アンナ・クロンツェル 3


 吸血鬼が困惑しているのを無視して、私はスキル【空間収納インベントリ】から薪と二メートルある木柱とロープを取り出す。

 最初に木柱を立て、それを囲うように薪を置いていく。

 そして、吸血鬼を抱き上げ手早く木柱にロープでくくりつける。

 ここまでくればなにをしようとしているかわかるわね。

 そう、はりつけの刑。

 本来は槍で突いて処刑するためのものだけれど、相手は吸血鬼だから突き殺せない。

 杭で胸を刺せば一発だけれど、それをやったら苦しみを味わわせられないから火をつけて苦しみながら灰になってもらいましょう。


「ちょっ、ちょっと! なによこれ! 外しなさいよ!」


 吸血鬼の言葉を無視して、【空間収納インベントリ】から火打ち石を取り出す。

 そして、カッカッカッと打ち合わせる。

 火花が飛ぶけれど、中々つかない。


「なに火をつけようとしてるの!? やめ、やめなさい! やめてってば!」


 まぁ、こういう反応をさせるために、わざと火花が絶妙につかない距離感でやってるのだけれど。


「うーん、中々つかないわね……」

「ちょっと、やめてって言ってるでしょ!? 聞こえないの!?」

「もう少し近づけた方がいいのかしら」


 そう言いながらほんの少しだけ近づけてから、火打ち石を打ち合わせる。


「あっ、ついた」


 パチパチと音を立てながら小さく火が上がる。


「ちょっと! なに本当につけてるのよ! 消しなさいよ! ねぇ!」

「このまま燃え続けると煙りで私も危ないわね……そうだ、煙りは風の魔法で入り口へ送りましょう」


 わざとらしく無視してそう言った私は、上がる煙りを風の魔法で入り口へ送……ろうとして、はたと気づいた。

 入り口にはティアナがいる。

 そこへ煙りなんて送ったら、ティアナが煙たがる。

 ティアナの肺が汚されちゃう。

 あ、なんか、私が送った煙りでティアナの肺が汚されると思うと、興奮する。

 ティアナに嫌われるからやらないけれど。

 そうなると、煙りは洞窟の奥にってことになるのだけど、この開けた場所は何個もある分かれ道の一つで、行き止まりの場所だから、送るのは少しめんどうなのよね……。

 仕方ない、この開けた場所は天井が高いから、天井に留まるように風の魔法で押し上げることにしましょうか。

 後で纏めて入り口へ持っていけばいいし。

 うん、そうしましょう。

 入り口の方に向けようとしていた煙りを、天井に押し上げる。

 その間に、私がつけた火は火から炎へと進化していた。


「も、もうわかりました! 私が悪かったです! なので、火を消していただけないでしょうか!」

「ダメよ。言ったでしょう? 灰も残らないように殺すって」

「ヒィッ!?」


 私の容赦ない言葉に、吸血鬼は元々白い顔を青白くさせた。

 そして私は吸血鬼が燃え尽きるまで、上がる煙りを風の魔法で天井に押し上げながら待つのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る