コミュ障吸血鬼、処遇を任される


 リオナと北村の人達の戯れを羨ましく思いながら見ていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 振り向くと、アンナが宙に浮いた巨大な灰色の煙り(?)のようなものの塊を連れて歩いてきていた。

 それと、腰にはなにかが入った袋を複数ぶら下げている。


「お待たせ、ティアナ」

「……なに、それ……」

「あ、これ? さっきの吸血鬼を燃やした時に出た煙り」


 燃やした!? あの見た目が僕より幼い吸血鬼を!?

 相当怒ってたんだな……容赦ない。


「……じゃあ、そっちは……?」


 腰に下げている袋達を指差しながら訊ねる。


「こっち? こっちは、あの吸血鬼の燃えカスを分けて入れてあるの。復活されたら面倒だから」

「……あ、うん……そう、なんだ……」


 今は夜だからそうするのがベストだけど、ちょっと可哀想かなって思う僕は、甘いのかな……。


「ところで、あれはなにやってるの?」


 煙りの塊を空に放って霧散させたアンナが、未だに戯れているリオナを指差しながらそう訊ねてきた。


「……戯れ……?」

「……まったく、ティアナをほったらかしてなにやってるんだか……」


 そう言いつつも、リオナを止めようとはしないアンナ。

 チラッと表情を見ると、少し呆れた感じだけど微笑んでいた。

 どうやら、感動の再会に水を差す気はないらしい。

 ……あれ? アンナって、リオナに対してこんなに優しかったっけ?

 あぁ、なるほど。

 どんなに僕が最優先なアンナでも根は優しいんだ。

 じゃなきゃ絶対に止めに行くはずだから。

 あ、でも、今回だけ特別っていう可能性がなきにしもあらずか。

 まぁでも、どちらにしろ優しさがあることに変わりはないんだけど。


「そうだティアナ。これ、あなたにあげるわね」


 唐突にそう言いったアンナが、腰に提げていた袋達を僕に渡してきた。

 えっ、僕に渡すの?

 女王にじゃなくて?


「好きにしていいわよ? 復活させたいならさせてもいいから……あっ、その場合は私がきちんと躾るから言ってね?」


 微笑みながらも言ってることはどことなく不穏なアンナ。

 アンナが躾と言うと、躾以上の、恐怖を伴ったものな気がしてならない。

 これ以上酷い目に遭うのは可哀想だけど、この状態なのも可哀想だし……迷うな。


「べつに今無理に決めなくていいのよ? ゆっくりと考えてくれればいいから」


 僕の考えを読んだのか僕が顔に出してたのかは定かじゃないけど、優しくそう言ってきた。

 うーん、復活させてあげたいけど勝手に復活させて問題になっても困るし……取り敢えず、帰って女王に相談してからにしようかな。

 話せるかわからないけど。

 そう思っていたところへ、リオナがこちらに戻ってきた。


「あっ、アンナ、戻ってたんだ! お疲れ様!」


 ……えっ? 今、なんて?

 いや、聞き間違いか。

 リオナが言うはずないし。


「お疲れ様じゃないでしょう? ティアナをほったらかしてどうするのよ? 村の人達との再会だから仕方ないとはいえ、もう私が言ったことを忘れたの?」

「そ、そんなことはないんだけど……みんなが全然離してくれなくて……」

「まぁ、私も見てて止めなかったから、今回はなかったことにするわ。でも、次はないから、覚悟しておくことね」

「わかった。それでアンナ、今後のことなんだけど……」


 やっぱり、聞き間違いじゃないよね?

 あのアンナのことを変態としかよばなかったリオナが、アンナのことを名前で呼んでるよね?



 ――僕がいない間に、二人の間になにが……?


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