第7話 GF出撃

 出港を告げるラッパの音がトラック泊地に鳴り響いた。

 一九四三年二月一五日一三時一五分。

 第三艦隊の艦艇群はトラック泊地を出港しようとしていた。

 まず、第一航空戦隊旗艦の「翔鶴」が最初に出港し、姉妹艦の「瑞鶴」、そして小型空母ながら八面六臂の活躍をしている第三航空戦隊の「瑞鳳」「龍嬢」が続く。

 第一航空戦隊の「翔鶴」「瑞鶴」は昨年の珊瑚海海戦において、小型空母「祥鳳」が撃沈された後、果敢に反撃し、米空母「レキシントン」を撃沈、「ヨークタウン」大破という戦果を上げた。

 二艦とも一見すると新造時と変わらぬ姿に見えるが、昨年十月に艦の整備と合わせて、電探の装備と、二五ミリ三連装の増設が平行して行われ、針鼠さながらの様相を呈している。

 四隻の空母に続いて、金剛型戦艦「金剛」、第五戦隊の重巡「古鷹」「青葉」、駆逐艦八隻が出港する。

 そして、第二航空戦隊旗艦の「飛鷹」が出港し、「隼鷹」、さらに第四航空戦隊の「龍鳳」「千歳」が続く。

 最後に、金剛型戦艦「榛名」、第六戦隊「加古」「衣笠」、駆逐艦八隻が出港した。

 「壮観だな」と第三艦隊司令長官の小沢治三郎中将が言った。

 「米海軍機動部隊はこの五割増しですよ。」と参謀長の有馬正文中将が言った。

 「その米海軍機動部隊を、GFや軍令部が作成した作戦に基づいてキリキリ舞わせるのが私たちの成すべきことだ。」と言った。

 「鬼瓦」と評される強面が一瞬だけニヤついたのを有馬は見逃さなかった。


 「日本海軍が出撃してきたようだな」と米海軍第二二任務部隊司令長官のウィリアム・ハルゼー中将が幕僚たちに言った。

 「トラックに張り付いている潜水艦の報告によると、大型艦一〇隻、中型艦四~五隻、小型艦十五隻以上がトラック泊地から出港したそうです。そして、後方に輸送船団三〇隻を伴っているそうです。」と参謀長のオーブリー・フィッチ少将が言った。

 「日本海軍の目的地はガダルカナル島近海で間違いないな。」とハルゼーが断定口調で言った。

 「日本海軍の目的地はガダルカナル島近海で間違いないと思われますが、作戦目的は何だと長官はお考えですか?」と主席参謀のジョージ・D・マレー大佐が言った。

 「作戦目的はガダルカナルへの増援で、空母機動部隊はその護衛だな。日本海軍の輸送船団が後方にひかえていることを勘案すると、この結論で間違っていないだろう。」とハルゼーが言った。

 「いや、日本軍はガダルカナルから撤退しようとしているとは考えられませんか?」とフィッチが言った。

 「トラック泊地に張り付いている潜水艦の報告によれば六ノットの鈍足で出港した輸送船と、一〇ノットの速度で出港した輸送船とが半分ずつだそうです。」とフィッチが続けて言った。

 「一〇ノットで出港した輸送船は空荷で陸軍回収用だとということか。」とハルゼーが言った。

 「しかし、何のために鈍足の輸送船が一五隻もいるのだ?艦隊の補給の為に連れてきていたとしても、明らかに数が多いではないか。」と空母「エンタープライズ」艦長のマイルズ・R・ブローニング大佐が言った。 

 その時、エンタープライズの艦橋に設置されている電話が鳴った。

 「よこせ」 とハルゼーが言った。

 「日本海軍が出撃してきた、貴官の艦隊に日本海軍を捕捉、撃滅してもらいたい」と電話越しに太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将が言った。

 「さあ、ジャップの空母を海の底に沈めるとするか。」とハルゼーが幕僚たちに宣言するかのように言った。

 「ブル」と評される強面が笑った。

 

 

  

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