インクリーズベーション

奥田啓

第1話

なにもない真っ黒な背景の中

声だけが聞こえる

「これであってます?」

若い男の声

「わからない。たぶんこれでいいとはおもう」

続いてすこし年老いた声

「じゃあもうこれでいいですね」

「ああ」

「わかりました」

「じゃあこれでいきますよ」

「たのむ」

ゴトン

ゴロゴロ…




彼女はおれのものをなめてくる

「したやばい」

「きもちいい?」

「うん」

「かわいい」

「あーやばい」

「やべぇもうがまんできないからいれていい?」

昼間から性行為に勤しむ。人間的には堕落的で動物としては正しい行為。

「うんいいよ」

おれはすかさず彼女のなかに入ろうとする

「あっだめ」

「えっ?」

「今日はつけて」

「なんで、いつもつけないじゃん」

「いや、危険日だし」

「危険日のときだってつけてなかったじゃん」

「いいからつけてよ」

「なんだよ…わかった」

ここで抵抗してできなくなるのは避けたいからしぶしぶゴムをさがす

せめていつもの感度にちかいものにしたいのでいちばんうすいやつをつける

なにか抗ってるようにもおもえた

こんなのつけたっておれにしか違いはわからないけど。

「じゃあいれるよ」

「うん」



「はあはあ」

「やばかった」

「まじ今日エロかった」

「そっちだって」

すぽっと抜くと

中に白濁がたまっている。

「ほらこんなにでた」

白濁がたまったものを彼女に近づける

「やだちかづけないで」

「なんでよ」

「もういいから捨てなよ」

「はいはい」

敷布団からすこし離れたゴミ箱をひきよせ

そこに捨てる

そして横になってる彼女のとなりに

おれも寝る

「ねえ」

「うん?」

「そういえばさあ、まえにご飯一緒に食べた紗千香いるじゃん」

「ああ」

すこしまえ友達が会いたいんだけどと言ってきて会った友達だ。

彼女の友達と会うというイベントは値踏みされているようで嫌になるが、

ずっと抵抗している方が疲れるし、不信感を与えるような気もするので一応参加したが案の定だるかった。

「なんか彼氏にプロポーズされて結婚することになったらしいよ」

「ふうん」

「いいなあ」

「なんか最近周りが結婚してきてさあ」

「まっそれぞれの結婚のタイミングってあるよ」

おれは彼女のわかりやすいプレッシャーを稚拙な言葉を用いてかわし続けている。

かわせてると思っている。

一番結婚でプレッシャーなのは子供だ。

絶対子供を作ることになる。

それが一番嫌だ。

自分の血が入ったら人間をこの世に産み落とすという行為自体が恐ろしい。

「子供欲しい」という言葉はナルシズムの究極系だ。自分のような人間がもう一人存在してもいいということだろう。

とてつもなく根っこの部分で自分を愛している証拠だ。

おれはろくなもんじゃないとおもってる

おれなんかがもう一人いたら腹立つ。

だから子供は欲しくないし、もちろん結婚もしたくない。

だけど性欲は処理しなければいけない。

もう一回しようとしたが

「やばい忘れてた」

「ん?」

彼女があわてて起き出す。

「今日偉い人との商談同行しなきゃいけなかった」

「まじ?土曜日にかよ」

「そう、やばいかえる」

彼女は早々に支度をして

家から出て行った

なんだよ。

まあいいや。

なんか眠くなってきたしちょっと寝ようかな

布団にどかっと寝て。

そのままおれは落ちた。

…パキッパキパキ。



目が覚める。すっかり暗くなっていた。

寝過ぎたようだ。

腹も減った。なんか買いにいくか。

財布どこやったっけ。

動き出そうとするとぬるっとしたものにぶつかる

「うえっ」

変な声がでた

足元にはよく見えないが大きなへんな塊がある。

あわてて電気をつける

すると

「ひいっ!!」

なにか白いものにくるまった男がいた。

「な、なんだこいつ!!」めをつぶったまま起きない。

どうやってこんな…

近づくと異臭がした。

臭かったがこのにおいには見覚えがあった

その瞬間青ざめた

なにかに包まれている。

それはさっき彼女としたときに捨てた

コンドームだった。



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インクリーズベーション 奥田啓 @iiniku70

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