チャーリーゲーム

「チャーリーゲームって知ってる?」


 聞かれた時点で拒否権は無かった。私はチャーリーゲームに参加することになった。道中聞けば、それは巷で大流行りの降霊術だという。何でも知ってる悪霊を降ろす、こっくりさんみたいなもんだとか。嫌な予感を覚えつつ、悪友に引きずられて見覚えのある狭い部屋にたどり着く。二人の友が酒を片手に陽気に挨拶した。なんでわざわざ私の部屋でやるのか……ため息をついていると、悪友が紙と鉛筆を持ってきた。二人づつ紙の両脇に座らされる。身を乗り出して、悪友は紙に鉛筆を走らせる。YesNo、NoYesと二段に書いて、その真ん中に十字に重ねた鉛筆を置いた。私と彼はYESを挟んで対角線。彼は唾を飲み、もっともらしく一座を見回す。


「いいか?俺がチャーリーチャーリーアーユーヒアって言ったら……来る、かもしんないからな?もし来たら、大きい声出したりしたらダメだぞ。チャーリーは怒りっぽい悪霊らしいからな。帰す時はみんなで、チャーリーチャーリーキャンウィーストップだからな?じゃ、いくぞ……」


 みんな神妙にうなずいて鉛筆を見た。悪友は手を擦り合わせ、咳払いをし、深く息を吸って――


「チャーリーチャーリーアーユーヒア?」


 フランスでは突然訪れる沈黙のことを「天使が通った」と言うらしい。もう五人くらいは通っただろうか。鉛筆は微動だにしない。やかましい音楽が窓の下を通り過ぎていった。しびれを切らして友の一人がもぞりと足を動かした、その時――鉛筆が揺れた。飛び出しかけた悲鳴を咄嗟に両手で押さえ込む。四対の目が見守る中、鉛筆はゆっくり、ゆっくりとほぼ正確に45度動いて――Yesの真ん中で止まった。と、


「Charlie Charlie I am here.」


 地獄の底から響いてくるような声。どくり、と心臓がなるのを聞きながら、私は反射的に悪友の顔を見た。鋭く尖った鉛筆に指し示された彼は――笑いをこらえていた。一瞬後、破顔一笑、大きな笑い声が部屋に反響する。ゲラゲラと笑う彼の姿に、友二人も頬をゆるめ、安堵の顔を見合わせた。


「息吹いてた――だけなのに――あぁー、おもしろ!」


 息を切らしながら言って、悪友はまた笑い出す。彼に友二人が飛びかかる。場が賑やかさを増す中、私はそっと部屋から抜け出し、二度とそこには帰らなかった。

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