第27話その女—水越美鈴—①

 中間テストも終わり、6月に突入した日差しはそろそろ夏を感じさせる暑さとなっています。そして、私の直近の一大イベント『体育祭』まで、いよいよ二週間を切ろうとしているところです!

 授業では体育祭の予行演習や種目別の練習、人によっては放課後まで残って応援合戦の練習をしています。まぁ応援合戦とは名ばかりで、実際は集団ダンス披露大会何ですけどね……。応援合戦は応援団というものに入るのですが、基本的にスクールカーストの高い方々が中心となっているため、熱量がすごいのです。私と佐奈は応援団自体には入らなかったのですが、何もしないという訳にもいかないので、小道具のお手伝いとかで陰ながら支える立場に置かせてもらっています。

 そういうわけで、今日も今日とて私と佐奈は放課後に小道具の製作を勤しんでいるわけですが、


「ねぇ栞里、もう今日は帰らない?」

「ダメだよ佐奈!? なにナチュラルにサボろうとしているの!」

「だって、何であたし達があのリア充たちのために下請け仕事しないといけないの?」

「い、いやぁでもホラ、私たちがあの中に混じってダンスするのもついていけないしさ。かと言って何もしないってのもちょっとアレだし……。人間関係を円滑に進めるためと思って、ね?」

「栞里って昔からそうやって周りに気を使うよね。……ま、あんたがそう言うならあたしも手伝うけどさ」

「さっすが佐奈!」


 ぶつくさと文句を言いながらだが、何だかんだ一緒に手伝ってくれる佐奈のおかげで、だいぶ小道具や衣装の制作も進んできたのでした。このまま順調にいけば、体育祭の一週間前には完成できそう。

 すると、廊下から大勢の声が聞こえる。どうやら応援団が練習を終え、帰ってきたみたいだ。中でも、とりわけ響き渡る声はクラスのアイドル的存在——水越美鈴ちゃんだ。


「いやぁすごいよみんな! これなら体育祭の応援合戦もうちらが勝ったようなものだね!」


 お手本のような笑顔で語りかける美鈴ちゃんに、男子たちも思わず笑顔で頷くばかりだ。まぁ私から見ても美鈴ちゃんは可愛いからね仕方ないね。

 っと、不意にこちらを見やった美鈴ちゃんが、「はんっ」と鼻で笑うとこちらに近づき、


「栞里ちゃーん、私たちのためにそんな貧民層みたいなお手伝いをしてくれてありがとねぇ? ほんと、栞里ちゃんみたいな引き立て役がいてくれて、私たちすっごく助かってるの」


 男子に見せたような、満面の笑みで私に語りかけてきた。

 ……どうやらお礼を述べてくれているのかな? んー、やっぱり人から感謝されるって気持ちがいいなぁ!


「い、いやぁ、私なんか別に」

「あら? これ私の衣装、できたの? 合わせて見ていいかな?」

「あ、うん! 私不器用だから下手かもだけど、頑張って作ったから気に入ってくれると嬉しいなぁへへ」


 そう言いながら、指定されていた通り丈の短い学ランを美鈴ちゃんに渡すと、その場で試着した美鈴ちゃんが、


「あれ……ぷぷ……ねぇなにこれ、ちょっと短すぎじゃな〜い? ねぇみんな、これはさすがに短いよねぇ?」


 笑いながら周りにその姿を見せている。どうやら指定されていたより短すぎたようだ。周りもその様子に同調し笑っているのだが、


「美鈴、あんた栞里に作ってもらっておきながら、なにその態度は! それに、今から作り直したら時間がっ……!」

「やめて佐奈、いいの!」

「でも栞里!」


 佐奈の一言で場が静まりかえる。どうやら佐奈は私のために怒ってくれたらしい。ありがとう佐奈、でもいいの。だって美鈴ちゃん達にはきっと、きっと……。

 私は一瞬だけ目を瞑り、深く深呼吸をするとまっすぐに美鈴ちゃんを見つめ、


「美鈴ちゃんたちはきっと本気で勝ちにいっているんだよ。だから少しの妥協も許せないんだと思う。私は……そんな美鈴ちゃん達の気持ちに応えたい!」

「「……は?」」

「頑張ろう美鈴ちゃん、頑張ろうみんな! えいえいおーっ!」

「「——……はっ?」」


 佐奈と美鈴ちゃんはキョトンとした顔をしているが、他のみんなは戸惑いながらも一緒にえいえいおーをしてくれた。やっぱり勝ちたいんだね!

 

「はぁ、もういいわ。それじゃあ栞里ちゃん、これ作り直しといてね。行こうみんな」

「うん、私頑張るから、美鈴ちゃんたちも練習頑張ってね!」

「……」


 俯いたまま、美鈴ちゃんは荷物を持って教室を出ていってしまった。どうしたのだろうか。


「美鈴ちゃん……頑張りすぎて疲れてるんだね、心配だなぁ……」

「あたしゃあアンタの脳内お花畑の方が心配だよ……」


 隣では佐奈が深いため息を吐いていた。みんな疲れているのだろうか。いや、それだけみんな体育祭にかける思いがあるのだろう。私も今年の体育祭は特別なものにしたいし、う〜……気合入ってきたぁ!

 テンションの上がってきた私は、再度学ランに手をつけるのであった。

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