお勧めする曲は、本当に【D-$】に相応しいかしら?」


「ん~ そうねぇ…… 確かに尾神さんの言うとおり、昨日まで練習に使っていた曲に比べると、ポップな感じはしますけど…… これも、なんか【D-$】ってイメージではないのよね」


「たっ、確かに…… 【D-$】のようなアイドルのイメージではなく、ダンス&ボーカルの曲そのものです」


「ってのが、紗美さんと詩鈴の感想だそうです」


「あっ、合わないって!?」


「そう、残念ながら、女月ちゃんが選んだ曲は、【D-$】のイメージではないんだよ。てなわけで、再度やり直し」


「そんな…… これは絶対に合うと思っていたんだけどな……」


「合わなかったんだから、仕方ないじゃない。さっ、落ち込まずにもう一度探すよ!!」


 紗美と詩鈴に本当に【D-$】に合うか感想を聞いてみたところ、合わないという意見が出た為、再度【D-$】に合う曲探しは始まった。


 そんな中、今度は紗美が何か良い曲を見つけたようである。


「ねぇ、この曲はどうでしょうか? これなら【D-$】にも合うと思いますわ?」


「どんな曲?」


 次に紗美が【D-$】に合うという曲を見つけたので、私は早速その紗美がお勧めする曲を聞いてみることにした。


「じゃあ、かけますね」


 そう言って、紗美はスマホを操作し、【D-$】に合う曲をかけ始めた。紗美がかけた曲は、女月が選んだ曲とは異なり、バラード調の曲であった。この曲を聞いていた私は、どうも【D-$】の曲とはイメージが異なる気がすると思った。そんな感じで、紗美が選んだ【D-$】に相応しいと思える曲は終わった。


「どうでした。この曲は【D-$】にピッタリだと思いませんか?」


「ん~ なんか【D-$】って感じの曲ではないんだよね……」


「どう違うのでしょうか?」


「紗美さんの選んだ曲は、バラード色が強すぎるせいで、どうも【D-$】とは合っていないんだよね」


「そうですか…… これこそ、【D-$】に合っていると思いましたけど、違いましたか」


「残念だけど、違ったね。てなわけで再度探し直しね」


 そう言って、【D-$】の曲に合わなかった為、少しガッカリしている紗見を見ながら、【D-$】に合う曲探しを再開する事を言った。


 そして、またしても【D-$】に合うと思える曲探しは始まった。


「にしても、【D-$】に合う曲なんて、ホントに見つかるのかな?」


「見つからないからこそ、探してるのでしょ!!」


「まぁ、確かにそうなんだけどさ…… このUTubeにアップされている歌動画を観てみても、なんかイマイチパッと来る系の曲が見つからないのよね……」


「そんな文句を言うなら、私や紗見が良いと思ったヤツで行けばよかったのに」


「そう言われたって、それだと【D-$】にイマイチ合わないんだもの!!」


「じゃあ、麻子が【D-$】に合うと思う曲は何なのさ? 答えなさいよ」


「それがないから、今探しているんじゃないの!!」


「そう言って、結局見つけていないじゃな」


「だから、今探しているじゃない!!」


「見つからないって事は、結局、ないって事なのよ」


「だったら、何なのよ?」


「要は無理にでも曲を変えなくても良かったと言いたいのよ」


「なにを~」


 その言葉をきっかけに、私と女月は、その場で口ゲンカを始めてしまった。


「最も麻子がこの曲は気に入らないと言い出したから、みんな苦労をして【D-$】に合う曲を探しているんでしょ!! それを麻子が全部合わない合わないと言って…… 結局、何が【D-$】に合う曲なのよ!? 答えなさい!!」


「まぁまぁ、尾神さん、落ち着いて下さい」


「落ち着いていられないわ!! 麻子は合わない合わないとばかり言うだけで、自分では全く決めようとしないのよ」


「それは、阪畑さんも【D-$】に合う曲を考えているからだと思いますわ」


 女月のキツイ口調を聞いた紗見は、女月を落ち着かせようと試みたが、女月は特に落ち着こうとはしなかった。


「確かに私だって、【D-$】に合う曲は探しているさ。でも、見つからないのもまた事実じゃない」


 そして、私は【D-$】に合う曲が見つからない事を、言い訳をしながら女月に言い返した。


 すると、そんな中、詩鈴が何か良い案を閃いたようであり、口を動かし喋り始めた。


「あっ、あの~ そんなに、【D-$】に合う曲がないのであれば、じっ、自分達で曲を作るというのはどっ、どうでしょうか?」


 突然の詩鈴の案は、UTubeから【D-$】に合う曲を見つけたというのではなく、自分達で曲を作ろうという案であった。合う曲がないのなら、自分達で作ればいい。確かに、詩鈴の言う通りかも知れない。でも……


「確かに、詩鈴の案は良いかも知れないけど、作曲作詞なんて出来るの?」


「わっ、わたしは、一応…… 作詞であれば出来ますわ」


「ホント!! じゃあ、問題は曲の方だね」


「曲なら、わたくしも作る事は出来ますわ」


「ホントに!? そうであれば、始めから言ってよね~」


「ごめんなさい。つい曲探しをやると言ったので、そちらの方に集中してしまいましたわ」


「そうだったの。じゃあ、紗美さんが作曲をやってくれるという事でいいの?」


「良いですわ」


「ホントに!? ありがとう」


 当然の出来事ではあるが、詩鈴が作詞を紗美が作曲をやると言った事により、【D-$】のオリジナル曲が生まれる事になった。


「これで、女月ちゃんのダンスも、【D-$】のオリジナルになるね」


「麻子ったら、余計な事は言わないの」


 そして、【D-$】でオリジナル曲を作る事になった今、私は女月と口ゲンカをするのを止め、共に笑っていた。


「じゃあ、そうと決まったら、早速作業に取り掛かるわよ!!」


 同時に、【D-$】オリジナルの制作に最も張り切っていたのは、女月の方である。

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