第十節 一騎

 Asrionアズリオンの様子が変わったのを見て取ると、ララとミハルが同時に警戒を強める。


「来るぞ。警戒しろ!」

「了解!」


 依然として距離を保ちながら、2台のゼクローザスは携行する火砲を撃ち続ける。

 しかしシュランメルトの対応は速く、ことごとくが回避され、たまにカス当たりがある程度だ。


 と、間隙を縫ってAsrionアズリオンが大剣を構える。

 ゼクローザスには到底届かない、遠すぎる距離で。


「何をする気だ?」


 ララはAsrionアズリオンの様子が変わったのを訝しむ。

 と、滑腔砲がカチカチと鳴った。


「弾切れか、投棄する!

 ミハル、後方に回って援護射撃を……」


 ララの指示は、そこで途切れた。

 何故なら。


 Asrionアズリオンの剣先に、膨大な光が集まっているからである。


「まずい、アレは防ぎきれんぞ!

 避けろミハルッ!」

「ッ!」


 ミハルは速射砲を捨て、咄嗟にサイドステップをする。




 次の瞬間、ミハル機の脚が

 着地の衝撃を殺すのに失敗し、大きく態勢を崩す。




「きゃぁあああっ!?」


 それにとどまらず、ゼクローザスは何度も回転する。

 衝撃を必死でこらえていたミハルだが、眼前の光景を見て、全てを諦めた。


「まずは1台」


 そこには、大剣を構えたAsrionアズリオンが立っていた。

 容赦のない一振りで、残った左脚、左腕、そして右腕を次々と奪い、戦闘能力を消滅させたのであった。


---


「クソッ、ミハル……!」


 ララはゼクローザスの操縦席内部で、歯噛みしていた。

 しかし、すぐに状況を整理する。


(落ち着け。

 今の手持ちは実体剣と盾のみ。滑腔砲は残弾ゼロ、速射砲も熔解しているのが見える。アレでは使えないな。

 ひるがえって、ゼクローザスの内蔵兵器は十分な弾が残っているが、あの様子を見る限り、効果が薄い。せめて接近しなくては)


 既にゼクローザスには、近接戦闘以外の選択肢は残されていなかった。


(だが、これでこそと言ったものだ……)


 ララは笑みを深めると、拡声器をオンにして呼ばわった。


「シュランメルト・バッハシュタインよ!

 貴様は、確かに強い。まさかたちまちの内に、私の僚機りょうきを屠るとはな」


 その声に憎悪や嫌味は無い。

 さわやかな声で、ララは続けた。


「では改めて、このララ・アルマ・バーンスタインが、正々堂々と挑ませてもらう!

 私とゼクローザスの全力、その身で受け止めるが良い!」


 ララは再びの名乗りを終えると、実体剣と盾を構え、真正面から突っ込んだ。


---


「む?」


 時はわずかに遡る。

 ララの口上を聞く事にしたシュランメルトは、Asrionアズリオンを止めて聞いていた。


「どしたの?」

「名乗りだ。

 間違っても不意打ちなどするなよ」

「しないって。

 キミの意思に沿わない、勝手なマネはさ」


 話している間にララが口上を終え、突撃する。

 それを見たシュランメルトは、口上を返した。


おれの名前は、シュランメルト・バッハシュタイン!

 そして隣にいるのは、パトリツィア・アズレイア!

 その挑戦、確かに受けた!」


 Asrionアズリオンはゼクローザスに向かって、やはり真正面から突っ込んだのであった。


     *


 片や魔導騎士ベルムバンツェが、片や鋼鉄人形が剣を振るっている。

 その様子を、脱出したミハルはリラ達と同じ場所から眺めていた。


「あの黒い騎士が、Asrionアズリオン……」


 剣戟の音が、幾度も響き渡る。

 周囲の者がそれぞれ、思い思いの応援をする中、ミハルはぼそりと呟いた。


「なんて勇ましくて、美しい……」


 呟いた声は、剣戟や戦闘に伴う音にかき消されたのであった。

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