魔力量しか取り柄がないぼくが世界最高の魔法使いたちをこき使う話

冬麻

第一話 プロローグ

こうしてぼくは、もう一度捨てられた

 


 今年の十月。


 三連休が終わり、またつまらない当たり前が始まるというとき。


 突然、担任の教師から、ぼくが学校を退学をしたと聞いた。


 もちろん初耳だったので、何故そうなったかと担任に尋ねてみたら、なんでも自主退学らしい。


 ぼくの両親が、正式な手続きをしたのだと。


 その事実を知らないふりをして、これからも適当に過ごそうとしたら、両親が話題に出したので仕方なく話を聞いた。


「無限くんには、イギリスに留学してもらうから」


 あまりにも断片的過ぎて、何を言っているのか理解が出来ない。


 目の前にいるのは、不自然に濃い色眼鏡をした男性。


 そして目の前に座りながら、視線を下げてぼくのことを決して視界に入れようとしない女性。


 血の繋がっているはずの、自分の子供に対してここまで露骨な警戒心や嫌悪感を出していることに、もう笑ってしまうほどに失望する。


 唯一の救いがあるとすれば、こんな人たちには初めから、何も期待していなかったことだけだ。


「なぜ、イギリスに?」


「魔法を覚えてもらおうと思ってね」


 あまりにも唐突で、何一つ聞いていなかった話を始めたので。


 ついに両親の頭が壊れたかと心配になるが、もう少しだけ、詳しく話を聞こうと思った。


「実はね、我が家は魔法使いの一族なんだ。そして家族の誰かが、イギリスの魔法学校に通わなくてはならないんだよ」


 なんでも我が家の家系は、昔から魔術と言うオカルトを学んで、仕事に使っているらしい。


 詳しく何の仕事をしているか聞いたことはないが、うちは随分な金持ちだとは思っていたのだ。年収は億を軽く超えるらしい。


「なんで今まで、ぼくに教えてくれなかったの?」


「君には才能がないからさ」


 厳密に言うと、魔力量は国で一番ぐらいの凄いものがあるのだが、ただそれだけなのだと言われた。


 ぼくの記憶がないほど小さいころに、少しだけ魔法を教えたが、本当に魔力が存在するのかすら怪しんでしまうほどに、魔法が発動しなかったようだ。


 だから、ただでさえ三男坊であるぼくは一般人として育てて、他の兄弟に期待をかけることにしたのだと。


「無駄なことは好きじゃないからね。これまでは君も自由に生きることが出来ただろう?」


 恩着せがましい言葉が、とても面白い。


 普通、両親が何も教えてくれなくても。


 子供のうちに他の兄弟から魔法使いの家の人間だという本当のことを、無意識にでも、色々と教えてもらえるのではないかと思うが……。


 兄弟の中でぼく一人だけは、生まれてすぐに親戚の家に預けられていたので、兄弟から自分は魔法を習っているのだという、自慢すらされたことはないんだ。


 そんなふうに育てたくせに今更何故と思ったが、なんでも家のしがらみらしい。


「これでも、断腸の思いなんだよ」


 ある程度だが魔法社会で有名な我が家から、一人も魔法学院に留学させないのは、危険なことだと言われた。


 今まで何回も、学校からの子供を寄越せとの強制召集を無視していたのだが、今回無視したら魔法社会の圧力で家が潰されるらしいのだ。


 だが魔法学院と言う場所は、ある程度の実力がない人間が魔法を学ぶと、あっという間に脳や体を壊されるという。


 我が家の人間なら、壊されないだけの素質があるのは間違いないのだが、長男は家を継ぐので当然行かせられない。


 いちいち学校で魔法を学ばなくても、両親から一子相伝の魔法を学べるかららしい。


 次男も既に家業を手伝っているので、不可能だと。


 そんな理由でたとえ無能でも三男であるぼくに、白羽の矢が立ったようだ。


 断固として断りたいところだが、ぼくほどの魔力があれば体も心も壊されることはないらしい。


「約六年間ウェールズにある魔法学校に在籍してくれればそれでいいよ、入学式と卒業式だけ学校に行ってくれればいい。あとは高級マンションで毎日好きに暮らしてくれればいいんだ、いくらでも金銭的援助をしてあげるよ」


 入学したという事実、卒業したという事実があればいいらしい。


 流石に自分の子供が死ぬのは避けたいらしく、金を送るから、六年間イギリスのどこかで暮らすだけでいいのだと。


 魔法学院は完全な実力主義なので、一番レベルが低いクラスで過ごすのなら一度も通わなくても、寄付金次第で卒業だけは約束されるらしい。


 綺麗な話、都合のいい話だ。


「遊んで暮らすなり、将来のために何かをするなり。六年間好きにすればいいさ、もちろん卒業後のことも心配しなくてもいい」


 お互いにとって都合のいい話だ。


 これから先、どちらも干渉をする気はない。


 心配事や、不安に思うことはいくつもあるが、この家に軟禁されているよりはマシだろうさ。


 それに、高卒の資格はくれるらしいのでそれならと、ぼくはイギリスに遊びに行くことを決めたのであった。

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