第18話席替え大作戦①

 ゴールデンウィーク明けの学校は何とも身体がダルい。休みの間はお昼近くまで寝て、朝方まで起きていてしまう。そうして生活リズムを狂わせた学生たちは、だいたい寝不足そうな表情をして登校するものだ。

 かく言う私もその一人で、今日は大変寝不足でございます。なぜ寝不足かと言うと、


「あ、神泉さん。おはよう」

「〜〜っ! 倉敷くん、お! おは、おはしゃす……」


 倉敷くんと会えるのが楽しみすぎて寝れなかったから! そして相変わらず照れて挨拶がまともに返せない……。

 しかし、久しぶりに会えたという事実は嬉しいものだ。私が上機嫌で席に着くと、すでに教室に居た佐奈がやってくる。


「あらー栞里ちゃん、何だか朝から機嫌良いじゃないの」

「ふふーん、何てったって今日も朝から倉敷くんと挨拶できたのです。そりゃあ機嫌もよくなるよね!」

「あんたデートまでしたのに、よく挨拶でそこまで上機嫌になれるよね」

「挨拶をバカにするなぁ!」


 挨拶はとても重要なんだぞぉ!

 相変わらず佐奈が茶化してくるが、一応ここ最近の私と倉敷くんのことは話している。なんだかんだ言っても、やっぱり佐奈が一番の友達だ。嬉しいことも、悲しいことも共有したい。……まぁ最近は私が一方的に共有しているんだけど。


「それにしても、ゴールデンウィークが終わると一学期も半分が過ぎたって気がするわよね」

「実際はまだ三分の一くらいだけどね」

「早く夏休み来ないかしらねぇ」

「私は休みいらないけど……」


 だって特別な理由がないと倉敷くんと会えなくなるしね。そんなの辛すぎるうわあああ!


「ちょっと前の栞里にそのセリフを聞かせてあげたいわ」

「私もそう思う……」

「くぅ、ハニかんで言うんじゃないよ可愛いなぁ全く! 」


 でも本当に、倉敷くんに恋をしてから私の学校生活は一変したのです。学校がこんなにも楽しくなるなんて思いもしなかった。

 これからもこんな生活が続いて欲しいと、私は切に願う。


「そんな栞里に朗報だよ。なんと今日の6限目のホームルームでは席替えをするみたいです。……この意味、わかる?」

「え、席替え、席替えはそりゃあ今の席を変える……はっ……——!?」


 席替えですと!? 今は出席番号順に並んでいるこの席配置を、ごちゃ混ぜにするあの席替えですと!?

 ちょっと前までの私なら対して気にも止めなかっただろう。後ろの席に行けたら良いなぁくらいにしか思わなかっただろう。しかーし! こと恋の乙女となってしまった今の私にとって、それはどれほど重要な意味を持つか……。


「お分りいただけただろうか……」

「佐奈、私……私っ!」


 倉敷くんの隣になりたい! 隣の席になれたら、どれほど学校が楽しくなることか。今でも楽しいのに、もっとハッピーになっちゃう!


「まぁでも、どうやらクジ引きらしいからどうしようもないんだけどね!」

「うぅ、今から緊張してきた……」


 知らない方が授業に集中できたのではと内心思いつつ、私は6限目まで祈りを捧げ続けたのでした。


◇◇◇

〜同日6限目ホームルーム〜


 担任の先生からプリントが回される。残り一学期の予定表だ。ゴールデンウィーク明けということもあり、今日のホームルームとしてはどうやらこれの説明が本命のよう。

 まず5月は中間テスト、6月に体育祭、そして7月に期末テスト。それらが終わってようやく、生徒待望の夏休みが訪れるらしい。

 体育祭までまだ約一ヶ月あるのかぁ……。楽しみなだけに遠く感じるなぁ。というか、中間テストの存在を忘れていた……。もうそれだけで憂鬱だよ。

 先生が30分ほどプリントの説明をし終えると、いつの間にかクラス委員が前に立っており、


「えぇ、それでは今日のホームルームの残り時間は席替えとなります」


 クラス中で大きな歓声が湧いた。やはり学校に置いて席替えは重大イベントみたい。

 倉敷くんの方を見ると、どうやら倉敷くんもそわそわしているご様子だ。やっぱり気になるんだね可愛いっ!

 その様子が可愛くてつい眺めていると、倉敷くんがチラとこちらへ一瞬振り返り目が合ってしまう。相変わらず目が合うと、胸がドキドキして顔が真っ赤になってしまう私は、すぐに視線を逸らしてしまう。

 うぅ、なんとか、なんとか倉敷くんの隣に……!

 果たして私の祈りは届いてくれるのだろうか。運命の席替えが今始まる!


 ……後ろから眺めてるのも割と好きなんだよなぁ……。

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