■最終回■■777■■■

■■最終回■■

「村町先生……。村町先生、起きて下さい!」

 私は体を揺さぶられて、目を覚ましました。

「お疲れみたいですけれど、大丈夫ですか?」

「え、ええ」

 私は体を起こすと、眠い目を指で擦りながら頷きました。

 目を瞬かせると、看護師さんが心配そうに私の顔を覗き込んできました。

 私は「大丈夫ですから!」と強がってみせます。


 どうやら私は、デスクで書類を書いている途中で、力尽きてしまったようです。

 いつの間にか、机に突っ伏して眠ってしまったようで、口の横には涎の痕がありました。

『ギュエェエェエェ!』

 扉の外を、誰かが奇声を発しながら通り過ぎて行きます。すると、看護師さんは呆れたように頭を抱えました。

「またあの患者さん、病室から勝手に出たのね!」

 ウンザリしたような顔付きで、看護師さんは部屋を飛び出すと患者さんの後を追って行きました。

「ふぅ……」

 私は椅子の背凭れに体重を預けると、深く溜め息を吐きました。


──眠たい。

──眠たい。

──もう眠たい。


 気を抜くと、今すぐにでも眠ってしまいそうです。こめかみを指で押して、どうにか眠気に抗おうとしました。

 もうどれくらい家に帰っていないでしょう。長らくベッドで横になっていないような気もします。

『グェェエエェエェエ、グェエェエエ!』

『ちょっと! 大人しくして下さい!』

 ドアの外から、患者さんの悲鳴と看護師さんの怒声が響いてきました。

 私は思わず両手で耳を塞いでしまいました。

「嫌、嫌、嫌、嫌……!」

——帰りたい。

 でも、そうはいかないのです。

 私にはやるべきことがあるので、此処に居なければなりません。

──プルルッ!

 電話がコールし、内線が来ました。

『村町先生、すぐに来てください』

──トントンッ!

 ドアがノックされ、扉が開きました。

『村町先生、診察をお願いします』

──ガシャーン!

『ギョエェエエェエエッ!』

『落ち着いて下さい! きゃぁあぁああっ!』

 廊下で騒がしく、悲鳴が上がりました。


——色々な音が聞こえて来ます。

 私はそんな音たちを遮断するかのように耳を塞ぎ、目を瞑りました。


──ああ。いつまでもここでこうして居たいわ。

 私は現実から逃れるために、また自分だけの病室の中へと篭っていくのでありました。

 こうした私は、また目を閉じたのです——。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おなおり申して 霜月ふたご @simotuki_hutago

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ