第24話 騎士と主人が月の下

「離ればなれはもう嫌なのっ!」


クズノハの小さな体からは発せられたとな思えないほど大きく響く声だった

本当にこのトルガルド全体に響き渡ったとすは思える


「クズノハ・・・」


「お姉ちゃん・・・ごめんなさい

せっかく用意してもらったのに

でもそれは受け取れない

アルフさんもごめんなさい・・・」


「いい いいのじゃ クズノハ」


「お姉ちゃん?」


「ありがとうっ」


フィルの言葉にどれほどの感情が込められて渦巻いていたか 青龍として忌み嫌われていた

フィルに一緒にいたいと言ってくれた

故郷と比べてもなおそう言ってくれた

その言葉にフィルがどれだけ救われたか


「クズノハは本当にできた妹なのじゃ」


「お姉ちゃん・・・」


そのまま抱きしめ合う姉妹

フィルの目から一筋の涙が床に溢れた


これを見つめる外野たちの誰が泣き床にシミを作るのか・・・全員だった


「うぐくぅぅぅぅっっっつ」


アルフさんは手で目を覆い必死になって涙を堪える 手袋も若干濡れているのがわかる


「うぅあぅぅぅぅぅぅ」


オーゲンは天井をみて涙がこぼれ落ちないようにしている 意味はないようだが


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


俺はもう普通に泣いた

この状況だ 泣くに決まってる

だからもう恥も外聞もなくただただ泣く


「お兄ちゃん 泣きすぎだよっ!」


「哲人 すごい顔なのじゃっ」


「いや もう仕方ないよ 泣くしかない!」


「そうですよっ 黒鉄さんの言う通りですっ」


「あなた誰ですか・・・」


「オーゲンですっ!」


そんなこんなで誕生日会からお別れ会へ

お別れ会から互いの

愛情を確かめ合う謎の会へ

慌ただしい屋敷

ああ 異世界にきてよかったな

そんなことをふと思うほど幸せだった


このあと近隣から苦情が来るほど

誕生日会を楽しんだ


・・・


屋敷の庭にあるベンチに腰掛け

天高く昇る月を眺め風に当たる

未成年なのだがアルフさんに少し飲まされてしまった オーゲンは捕まりイッキの対決をしている

フィルとクズノハは姉妹仲良く話しをしていた 二人とも肌が紅潮していたので飲んだのだろう 二人とも明らかに未成年だが今日くらいはいいか


「いいところだなぁ」


ふと呟く これでこそ守った甲斐がある

地獄の2日を乗り越え今 俺はここにいる

みんな居られる

それがどうしようもなく嬉しくて


「哲人・・・」


背中に銀鈴の声が撫でるようにかけられる

背後を見れば月明かりに照らされ

青いツノと翼を兼ね備える

月の妖精が・・・フィルがいる


「ふふっ わらわも少し飲みすぎてしまったのじゃ 風に当たりたくてな 隣いいか」


「もちろん 我が主人」


静寂が流れる

それは不快なものでは決してない

夜風が程よく火照った体から熱を奪う


「哲人 少し踊らぬか?」


「俺 踊りかたわからないんだけど」


「よいよい わらわも下手くそじゃ」


差し出された白い手を取る

これは必然的に向かい合う格好となり

顔の距離も近くなる

いつもは見られないフィルの紅潮した赤い顔

どこか大人の色気を含んでいる

なんだがむず痒くなりフィルから顔を晒す


「哲人」


ふいにフィルから声がかけられる

顔をフィルの方に戻すと

なにやら柔らかい感触が


「っ!?!?」


この時哲人がなぜ返事をできなかったのか?

それを知るのは二人を見守る月のみである







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