第20話虐殺戦士様!気狂いになって魔物も人間も斬り殺す!


あらすじ

プレイヤーに育てられたサポートNPCがバグでできた空間の穴に落ちてしまう。

落ちたNPCは異世界に召喚されていた。

自我を持ったNPCはゲーム世界の常識にのっとり行動する。しかしあまりにも気が狂ったその常識は世の中を巻き込み、やがて蛮族として恐れられて行く


◇◆1


空が青い。


青い空を見たのはいつぶりだろうか。

空が青いことを忘れていたくらいに、この空は斬新だ。

巨大モンスターの出現。神を称する龍の討伐。ハンター全盛期と呼ばれたあの日あの時、何処からともなく湧き出した大量のハンターとともに、世界中で最悪で伝説級のモンスターが現れ始めた。

人々は恐怖した。

狩る力を持つ人は決意した。

プレイヤーと呼ばれる人間みたいなやつらは歓喜した。

多数のハンターとプレイヤー達により最古の龍が討伐され、解体され、街は潤った。名誉を得た。平和を得た。

だが一日後、最古の龍が復活した。

が再び俺たちハンターとプレイヤーによって討伐された。

再び街は潤った。今度は国も潤った。

全身分の素材を手に入れ防具を作った。

翌日、2匹が復活した。

2匹?いや復活したと言っていいのか?

倒したはずのモンスターが復活し、同じ個体が違う地域に湧いた。

プレイヤーの言う湧くという言葉が妙に当てはまっていた。

ともかく、雑草が生えてくるように地面から出てきたのだから仕方がない。

午前中に倒した2匹は午後には6匹になって湧いた。

それからは思い出せない。

倒し過ぎた俺たちは効率のいい倒し方を知った。世界の危機でも希少な資源でもない。デカイだけの何か。素材は過剰供給で値崩れを起こし、最近は龍の素材が家の建材に使われている。

戦えない一般人からしたら毎日が世界の危機でもあるが、ハンターからしたらもはや古龍討伐は娯楽と化していた。

一昔前なら尊敬を集めた【龍殺し】も今ではハンターの嗜みだ。

龍の素材は様々な薬品や防具となって弱き人類を支えていたが、今となっては龍の防具を纏った子供が強力な武器を振り回し娯楽がわりにモンスターを駆除しているし、食卓には龍の肉を使った料理が上がるし、家の建材以外にも、なんの効果も発揮しないアクセサリーなどにも使われている。

プレイヤー達は、俺たちよりも効率のいい殺し方を知っており、何匹も囲んで作業のように殺し続けた。

飽きたというのか、中には防具縛りなどと言って下着のインナー以外何も着ずに武器だけ持って戦う者や、壊れない鉄の塊を持って何時間も殴り続ける者、古龍の上に何分乗ってられるか競い始めるものまで出現した。

ハンターはやってられなくなった。それは疲れたからでも歳からくるものでもなく、潮時を感じたからであった。

プレイヤーというものたちがもたらした恩恵は大きかった。

最悪のモンスターと恐れられた龍はそこにはいなかった。

俺たちの出る幕ではなくなったと次々に隠居して行く。

それでもプレイヤー達からの依頼は絶えなかったためになるべく手伝いに出かけた。

完全に危機感をなくしていた。

いつのまにか俺自身もプレイヤー達と同じような規格外の力と精神力を持ち合わせていた。

だからこそ、古龍の攻撃を避けながらプレイヤー達と小型の草食竜の頭を蹴って遊んでいた俺は不意に現れた空間の歪みに吸い込まれるのに判断が遅れてしまったのであった。



そして冒頭に戻る。

空が青い。

こんなに危機感を覚えたのは久しぶりだ。

俺はいつのまにかここに一人で飛ばされて草の上に寝っ転がっていた。

上半身は半裸で、暑い皮のベルトで巨大な大剣をくくりつけている。

今は待機形態で触っても切れることはない。龍から作った生きた剣である。

待機中から解除した大剣は黒い稲妻を四方八方に撒き散らしながら正面以外も全てを破壊する。

"慣れた"俺にとってはこんなもの温泉のビリビリ風呂みたいなもの。

半裸にベルト、ふわふわの毛皮のベストを羽織り、悪魔の生皮で作られたマントをつけている。

下半身はちょっとした拘りでゴッツイ鎧だ。

これはプレイヤー達がどうやって知ったのか俺の誕生日に用意してくれたものだ。肌を浅黒く焼いてムッキムキの筋肉の鎧と昔受けた傷と、顎髭が目立つオヤジだが、こうやって祝ってもらえると嬉しい。

他の防具も同様の理由でもらったものだ。なぜ上半身は半裸の装備なのか問えば、粗暴な感じに似合う衣装だかららしい。


いつまでもステキな鳥のさえずりだとか美しい空を見ているのもどうかと思い、足のバネだけで起き上がり、剣を抜いて周りの木々をなぎ倒した。

黒い稲妻が迸る。

ギァアアアアア!!!龍の断末魔のような音を立てて眼を覚ます大剣は、怒りをぶつけるかのように稲妻はめちゃくちゃに放ち一瞬で木々を灰に変えて行く。

振り回された大剣はその風圧を持って積もった灰を吹き飛ばし辺りの空をグレーに染めた。


ああ落ち着く。やっぱり空は曇りの方がいいな。


雷から逃れた鹿のようなモンスターが逃げて行くのを見て軽く飛び上がって捕まえた。

そのモンスターは見たことがないような眼をしていた。黒い眼球に紅の虹彩、鹿と言ったら草食系なのにこいつはどうだか肉食獣のような鋭い牙と二つの頭を持っていた。

何だこれは。


"ギヨヨヨェエ"間抜けな鳴き声をあげていた鹿みたいな生物は、試しに生齧りすると激しく震えたあと大人しくなった。どうやら死んだらしい。

不味い。これはないな。腐った肉の味がした。よくわからないがこのモンスターは腐っているのに動いているらしい。

凄まじい腐敗臭がしていたし、皮膚はなく肉が丸見えだったので食ってみたがないな。

これだったら土とか食べた方がマシだ。


◇◆2



うむ、いや、これは案外いけるな。

グチャグチャックチャ。

相変わらず鹿の化け物をかじっていた。

最初はゲロ不味だと思ったが慣れてくるとなかなかの珍味だ。"ウヴァエール"と一緒に飲んだら絶対会うんだろうが。

腐敗臭だと思っていたが、これはチーズとか熟成肉だとかそういう発酵した匂いだな。

歩く熟成肉……いいな。しかも皮が剥いであるとは親切なものだ。

あらかた食べ終わって今は心臓のあたりに入っていたピカピカ光る紫色の宝石みたいなものを口の中で転がしている。

目玉とか舌も案外いけたな。骨はバリバリしてスナックみたいだったし、おやつとして持っていこうとしよう。

で、最初はなんだこれ?と思って心臓の中に入っていた宝石を口に入れてみたがどうやら香辛料的な素材らしい。

五感が麻痺した最上位のハンターである俺でも舐めた瞬間、舌がピリッときた。

これは癖になるなぁ。


ここが何処なのか、モンスターの腹んなかなのか、それとも新大陸なのか知らんが、前の場所だったらハンターが暴れてたら何にも寄ってこなかったというのに。

ここではハンターがいないのか?いや、危機感が低いのか?


空間の歪みに飲まれて、青い空を寝っ転がってみていた頃から俺の感覚はいくつかの大型の生き物の息遣いと、2つの集団の気配を感じていた。

雷を撒き散らしあたり一帯を軽く灰にした時点で鹿のように逃げた生き物と近づいてきた生き物、二つに別れた。

その中の近づいてきた生き物達に、集団のどちらもが俺にジリジリと近づいてきているようだった。

集団になるとバカになるのか?船頭多くして船山登るだったか、プレイヤーに教えてもらった言葉だが、この状況が当てはまるだろうな。

一つの集団は奇声をあげながら行軍もあるかと言わんばかりに好き勝手動いている個々がかろうじて集団を保っているようなものと、息を潜めて動いている人間もどきの集団らしい。


プレイヤー達は、古龍やほかの巨大モンスターどもと一緒で何処からともなく湧いていた存在だ。見た目は俺たちと何も変わらなかったが、独自の価値観と我々とは異なる波動、神を欺くことに被疑感を感じない図太い精神を持っていた。

どういう意味だか知らないが、プレイヤー達は俺たちのことを原住民やらエヌピーシと呼び侮蔑していた。

助っ人として仲間になっていたハンター達にはよくしてくれていたが一般人には厳しかった態度を感じたのか、我々人間達はプレイヤーを称して人間もどきという敬称をつけて影でヒソヒソ言っていた。

一般人からしたらプレイヤーだけでなくプレイヤーと渡り合える我々ハンターも人間もどきだったであろうが、そうは言われなかった。

ともかく、今近づいてきている人間っぽい生き物は人間ではなくプレイヤーとも違う人間もどきらしい。


先に姿を現したのは人間もどきだった。

プレイヤーが舐めプと呼ばれるおふざけをしている時に来てくるような布の服を着ている女二人と見るからに防御力の低そうな金属っぽい鎧を身につけた金髪の男。

モンスターが生活を脅かしてくる世の中で布の服を外で着ている輩は頭が狂っている自殺志望者かプレイヤーだけだ。

恐らく前者だろう、プレイヤーなら今頃一緒になって森を焼いている筈だ。

男の右手を掴んでいる黒いポンチョ的なものに身を包んでた女。その女は頭にトンがったよくわからない帽子を被り、何の意味があるのか先程から口の中で転がしているなかなか美味しい宝石の大きい版的なものを枯れ木に埋め込んだ棒を持っている。腰には本があるが調査依頼でも受けているのだろうか。

俺たちハンターはプレイヤーとは違って脳内にマップが映し出されるわけでもないので新エリアを発見した際にはそこにいるハンターがマップを製作することになる。俺も若かりし頃は本を片手にマップ作りで生計を立てていたものだ。

しみじみしている場合じゃなかったな。

男の後ろ、狙ってくださいと言わんばかりに真っ白な服、袖の長いスカートを履き、キンキラキンの装飾品を首から頭から腕に手につけた悪趣味な女がいる。

胸元は大きく空いていて下品にも乳を見せびらかしているのだろうか。特殊な衣装である。なぜかこいつも棒を持っているが、こいつは棒までも金色で、しかも装飾が入っている。もしかして……流行り?

そして男だが上も下も鎧で左手には盾をつけ剣を抜身にして持っている癖に兜は被っていない。つくづく謎だ。

なぜ兜を被らない?頭が切られても死なない系なのか?

だったとしたらプレイヤーと同じだな。

そういう俺も兜はしていないが、頭を切られれば死ぬ。


俺はどう見ても人間だが、彼らも人間には見える。だが相手は剣を抜いており、男以外は意味不明だが二人の女もやる気満々らしい。


決闘だな。どうやら決闘らしい。

ヒャッハー、有り金全部置いていけ!命が惜しければ装備もアイテムも全部置いていけ!ってやつらしい。

彼らも金欠のようだ。


かつては命と誇りをかけた名誉ある決闘はプレイヤーの介入により地に落ちた。

モンスターに常に人類種全てが脅かされる世界で神は人々に同胞同士で争うことを禁止した。救済措置として神に背く覚悟をもつもの命をかけて争えと言うことで決闘というシステムが世界に導入された。

が、プレイヤーが世界に湧きだしてからしばらくもしないうちに、古参プレイヤーから何かしらの事情により金欠に陥った実力者プレイヤーが決闘で金や物品を強奪し始めた。

その中で先程の有名なセリフが生まれたのだった。

『ヒャッハー!有り金全て置いて行け!』

『これで許してほしい?ダメだお前を殺して全て俺が貰う』

人間として最低だな。だから人間もどきなんかと罵られるんだと言ったのだが真顔でネタだからと言われ大変困惑したものだ。

さて、どうも決闘。

いきなりわけのわからない場所にきていきなり決闘か。悪くないね。


あ、ああああぁ!!

奇襲という概念を知ってから知らずか大声を上げて切りかかってくる男。

ドタバタ走りながら剣を振りかぶり叩きつけようとするその様はまさに舐めプ。

どうせ直前に武器を持ち替えて至近距離で爆弾を起爆してくるとか、行動をキャンセルして高速移動とかそういうやり方をしてくるだろう。

そんな行動はもう慣れきってんだよ!


振りかぶり剣をたたきつけようとしている男の腹に蹴りを入れるとぐもった声をあげながら吹き飛び地面を何度か転がって動かなくなった。

女達が泣きながら詰め寄っているのが見える。

敵の前で仲間を救助している場合なのか?


いやそれより、マジか。よっ………わ。

いや弱すぎだろう。なんで決闘してきた?

今ので死んだのか?

いや咳き込んでいるらしい。まだ生きている。

俺はトドメをさすためゆっくりと近づくと黒いポンチョを着た女がキッと睨みつけ何かを唱え始めた。


◆◇3


「ềốẴỆịểỮ((ファイアーボール))」



女は棒を掲げなにかを呟く。命乞いか?

だとしたら態度がなっていない。睨みつけながらの命乞いというのは、いや、だとしたら……

ああ神頼みか。

神は死んだ。あんだけぽこぽこモンスターが湧くんだ神は死んだのだよ。まぁわからないか。

たく、だというのにまだ神を信仰している市民たちが信じられんよ。

そもそも神を称する龍を殺したのは俺たちだ。断言しよう神はしんだ。

神頼みでもお前たちに明るい未……


その思考は飛来した火の玉で打ち切られた。


火の玉。明らかにいま目の前の女が放った。

どう見てもおかしい、見間違いか?

そういえばハンターギルドの爺さんが年になってくると今まで殺したモンスターの幻がみえるとかなんとか。

俺も歳ということか。

眼医者にも行って診療して貰お。

「ềốẴỆịểỮ((ファイアーボール))!」


うわっ!やはり幻じゃなかったか。

再び飛来した火の玉に今度は避けずに当たってみる。

皮膚に当たった火の玉は弾けて消えた。

ハンターなら赤い普通の火の中なら裸でもダメージを受けないなんて当然だろ。

何を驚いてる?たしかにお前が使ったその奇術には驚いた。モンスターしか使えない能力じゃないか。ってね。

それを俺たちハンターも使えれば皮膚から毒を垂れ流したり切られた腕から体が生えて分裂したりとモンスターの能力を得てさらに強くなれるんじゃないかってな?


踊り子のように大きく足を振り上げた俺は、男にすがり何やら光を浴びせている白い服で胸元をあけた情婦?いやビッチか?そいつを無視して男の頭を思いっきり踏み潰した。


飛び散る血と、残る遺品(ドロップ)だ。

どういう訳か体から取れない鎧を死体を引きちぎって回収する。


下顎と首のない頭を掴んで耳をナイフで切り取る。討伐証明用だな。

見たことのない生き物だったし、多分人間ににたモンスターだろう。火を吐く人間はいないし。手から緑の光を出すのも見たことがない。

男の方は普通だったな。

雄は地味で雌は派手というモンスターも少なからずいるし、そういう系だったのだろう。

あれは生け捕りにしたら高くプレイヤーや有力者が買ってくれそうだ。


いつのまにか逃げたのかいなくなった女たちを無視して服や装備品のドロップを回収して行く。

ズボンを弄っていると何やら手に当たった。

取り出してみると銀色に光るカードだった。

「うん?なんだこれ」

曲がらない、よくわからない素材でできた綺麗なカードだった。

ああ、レアドロップか。俺は納得した。おそらく素材屋で高く買い取ってくれるとか、武器の強化素材とかそんな感じだろう。


あらかた剥ぎ取り終わった俺はもう一つの集団に見つからないように茂みに隠れて観察することにした


◇◆4

三人称視点です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






今まで東の森に異変はなかった。今日だって特に変わったことはなかった。

ゴブリンの討伐依頼を受けたCランク冒険者パーティ【赤龍の爪】は、お調子者でいい家の出で前衛を務める"戦士"のクラウン・アリスター。彼がリーダーを務め、法衣を纏った神官のリズ・ウェルトと魔法使いの私、ローズ・クエルティンが後衛を務めるバランスの取れたパーティだった。

登録して数ヶ月でCランクまでランクを上げ期待の新人として評価され、街に襲来した飛龍の討伐をAランクパーティとともに手伝い見事に補佐してみせたことからBランク昇格も近々だった。

だから私達は、緊張感に欠けていたのかもしれない。

良家出身で幼い頃から英才教育を受けた天才戦士のクラウンが敵を迎え撃ち、私が魔法で焼き払い、リズが回復魔法や補佐魔法を使いサポートする。

無敵だと思った。

飛竜だって高位の冒険者がいたがそれでも倒してみせた。

まさか強力なモンスターが東の森に現れるなんて思ってもなった。



最初はリーダーのクラウンがゴブリンの食事の跡、痕跡を見つけ足取りを探していた時に始まった。


南側、遠くには龍が住むという山脈がそびえる方角に突然とてつもない強大な存在が現れた。

遠くだった。リーダーのクラウンは魔法の才能を持たなかったから魔法使い独特のオーラというものを感じなかったらしい。私達魔法使いは、魔力を感じる上でそれぞれの生き物が持つオーラというものを知る。

例えば人間であれば青い色、龍であれば赤、魔物であれば黒といったくらいだ。

森の中に現れたそれは人間だった、でも人間とは思えないほどの膨大なオーラと、純粋な人間ではないようで青いオーラの周りに赤や黒のオーラが舞っていたいた。

観察していると急激にオーラが膨れ上がった。

明らかにやばい。


そう考えた瞬間森が消失した。

黒い閃光が森を火すら起こさず消しとばし凄まじい爆音が辺りを包んだ。


私は二人に一旦街に戻り応援を呼ぶなり、報告するなりした方がいいと進言した。

だが二人は聞く耳を持たなかったし私も強くは止めなかった。

今までも上手くいったし今回だって上手く行く、そんな甘い考えがあったんだと思う。






森をかき分け黒い閃光のほとばしったあたりまで来た私を出迎えたのは、イビルティーを貪り食う巨大な何かだった。

イビルティーといえば魔界の住人である悪魔が召喚する腐敗した肉体をもつ鹿型の下級悪魔でそれでも単体でBランク。近くにはそれを召喚した悪魔、少なくともAランク推奨とされる敵が潜んでいることは確かだった。

イビルティーの腐肉を貪り食う大男はただただ不気味だった。

どうやらこちらに気づいたようで振り向いてわかったその姿は人間そのものだったが、オーラは魔物のようだった。

腐肉を貪り食う巨大な人間がただの人間のはずがない。

人間であって人間じゃない吸血鬼に身を連ねるものかもしれない。


見た感じ山賊か未開の地にすむ蛮族のようにしか見えない汚らしい野蛮な格好をした大男は、目に止まらぬ速度で迫ったクラウンに動じずただ棒立ちになった。

突然切りかかった彼には驚いたものの、討伐しようとは思っていた。奇襲は成功した。

最初は勝ったと思った。何せその大男はうわの空で棒立ちで手には禍々しい剣を手にしていたが、構えているわけではなくだらしなくただほんとうに突っ立っているだけだったのだから。

だから、だからこそ。

クラウンが吹き飛ばされて転がって動かなくなったことに私もリズも反応出来なかった。

いや反応は出来た。地面に何度も身体をぶつけて転がってきたクラウンに駆け寄った。でも頭は混乱していて、自分がクラウンを呼んでいる声が何処か人ごとのようでふわふわした感じだった。

絶対勝てないとわかっていたのに、私は変なリーダーシップを感じてリズにクラウンを回復魔法で治療するように頼んで、私は渾身の力を振り絞って火魔法を撃ち込んだ。


一発目は避けられた。

まるで初めて魔法をみた子供のような顔をしていた。魔法をみたことがないなんて有り得ない。知能が低くて沢山いる1匹見たら100匹いると考えろと言われているようなゴブリンだって魔法を使えるのだから。

そうだ。きっとこんな小娘に魔法が使えたのか。そんな侮りと驚きなのだろう。

二発目に打ち込んだ火魔法のファイアーボールは、避ける大男に吸い込まれるようにぶち当たり爆炎をあげた。天まで昇る炎の渦が大男の身を焼く……はずだった。

無傷だった。

装備も、露出した肌も火を弾いているように見えた。

瞬間移動してきたように見えた大男が横たわるクラウンの頭を潰すのは、一瞬だった。


グチャッ!!


その光景が信じられなかった。

だからこそその光景をみた瞬間、私の頭の中に先ほどの戦闘というにはおこがましい。出来の悪い寸劇を思い出させたのだった。



幸いなことに大男はわたし達から眼をはなした。

その隙に逃げよう。

私は大男がクラウンの死体を素手で解体して行く様を横目に震えながらリズの手を掴んだ。

一刻も早く、クラウンの死体に気を取られているうちに逃げなきゃ。

私は、ファイヤーボールを2回うち、魔力が減りすぎてふらつく体に鞭を打って空間魔法でテレポートを使った。


((テレポートッ!!))


景色が移り変わる。

白い法衣を纏った神官のリズの手をとり一目散に逃げていたのが功を制した。


泣きながらクラウンに謝るリズを連れてのテレポートだった。



冒険者ギルドの建物内にテレポート出来たことを確認した私は、安心して気を失うことが出来たのだった。

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