第4話 恋人として。

「これが、街……!」


 はじめて踏みいった多種族国家ミーグの城下町。

 獣人や竜人、魚人など様々な種族が行き交う道は、長く太い一本の道を主軸に枝のようにわかれている。

 そしてその一本の道をまっすぐ見据えると、大きな門と城が見えるのだ。


「ばれないうちに、私の家にいこう」

「はいっ」


 大きな通りを少し歩き、やや細い道へ進路を変える。

 すると見えるのは、普通階級の人々が住まう住宅エリアだ。


「ここだよ」


 立ち止まった先に、ルーさんの家があった。

 レンガ造りの、二階建ての立派な家。


 ぎぃ、と扉をあけると、まるで雑貨屋のようにカウンターと、その上に乗せられた薬品のようなものが目につく。


「お店……?」

「そう、私はここで薬を売って、時々旅して暮らしてるんだ」

「薬、ですか」

「私は探索と自然の魔法が使えるから、薬をつくるのなんて容易いよ」

「そうなんですね……!」

「さぁ、私の部屋へおいで、こっち」


 二階へあがり扉をあけると、ベッドや机、山のように積まれた本があった。

 ここが、ルーさんが暮らす部屋。

 なんだかワクワクする。

 私の好きな人が長い時間を過ごした場所。

 置いてある物も、匂いも、床のちょっとした汚れや傷も、全部あなたの軌跡なんだから。


「少し狭いけど、このベッドでしばらくは一緒に寝ようか」

「いっ、 一緒に、ですか」

「大丈夫、えっちなことはしないから」


 そんなことを心配したわけではないけど、彼女はいじわるな笑顔を浮かべる。

 思わずそういう行為のことを妄想して、顔が熱くなってしまった。

 でも、いつかはと思うと、ドキドキと、はじめてでどうすればいいかわからない不安が押し寄せてくる。


「とりあえず、私は少し調合をするよ」

「わかりました」

「手伝ってくれるかな?」

「もちろんです」


 ルーさんは細長いガラスの瓶に、色々な植物をすりつぶしたり、搾ったりして薬を調合していく。

 私は言われた材料を二階の別部屋の倉庫から持っていくだけだ。

 でも、彼女の時間に干渉できることも、一つの物を二人でつくることにも、喜びと幸せを感じる。


 やがて時間は流れ、街に着いた頃はまだ太陽が高かったのに、いつしか沈みかけている。

 と、ある程度の調合を終え、ルーさんが私に声をかけた。


「ご飯、買いにいこうか」

「角、ばれないですかね」

「大丈夫、薄暗いから」

「でも不安です……」

「そうだなぁ……あ、確か倉庫に私が昔使っていたフード付きの上着があったはずだよ」

「使っていいんですか?」

「もちろん、ぶかぶかかもしれないけどね」

「……やった……!」


 ルーさんの言うとおり、袖に手を通しても通りきらなかった。

 つまりはぶかぶかってこと。

 でも、フードも大きいおかげで額と赤い目までも隠すことができた。

 これなら安心だ。


「よし、行くよ」


 ドアをあけ、最初に目にした大きな通りへ出た。


 炎の魔法石が使われた街灯は、オレンジ色の光を放ち、昼間とは違う賑わいをみせていた。


「手、握って離れないで、ナンパされちゃうからね」


 私が可愛いから、とでもいいたげな表情でこちらに笑顔を向けるルーさん。

 なんだか、照れくさい。

 恋人になる、と名言したわけではないけど、約束もしたわけではないけど、きっとそういう関係に発展できたのかな。

 そんなことはないか。

 まだ出会って間もないし。

 でも、もしかしたら――


 なんて考えていたら、ルーさんが歩みを止めたので私も立ち止まる。


「いつものをくれないか」

「お、ルークスさん今日は一人じゃないんだね、娘さん?」

「いや、恋人だ」


 その言葉を聞いた瞬間に、どくんと大きく鼓動した心臓。

 私は女の子で、ルーさんも女の人で。

 種族も違えば、恐らく年齢も違う。

 そんな私を、恋人として堂々としていてくれることに、喜びが溢れてきた。

 私は一層深くフードをかぶり、顔を隠した。

 それをみた店主が、可愛い彼女さんだね、と笑う。

 照れている間に買い物は終わったらしく、家までの帰路に着く。

 恋人と、手を繋いで歩きながら。

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