第33話 ドラゴンパーク

いよいよドラゴンパークの開園が近づいてきた。期日が近くなると、どんどん加藤さん、山田さん、小島さんがやつれていくのが目に見えていた。文化庁の前田さんも応援に駆けつけたようだ。従業員も10人ほど増えているようだが、それでも全然手が足りていない。それでも開園まで来れたのは山田さんと小島さんの頑張りだろう。1000万位ボーナスを考えておこう


ドラゴンパークの展示物は、まずはメインである国宝「黒竜」 である。防弾ガラスで固められた箱に入れられて展示されている。ドラゴンの鱗で作られたこの作品は最大の目玉と言っても良い。深く黒く光るその刃は見る物を魅了する。何度も欲しいと交渉に訪れる人が後を絶たない。


続いてが望遠鏡から見えるドラゴンの生態だ。かなりの距離が離れているので安全にドラゴンを見ることができる。子供達も喜んでくれるだろう。 望遠鏡の前には長蛇の列が出来上がっていた。


次の展示物が魔法実演の録画と遺跡の古文書である。魔法というだけでも、ものすごいのに人類未知の古文書が発見されているのである。世界各国の考古学者などにとっては、とてつもない学術価値のあるものだろう。


そしてグッズの販売だが非常に難航している。1種類は普通のドラゴンの人形だ。2体目として、なんとか新しく作ったのが、ややデフォルメされたドラゴンの人形だ。デフォルメされているので可愛いと言えば可愛いがどこに需要があるかは俺には全くわからない。きっと子供が買ってくれるんだろう。え、オタク…何も聞こえなかったよ。小さな天使たちが喜んで買う姿を想像しているので、邪魔はしないでほしいな。あとは転売対策で整理券配っておこう。あまりひどい時は工場フル稼働で利益0円でも転売屋が損するように作りまくるのもいいな。転売屋への苦い記憶が拳を握らせる。


時間的問題もあり増やせたのはデフォルメされたドラゴン人形だけだった。反省点として踏まえて、次回からは鉛筆か下敷きとかも増やしてみようと言う安易な考えでいる。


お客さんは不満のようだが金属探知機は設置させて頂いた。従業員の命や観光客の安全のために必要なものである。観光客の半分が外国の人の様であるが、あまり気にしない事にする。


しかし悲鳴を上げたのは地元の旅館業だった。すでに1年先まで予約でいっぱいと言っていた。地元の観光業もなかなかやるものでドラゴン焼きとかドラゴンを型どったお菓子とか、色々作って頑張っているようだ。


ドラゴンパークは文化庁が管理することになっている。そのため建物の費用は国の税金で賄われている。入場料についても俺が貰っても申し訳が立たないので国庫へと渡している。ドラゴンパーク自体は我社にとっては慈善事業のようなものになってしまった。ただ先ほどの宿泊先が少ないようなので、そういった箱物を建てていく計画を山田さんと打ち立てている。不動産は資産という形で残すことができるのであまり考えずお金を投資しやすい。


ただ一言だけ自分から苦情を言いたいのは、何でドラゴンパークのテーマソングが俺が歌った島唄になっているんだろう。魔法の実演も顔出しでやってるし、俺のプライバシーというものはきっと世界には存在しないんだ。そんな諦めのような気持ちで一杯になった。


新しく雇った従業員の人たちも真面目で前向きな人が多い。いろんな企画書を作って提出してくれることを期待している。ドラゴンパークの売り手に高学歴の人間はいらない。今は人手が足りないのでそうしているだけの一時的措置だ。企画することも仕事だということを忘れないで貰いたい。


ドラコは空飛ぶ散歩コースで、稀にこの施設の上空を飛んでくれる。その時は「キャー」といった声も聞こえるがものすごい迫力なのだろう人気は高かった。


最近になって、この施設の隠しカメラ問題が発覚してきた。施設内はカメラの持ち込みは禁止とさせてもらっているが、古文書等を撮影したいらしく、毎日警備の人とのいざこざが絶えなかった。


街ですれ違う人も許可なく自分をパシャパシャ撮影する人がいる。断りも入れずにそういうことをされると一人の人間としては怒りと共に悲しいものだ。すぐ消すように注意しているがカメラ小僧はあまり好きではない。 今度島全体に監視カメラを入れて隠し撮りしている人を全員肖像権違反で逮捕しようかと本気で思ったこともある 。

「コラ、事前に写真いいですかと確認してからにしなさい」


「ちょっと大人げないわよ。トオルそれぐらい許しちゃいなさい」

そう笑いながら近寄ってきて話しかけるジェーンに俺の鼓動が早くなるのを感じた 。

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