第2話:期待外れな結果となりました



 魔法陣の中央でしゃがみ込んでいる黒髪の少女。

 神官達は顔を見合わせ、ざわめき出す。

「これは・・・・・・どうなんだ?」

「まさか、失敗?」

 異世界召喚に成功したというのに、呼び寄せた救世主が少女ということで、皆が戸惑いを見せているのには理由がある。


 このサージェルタ王国の初代国王。

 彼こそ一八六年前、異世界召喚で呼び寄せられた救世主だった。


 当時は四方を山に囲まれたこの地を三つの国が治めていた。

 魔物は山に住み、山中の生き物を食料としている。

 しかし魔物の数が増えれば、足りなくなった食料を求め、魔物が人間の住む領域へと姿を現す。

 そして人間が育てた野菜や果物、飼育している家畜を襲い、奪う。

 それだけでなく、魔物にとっては人間も食料となるのだ。


 魔物の大量発生による人的被害と食糧難。

 このままでは魔物に人間が滅ぼされてしまう。

 仲の悪かった三つの国は、人間同士で争っている場合ではないと、魔物討伐のために力を合わせることとなった。


 三つの国の武力、魔法、魔術を総動員して駆使しても、厳しい状況が続いていたある日、神殿から朗報が届いた。

「神託が下りました!」

 魔物を圧倒する力を持つ人間を異世界から召喚する。

 秘術、異世界召喚は、神から授けられた魔術だった。


 そうして召喚されたのは、この世界の誰も敵わない武力と魔力を持つ男。

 恐ろしく強い魔物でさえも簡単に倒してしまう。

 人々は神が与えてくれた救世主に熱狂した。


 魔物が人間の生活領域に姿を現さなくなり、平和を取り戻した頃、三つの国は一つとなった。

 救世主、ロベリル・フォル・サージェルタ。

 人々は彼を新しい国の王とし、サージェルタ王国が誕生した。


 そんなこの国の成り立ちを知らないのは、まだ何も教わっていない赤子や子供のみ。

 だからこそ、神官達は異世界召喚される者は、きっと体格のいい成人男性であろうと思い込んでいたのだ。

 

「父上」

 王太子が国王へと声をかける。

「何だ?」

「私たちの先祖である初代国王は、異世界からの召喚者であり、剣の腕も魔法の力も誰も太刀打ちできない実力者、まさしく救世主であったと伝えられております」

「・・・・・・そうだな」

「今回もきっと初代国王と同等の力を持つ、男の武人が召喚されると、誰もが期待していたことでしょう。なのに、どういうことです? あんな小娘では期待外れと言ってもいい。・・・・・・もしかして、失敗したのでは?」

「いや、まだわからんぞ」

 王が上段から下り、そこに立つ神官長のもとへと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る