「怪事贋作」

ゴジラ

「怪事贋作」


 これから聞いてもらう話は、新潟にいる祖父から聞いた話である。

 初めて聞いた時は半信半疑ではあったが、あまりにも事実と重なる点が多かったし、事件が起きた村というのが、紛れもなく祖父の生まれ育った故郷であることや、実際に祖父は自らの手で調査に当たったことがあるとまで聞かされると、信じるほかなかった。

 しかも「目撃者の一人は私だ」と言うのだから。



  1  鉄道問題


 1898年7月。

 この年は新潟県長岡市に北越鉄道一ノ木戸〜長岡間が開通した年である。

 しかし、開通までの背景には少し不思議なドラマがあった。



  2  対立



 遡ること1892年5月。

 北越鉄道は直江津から長野へ向けて路線を伸ばす予定であったが、資金不足から建設の見通しが立たなかった。そこで実業家の渋谷平一郎氏に東京から資本家を呼び込んでもらい、建設資金を蓄えることに成功する。

 しかし、ここで一悶着が起こる。沼垂駅(当時の終着駅)から長岡駅方面まで開通を求めた東京資本家側と、萬代橋に駅を設けたいという新潟県出身者である北越鉄道重役たち数名との間で、思惑の相違があったのだ。

 この意見の食い違いは大きな問題となり、両サイドとも一歩も引かない均衡した状態でおよそ三年間にも渡って、話し合いが行われた。その議論の内容はここでは言及しないことにする。当時のものがそのまま残された会議の議事録は新潟県長岡市市立図書館に保管されているはずだから、気になるならご自身で確かめて欲しい。

 祖父の父、石川宣成は、事件が起きた当時の北越鉄道重役の一人であったらしく、その時のことをこう語っていた。

「対立する意見なんて実際にその立場にならなければわからないことの方が多いと思う。しかし、あまりにも時間をかけ過ぎているのは間違いない」と言って、幼かった祖父や妻のエリに愚痴をこぼし、毎日のように酒を浴びるように飲んで荒れていた。

 しかしながら、この三年という莫大な歳月をかけた議論は、思わぬ「事件」がきっかけとなりあっさりと終結を迎えるのだった。



  3  事件〜和解



 1895年5月。

 新潟県長岡市大卯祖村(現・河地村)の農場にUFOが墜落したとの通報が入った。

 当時、大卯祖村に住む目撃者の証言によると、UFOのパイロット(火星人)は墜落直後に生き絶え、大卯祖村の住民たち数名によって埋葬された。(葬儀まで行われたらしい)

 そして、煙突型のUFOの断片は(墜落時に風車に直撃し機体は粉々になった)井戸に放り込まれたとのことらしかった。

 この事件に大卯祖村の住民だけでなく、長岡市全体が大騒ぎだった。

 また全国各地の新聞社も「宇宙人が日本に侵略した」と、こぞって見出し一面の記事にしたらしい。

 もちろん、その騒ぎは北越鉄道重役や東京の資本家たちの耳に入らない訳がなかった。事故発生後の直近の会議で議題に挙げられるのは必須で、代表者数名を選抜し、「長岡市大卯祖村UFO墜落事故」の現場を見に行くことになった。

 この時、北越鉄道重役側の代表者であった河村敬次郎氏はのちにこう語ったらしい。

「大卯祖村。ここは神の降り立つ場所なのだ。我々の不毛な議論の終わりを暗示しているのだろう。長岡に電車を開通させようじゃないか」

 また、東京資本家側の代表者の一人である西野慧氏も同様に「神」について言及したらしい。

「この村には人知を超えた何かがあるに違いない。神の存在はここ大卯祖村にて証明された。線路を設けて、誰もが参拝できる大きな場所へと発展させようじゃないか」

 そうして河村氏と西野氏、両名による報告が為され、三年に及ぶ議論に幕が下りた。北越鉄道側も東京の資本家側も二人の報告を聞いた途端、大卯祖村へと一目散に向かって行ったらしい。

 それから急ピッチで一ノ木戸〜長岡間の線路開通工事が決行された。

 1895年6月のことだった。



  4  それから



 その後、国を挙げて「長岡市大卯祖村UFO墜落事故」の本格的な調査が行われた話については今更言うまでもないだろう。

 国力を挙げた総力戦の調査ではあったが最終的には何も手がかりが見つからず、「目撃者によるでっち上げの嘘」といった捏造説として一度は片付けられた。

 しかし、最近の研究では新たな推論とそれを裏付ける証拠品の発掘により、真相の究明を急いでいるらしい。未だに幾つものテレビ局が企画を立ち上げ、調査に当たってはいるがUFOが実際に存在していなかったことを証明するには至っていないようだ。



  5  最後に



 祖父が亡くなってもう10年になる。私が幼い頃、こんな風に当時の出来事を優しく話してくれた祖父の笑顔や声を昨日のことのように思い出す。

 一応、最後に言っておくが「目撃者によるでっち上げの嘘」と言うのは、祖父の証言かもしれない。

 だって、生前の祖父は酒に酔うと大笑いしながら決まってこう言うんだから、信用ならない。

「みんな、俺の話を信じるもんだから、びっくりしたなあ。でも父さんがまともに戻って本当に良かった。これで良かったんだよなあ」

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