第九節 激突

 開始と同時に、圧倒的な速度で距離を詰めるAsrionアズリオンとゼクローザス。

 激突の直前に、ミハルのゼクローザスが携行していた120mm砲を発射した。


「まずは挨拶代わり!」


 発射されたのは装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDS――細長く強靭な弾体で、相手の装甲の強度を無視して貫通する砲弾――だ。

 タングステンで構成されたこの弾丸はまっすぐAsrionアズリオンを捉え、装甲を貫通せんと迫る。


「読めている」


 しかしシュランメルトは何の動揺も見せず、Asrionアズリオンの左手に構えている盾をかざした。

 弱い角度をつけてかざされた盾は飛翔してくる装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSをいなし、あさっての方向へと飛ばしたのである。


 かくしてミハルの初撃は無効化されたが、それでもララが攻撃態勢を整える時間稼ぎにはなった。


「感謝するぞミハル!」


 ララのゼクローザスは素早く、実体剣をAsrionアズリオンの胸部目掛けて振り下ろす。

 霊力――鋼鉄人形の動力源であると同時に、鋼鉄人形やその武器の力を底上げする役割を持つ――を十分に纏った必殺の剣が命中する、その時。


「はぁっ!」


 Asrionアズリオンが素早く、剣の根本を狙って自身の大剣をかざす。

 勢いが付いていない以上防御が精いっぱいであったが、それでも魔力――霊力と同等の性質を持つ――を固めた漆黒の剣は、霊力を纏った一撃すらも防いだ。


「やはり簡単にはいかんか……」


 鍔迫り合いを続けるAsrionアズリオンとゼクローザス。

 ミハルは誤射を避けるため、火砲を構えたまま静かに距離を詰める。


 と、Asrionアズリオンが仕掛けた。


「おらぁっ!」


 内包する凄まじい膂力でもって、ゼクローザスの持つ剣を上へ弾かんとする。


「ぐっ!?

(何だ!? 一瞬、ゼクローザスがような気がしたぞ……!?)」


 ララのゼクローザスは剣を保持したままではあったが、急激に機体が持ち上げられ、大きくよろけた。

 生まれた隙を突き、今度はAsrionアズリオンが大剣を振り下ろす。


「覚悟!」

「やらせん!」


 ララの驚異的な反射能力でもって、ゼクローザスは防御には間に合った。

 しかしすぐに、ララは異変に気づく。


「な、何だこの膂力は!?

 くっ、押し負ける……!」


 ゼクローザスの1.5倍近くの重量を持つAsrionアズリオンは、恐るべき膂力との合わせ技でゼクローザスを圧し潰さんとする。

 ララが霊力を込めて出力を上げるが、すぐには押し返せなかった。


「ララ様!」


 そこに、ミハルのゼクローザスが飛び込む。

 全重量を乗せた肩口からの体当たり。

 さしものAsrionアズリオンといえど、45tもの重量を受けてその場にとどまる事は困難を極めた。十数m押し飛ばされたのちに、何とか態勢を整える。


 その間に、ミハル機がララ機へと駆け寄った。


「無事ですか、ララ様!?」

「ミハルか、助かった。

 しかし、あの膂力をまともに受け止めるのは危険だ。火砲はあるか?」

「120mm滑腔砲と76.2mm速射砲が」

「速射砲を寄越せ」


 ミハルはララの要望通り、速射砲を手渡す。

 と、ララから念話が響いた。霊力を用いた秘匿通信だ。


『合図で同時に撃て。

 奴が……Asrionアズリオンが届かない距離から仕留めるぞ!』

『了解です、ララ様』


 念話が終わると同時に、Asrionアズリオンの足音が響く。

 大剣と大盾を構えたまま、2台のゼクローザスを見る。


『今だ。

 3、2、1……』


 素早く一直線に、Asrionアズリオンが2台のゼクローザスへと向かう。


『撃て!』


 それに先んじて、2台のゼクローザスが集中砲火を浴びせた。


「むっ、これは!」


 反応の遅れたAsrionアズリオンは、もろに粘着榴弾HESHを受ける。

 しかし操縦席の無い腹部に、大した効果は無かった。

 粘着榴弾HESHは装甲の材質を無視して攻撃出来る利点はあるが、あくまでも“敵兵器のにダメージを与える弾種”である。進路上の操縦席が無い場合、構造にダメージを与えるにとどまるのだ。

 そしてAsrionアズリオンの構造は、物質特性含め異常なレベルで強靭である。

 結論から言うと、命中弾は有効打には程遠かった。


 装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSは惜しくもAsrionアズリオンの腰部装甲を掠め、彼方へと飛んでいく。

 続けて粘着榴弾HESHが命中するが、Asrionアズリオンの大盾には無意味だ。装甲の裏側が剥離するが、すぐさま修復された。


『離れろミハル!

 距離を取り続けろ、正面からは絶対に接近戦を挑むな!』

『了解です!』


 滑腔砲を抱えたまま、ミハルが距離を取る。

 走行速度ではAsrionアズリオンよりも劣るゼクローザスだが、連携によってその不利を補っていたのである。


---


 と。

 Asrionアズリオンの操縦席内部で、動きがあった。


「シュランメルトー。

 あの2台、素早いよー?」

「その通りだな。

 見たところ走行速度では劣っているが、連携によるカバーが上手い。

 近づくのは難しいな」

「だよねー。

 そこでボクの出番じゃなーい?」

「だろうな。しっかり頼むぞ。

 ……ただし、胸や頭は狙うなよ」

「腕はおっけー?」

「オッケーだ。頼むぞ」


 その言葉に合わせ、パトリツィアが呟く。




Asrionアズリオン

 ちょっと本気出してね……」




 一拍遅れて、Asrionアズリオンの瞳が強く輝いたのであった。

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