お嬢様学校祭です!ーとてつもない学校祭になる予感ー

 学校祭は三日間開催される。学校祭は各学年、各クラスで催物をすることが決まっていた。そして相馬が奈々と勝負をするのは最終日である三日目だった。

 学校祭当日、更衣室で執事服に着替える相馬の数人の男子達。

「で、なんで俺達の催物は喫茶店なんだよ」

 相馬が執事服に着替え終わっている誠人に聞いた。

「奈々ちゃんの案だからな、それにまさか全員分特別にオーダーメイドするとかマジでお嬢様なんだな」

 相馬のクラスはメイドカフェと執事喫茶を複合した喫茶店をする事になっていた。それは奈々が提案した案であり発案者として全員分の衣装を全てオーダーメイドで発注すると申し出たためクラス全員が驚き賛成した。

「お嬢様でも色々と規格外だぞ、アイツは…。うっわマジでピッタリだな」

「確かに小柄にしちゃあ力が強いしな…」

 見事に体にピッタリのサイズで驚く相馬、そして教室に戻ると既に教室内は喫茶店風に飾り付けられていた。

「あっ、相馬さん」

 教室に戻ってきた相馬に気づき歩み寄ってきたのはメイド服に着替えた摩耶だった。

「ん、摩耶か……」

 メイド服の摩耶が可愛いことにマジマジと見てしまう相馬。

「な〜にジロジロ見てんのよ変態」

 メイド服姿の奈々が冷たい目で相馬を見ながら摩耶の背後から現れる。

「変態じゃねぇよ!というかマジで全員分用意したんだな」

「当たり前よ、イベント事では絶対に手を抜く訳にはいかないわよ」

 ドヤ顔の奈々だがやはり妙な距離を置くことに気づく相馬、一歩近づくと一歩下がる。

「おい、なんで離れる」

「は、はぁ?離れてねぇ…離れてないわよ」

 動揺していつもの口調になりそうになるが抑えた。

「絶対に次は勝ってやるんだから、そしたら…そした…ら………」

 顔が赤くなり始める奈々。

「お前、もしかして…」

「はいはいーい、みんなそろそろ時間だから準備してー」

 環が教室に入ってきて会話を遮る。

「お、みんな可愛いしカッコイイね。んじゃあ準備が終わったらしっかりとお願いね、それじゃあ私はこれで〜」

 たった一言二言で済まして去っていく、環は巡回という仕事があるため仕事に向かった。

「んじゃま、やりますか」

 喫茶店は当番制で一日目には相馬と摩耶に誠人とその他が当番、二日目は奈々とその他が当番で最終日の三日目は相馬と奈々が勝負するということもあり最初は喫茶店で最後は勝負の場を設けるという特殊な催物だった。

 そして学校祭が始まる、男子は女子の接客、女子は男性の接客をする事になっていた。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 さっそく様々な生徒達が来る。クラスメイト達はそれぞれ決まった挨拶をしてもてなす。

「へぇ、すげぇな。本格的だな」

「可愛いしカッコイイ〜」

 来客する生徒達は執事服、メイド服を見て驚き見蕩れさせる。

「い、いらっしゃいませ〜、ご主人様?」

 初めての事で挨拶を間違えオドオドしながら来客した男子生徒の前に出てくる摩耶。

「摩耶、挨拶が違う」

 相馬が慌てて摩耶の元に来て訂正する。

「はは、別にいいよ。それより君ってあの入学初日に噂になっていた子だよね?」

「え?あ、はい…」

 男子生徒が笑顔で摩耶に聞くと摩耶は素直に答える。しかし相馬は少し嫌な予感がした。

「制服姿も可愛いけどメイド服もいいね、写真いいかな?」

 やっぱりと思う相馬、男子生徒はスマフォを取り写真を撮ろうとする。

「すみません、写真は禁止ですので…」

 咄嗟に止める相馬、しかし男子生徒は逆ギレし始める。

「はぁ?ダメなの?別にいいでしょ、減るもんじゃないし〜」

 態度からして同学年ではないと察する、相馬はそれでも穏便に済まそうとして優しく断るがそれでも引き下がらない。呆れた相馬はクラスの女子を呼ぶ。

 その女子には摩耶にとっても相馬にとっても見覚えのある女子だった。

「悪いがコイツに独自のメイド流を教えてくれないか?」

「え?なんで私が、それにおま…相馬に頼まれるのは正直嫌なんだけど…」

 その女子とは摩耶のイジメの件に関わっていた三人組の一人だった、その一人は三人組の中でリーダーだったらしく摩耶をイジメようと計画した張本人だった、しかし今は摩耶にはしっかりと謝りイジメをするどころか真っ当な生徒として生活していた。

「頼む、出来れば問題を起こしたくない」

「私の時は起こしたくせに?」

「あれはお前も悪いし、俺も悪かっただろ」

「ん〜、納得いかない。けどクラスでまた問題起こしたらタマちゃんがまた大変な思いするからな、分かったよ」

 摩耶をイジメた女子生徒は相馬と摩耶の前に出て男子生徒の前に立つと息を整えたのち男子生徒を見下し腕を組む。

「オイ、客だがなんだか知らねぇがウチは写真は断ってんだよ。写真を撮りてぇんなら金払えよ、ああん?」

 机に片足を乗せ完全に男子生徒を見下す女子生徒。

「ひぃ、ごめんなさい!」

 男子生徒はそのまま逃げ去った。しかしその様子を見ていた一部の生徒達は。

「…いい」

「めちゃくちゃいい…」

 メイド服に遠慮のいらない高圧的な態度、いわゆるドSメイドに一部の男子生徒は目も心も奪われた。

「ありゃ、人気になったな…」

「うっざ…、めんどくせぇ〜」

 面倒臭いと言いつつも接客に戻ろうとすると摩耶が頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!」

「……ふん、変な奴に絡まれるなよ」

 そう言い残して接客に戻る女子生徒。

「なんか暴力してしまった事が本当に申し訳ないな」

 意外と優しい一面が見えたことに暴力を振るってしまったことを後悔した相馬。

「元々は優しい人なんですよ、けど私のせいであんな事を引き起こしてしまったのですから一番悪いのは私かもしれません」

「摩耶がそう思うのならいいけど、元から悪い奴もいるから気をつけろ」

 摩耶にとってあの件は辛い事件だが引き起こした三人組を責めることもなく素直に許したと相馬は聞いていた。それは摩耶が元は優しい人達だと聞いて相馬は否定することもなく受け入れた。

「はい、でも相馬さんが必ず助けてくれますから」

「摩耶を守ると決めたからな」

 摩耶と相馬は笑う。もはや摩耶にとって相馬は助けてもらう存在であり、相馬にとって摩耶は絶対に守る存在だった。

「オイ、さっさと接客しろよお前ら」

 面倒臭いと言っていた女子生徒は既にキャラとして位置付け相馬と摩耶に仕事を急かし二人は接客に戻った。

 摩耶は接客が慣れてきて上手く仕事をこなす、そして摩耶をイジメた女子生徒はドSメイドとして接客をする、可愛いメイドに加えてドSメイド他に執事服やメイド服の完成度が高すぎると学校中に広まり人が集まる。

 一日目の後半は大盛況で終わる、二日目は奈々がメイド服に着替えて準備をしていた。

「お前、なんか地味にお子様感出てるな、ちょっと危ない気が…」

「なに?文句ある?」

 奈々のメイド服姿は小柄と言うこともあり妙に制服姿より幼く見えてしまうことに周りからは多少、犯罪臭がすると言われる。しかしそれでもクラスメイトからチヤホヤされるが今の状況では単に可愛い子供に群がる光景にしか見えない状況だが当の本人は満更でもない様子だった。

「くっ…ふふ、面白いな」

 相馬は笑いを堪えつつ摩耶と教室の端でその光景を見ていた。

「奈々ちゃん可愛い」

 メイド服の奈々を見蕩れる摩耶。

 そして二日目が始まるとクラスすぐに人が集まり始める、それは奈々がメイド服姿という事もあったがそれ以上に喫茶店の完成度の高さが多くの生徒達を呼んだ。

「凄いな」

「凄いですね」

 相馬と摩耶は自分達のクラスに行列が出来る所を見て驚いていた。

「とりあえずどこ行く?」

「相馬さんについて行きます」

 二人で回る約束はしてないが自然と二人で回る事になる。

 他のクラスから他学年を回る、同じ喫茶店でも出すものが違ったり、お化け屋敷の他にドーナツなどお菓子を作ったりと様々だった。

「お、摩耶ちゃんと相馬発見!」

 楽しそうに会話しながら廊下を歩いていると向かい側から環が来る。

「環か、なんだ?」

「も〜、学校では…」

「はいはい、環先生」

「あら意外と素直だね」

「問題は起こしたくねぇから」

「へぇ、まあいいわ。どう摩耶ちゃん、楽しんでる?」

「はい、とても楽しいです」

「それは良かった、所でもう少し間詰めたら?」

「あいだ?」

「そう、あいだ」

 環が指示したのは摩耶と相馬の間だった。最初の頃は人一人分入るぐらいの間が空いていたが今では握りこぶし三つ分ぐらいまで近づいていた。

「いやさすがにそれは…」

「えいっ!」

 相馬は断るが環はじれったいと思い相馬の押し摩耶と接触させる。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 しかし唐突に押されて接触した衝撃で摩耶が倒れそうになり相馬は咄嗟に抱え込む。

「これは予想外、邪魔者は退散するかね」

 環は急いで逃げた、相馬は摩耶を抱えたまま固まる。

「あ、いやこれは……」

 相馬は慌てて摩耶を立たせ離れる。しかし急なことにびっくりしたのか摩耶は俯く。

「いえ、大丈夫です…」

 再び歩き始める相馬と摩耶。先程まで会話していたが気まずい雰囲気になり無言になる。

 会話を切り出そうとする相馬だが何を話したらいいか分からなくなる。すると摩耶が肩が触れる。

「ま、摩耶?」

 摩耶の顔を見ると摩耶は耳まで真っ赤になっていた。それを見た相馬も何故か顔が赤くなる。

「手、繋いでもいいですか?」

 小さく今にも消えそうな声で摩耶は聞く、相馬は不思議と頷いた。

 そしてゆっくりと手を繋ぐ、摩耶の手は冷たかったが相馬の手はほのかに温かった。

 学校祭二日目が終わり三日目を迎える。

「最終日は前半が喫茶店をやって後半は相馬対奈々ちゃんの対決だな」

 誠人がクラスメイトに今日の大まかなことを話す。

「三日目か…」

 相馬は奈々を見ると奈々は相馬をチラチラ見ていた。

「相馬さん、本当にやるんですね」

 摩耶が心配して声をかける。

「言ったからにはやらないと、まだ摩耶にはちゃんと返事をしてないから」

「……分かりました」

 そして学校祭最終日が始まる、最終日ということもあり相馬のクラスは大盛況でクラス全員が着替えて客をもてなした。

 正午を過ぎる頃、喫茶店は閉じ相馬達のクラスは他より少し早めに終わらした。

 クラスメイト達は制服に着替えて教室内を片付ける。そして中央に机一つ配置するとそこに相馬と奈々が向かい合う。

「私が勝てば付き合ってくれるのよね?」

「当たり前だ、次は手を抜くなよ」

「バレてたのね」

「気持ちを気づかせる為にあそこまで大胆にやるのか」

「本当にあんたはヴァカね、私はお嬢様ですから」

 いつも通りの奈々に少し安心した相馬、周りのクラスメイト達は一体何の話をしてるか分からなかったが盛り上がるに越したことはないことに勝ち負けだけを気にしていた。

「二人共、腕相撲でいいんだよな?」

 誠人がルールの確認に入る。

「ああ」「ええ」

 同時に頷く。

「分かった、ルールは腕相撲。どちらか相手の甲を机につけた者の勝ち、これでいいか?」

 頷くと相馬と奈々は右手を出して机に肘を置く。

「よーい、……スタート!!」

 誠人の合図と共に相馬と奈々は思いっきり力を入れるがどちらにも動くことなくスタート位置から力がぶつかったままだった。

「く、クソっ、お前本当に力がヤバいな」

「あんた、こそ意外ね、私と同等の力があるなんて」

 お互いに力の強さを認め合う、そんな二人を心配そうに見守る摩耶。

「力が強いのはお前だけ、じゃねぇよ」

「へぇ、じゃあこれは…」

 奈々はさらに力を込めると相馬の腕を押し進んでいく。

「な、お前マジか……」

 どこからそんな力が湧いてくるのが不思議に思う相馬。

「私はいつでも本気よ」

「本気か、そしたら告白も本気ということか?」

「そ、それは……」

 急に力が弱まる奈々にすかさず相馬は力を入れ立場が逆転する。

「図星か?」

「セコい!セコい!」

「セコくねぇよ!!」

 そのままの勢いであっさりと勝負が決まった。

「あ、あれ?」

「……」

 呆気にとられるクラスメイト達。しかし次の瞬間歓声に変わる。

「うおーすげぇ、また勝ちやがった」

「あー、奈々ちゃん負けちゃった」

「相馬に賭けた俺の勝ちだな」

「クソっ、負けたー」

 様々な声が聞こえる、相馬を讃える人、奈々を応援していた人、裏でどちらか勝つか賭けていた人などなど。教室内は盛り上がる。

「奈々…」

 相馬は奈々に声を掛けようとしたが奈々はその場に座り込み顔は見えなかったが涙がこぼれ落ちる。

「また負けちゃった…、どうしてだろうなぁ……」

 顔を上げ相馬を見る。

「相馬、あんたの勝ちだよ」

 涙で濡れた笑顔の奈々、それを見届けた相馬は胸が苦しくなったが摩耶の所へ近づく。

「摩耶、俺と付き合ってくれないか?」

 勝負に勝った通りに摩耶に告白する相馬、摩耶は驚いた顔を見せるが目を閉じて息を大きく吸い大きく吐くと目を開け笑顔に変わる。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 摩耶は告白を受け入れた、そして教室内は祝福する声が聞こえると同時に摩耶を取られた男子の声も聞こえた。

「ところで、付き合うってなんですか?」

 摩耶の唐突な発言に全員がズッコケた。

「まぁそれが摩耶らしいわ」

 相馬と奈々はある意味知っていたかのように納得した。

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