第12話静かな森大作戦③

「こここここでぃす……」

「大丈夫神泉さん!? 歩き方がロボットみたいになってるけど!?」


 倉敷くんが笑顔可愛いなんて言うからでしょう!? もう何なのこの人、臆面もなく可愛いなんて言って、普通はそう言うの言い難いもんでしょ。……あぁそうか、人のことをちゃんと褒められるってのは良い人の証だもんね! 中々できることじゃないもん。 やっぱり倉敷くんは優しくて良い人なんだ好き!


「……私、ロボットダンスが趣味だから」

「え、なんで今その披露を!?」


 まぁ、倉敷くんが人のこと褒められる良い人ってわかっても、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだけどね!


 はてさて、集合時間こそ早まってしまったが、結局予定通りの時間に目的地『カフェQuiet Forest』にやってきた私たちは、木目調の扉を引いて中に入る。

 扉につけられた鈴の音が鳴り響く店内は、ブラウン色の木材で作られ、葉や蔦など、まるで本当に森の中へ訪れたような装飾が施されている。店内を包み込むようにコーヒーの香りが鼻腔を突き、そこにいるだけでリラックスできるこの空間が私は大好き。

 カウンター席がいくつかと、テーブル席が6つ。真ん中にソファー席が2つある。ちらほらと先客が入っているようだ。知る人ぞ知る名店だからね仕方ないね(私調べ)。


「いらっしゃい、あっ栞里ちゃんね。連絡くれていたから奥のテーブル席を取っておいたわぶぅふぇっ!?」


 カウンター越しから、なんだか突然吹き出したお姉さん——絵里香さんは奥のテーブルを指差していた。テーブルの上には『予約席』という札が立てられている。絵里香さんには事前に行くと連絡していたから、気を利かせて取っておいてくれたのだろう。……まぁ、誰と行くとは言っていなかったが。

 私とちょうど一回り年上の絵里香さんは、私と兄がまだ小さい頃からよく面倒を見てくれていて、本当の兄妹のように可愛がってくれていた。身長が170センチはあるだろう絵里香さんは、切れ長の目に高い鼻筋、整えられた各種パーツで、まるでモデルさんのように美しく、お兄ちゃんの話では絵里香さん目当ての常連さんも跡を絶たないとか。


「しっ栞里ちゃん……お、おと……男の子……?」


 絵里香さんは目を明滅させ、驚愕の表情を浮かべている。私はカウンターに近寄り、絵里香さんに耳打ちするように、


「あ、あの絵里香さん……その、びっくりしたと思うんだけど、あの男の子は私を助けてくれた恩人で、えとその」

「恩人……?」


 絵里香さんだから大丈夫と思っていたけど、やっぱり身内に好きな男の子と居るところを見られるのは恥ずかしい。顔赤くなってないかな大丈夫かな。

 私に耳打ちされた絵里香さんは、一旦の顔から離れると、私の顔を見るなりニヤリと笑い、


「……ほほう?」

「ほほ、ほほうじゃないから……! ほほ本当にただの恩人なんだから!」

「はいはいわかったわかった。もうそんな焦らないの。ホント栞里ちゃんは可愛いねぇ」


 あたふた説明する私を絵里香さんは笑顔で見下ろす。昔から私に何かあると頭を撫でてくれる絵里香さんは、本当にお姉さんみたいだ。


「それじゃあ、男の子が入り口で待ちぼうけ食らってるみたいだし、早く戻って奥の席に連れて行ってあげて」

「あ! うっうん!」


 私は小走りで戻ると、倉敷くんを連れて奥の予約席へと向かう。

 予約席のテーブル前まで行き、通路側と壁側のどちらの椅子に座ったらいいか私が悩んで居ると、倉敷くんが壁側の方を勧めるように手を向けると、


「あの……えと、俺お手洗い近いからさ。神泉さんそっちどうぞ」


 そう言うと、壁側を私に譲ってくれた。優しい……。本当にお手洗いが近いのかもしれないけど、その真偽は今必要ではなく、私が奥に座る『理由』を作ってくれたことが優しいのです。どちらに座っても私は気にしないけど、私のことを気にかけてくれたという事実が、すごく嬉しい。

 お互い席に着き、テーブルに一つだけ置いてあるメニュー表を一緒に眺める。


「あ、あのね、このロコモコがすごく美味しいんだけど、オムライスもすごく美味しくてね、あっあとこのサラダはドレッシングが自家製らしくて、えとね」

「ふふ」


 メニュー表をめくりながら、私が考えるおすすめメニューを紹介していると、倉敷くんから楽しそうな笑い声が聞こえた。


「あぁ、ごめんね。神泉さん、ここが本当に好きなんだね。すごく一生懸命に紹介してくれるから、何だか聞いてると楽しくなって来ちゃって」


 顔が赤くなっていくのを感じる……。私そんな一生懸命だったかな!? いや確かに、ここのご飯は美味しいから色々伝えたいんだけれども。


「えと、ごごごごめんね」

「あ、ちち違うんだよ! なんと言うか、いつも俺には静かな神泉さんがこうやって楽しそうに話しているのあんまり見ないから、神泉さんのことまた色々知れたなってのが嬉しくって」

「……さ、さいですか……——」

 

 プシュ〜と頭から湯気が出ていないだろうか。ただでさえ瞳が点なのにさらに目が点になっていないだろうか。

 ハニかんだ笑顔を見せる倉敷くんが眩しい! じゃあもっと色々お話するよって言いたいけど、そんなこと言われたら嬉し恥ずかしで喋るの緊張しちゃうよぉ!


「え、えと……食食食食後にはこのcoffeeもオススメで」


 緊張しすぎるあまりネイティブな発音をしてしまった恥ずかし……。

 私は今日生きて帰れるのだろうか?

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