最終話 勝利だ、アバレオン!

 「大晦日に決戦とかするとは思わなかったぜ!」

 宇宙空間に浮かぶ海賊船、ザイアーク号の甲板の上でアバレオンが襲い来るゾクアックの戦闘員達をなぎ倒していた。

 「サンタクロース様のプレゼントを試す良い機会ですね」

 マゼンタが通信を入れる、敵地への突撃はアバレオンに任せて彼女は汎銀河警察の宇宙船から支援砲撃などでサポートする。

 「おう、ドン・ゲビーの奴に叩き込んでやるぜ♪」

 アバレオンが応答した途端、彼に異変が起きた。

 突如宇宙空間にブラックホールが開き、アバレオンのみが吸い込まれる。

 

 所変わって、ザイアーク号の船底。

 海賊船ではあるが王級の謁見の魔の如き豪奢な空間。

 その中央の佇むのはドクロでできた玉座。

 そこに座すのは玉座の主、白い髑髏を模した甲冑で全身を包んだ怪人。

 海賊らしさは兜と一体化した船長帽のみ、それがザイアーク号の船長にして

宇宙海賊ゾクアックの首領ドン・ゲビーであった。

 「アバレオンめ、我が息子コップキラーの仇を討ってくれる!

アバレオンを、ゾクアック空間に引きずり込め!」

 怒気を孕んだ機械的な音声でゲビーが命じると、戦闘員が舵輪型の装置を回す。

 この舵輪はゾクアック空間と呼ばれる異次元へ敵対者を転移させる為の装置。

 

 ゾクアック空間ではゾクアックの構成員は三倍の強さを得られ転移させられた敵対者を蹂躙できるのだ!


 ブラックホールに吸い込まれたアバレオンが、吐き出される。

 着地を決めたアバレオンが周囲を見渡すとそこは月面だった。

 「ここは月か? いや、地球が見えないって事はゾクアック空間か!」

 彼がゾクアック空間に転移させられたと察知した瞬間、彼を電撃が襲った!

 「アババババ!」

 スーツから火花が走り、アバレオンの全身を電撃による痛みと痺れが襲う!

 「死ね! アバレオン!」

 ドン・ゲビーがアバレオンの背後から現れ、金棒による殴打を浴びせる!

 殴打の衝撃で吹き飛ばされ、突然出てきた岩に衝突するアバレオン!

 「がはっ!」

 抜けてきた衝撃で胃酸を吐瀉するアバレオン、意識を失い地割れに飲み込まれる。

 「まだだ、そう楽には死なせん! 息子の仇!」

 ドン・ゲビーが金棒で地面を突くと、地割れに飲まれたアバレオンが十字架に磔にされて浮き上がる。

 「貴様の姿を全宇宙に晒してくれる、公開処刑だ! 絶望しろ、アバレオン!」

 ゲビーが叫ぶと、宇宙の各地で磔刑にされたアバレオンの姿が放送される。

 アバレオン最大のピンチ! だがそれは同時に最大のチャンスだった!

 「この時を待っていました、私がサンタクロース様から戴いたプレゼントを使う時です!」

 マゼンタが瞳を閉じて祈る、彼女が貰ったプレゼントはアバレオンを応援する声を彼の力へと変換する奇跡。

 ドン・ゲビーが全宇宙に放送ジャックをした事で、逆に全宇宙からアバレオンを応援する声が届く。

 「「あばれお~~~ん! がんばれ~~~!」」

 夕暮町の幼稚園児達が声援を送る。

 「「負けるんじゃねえ! アバレオン!」」

 サンタクロースやクリスマスに共闘したヒーロー達も声援を送る。

 彼らの声援が金色の光の粒子となって時空を超えてアバレオンへと降り注ぐ!

 「げげ! な、何が起きてるんだ?」

 事態が呑み込めず驚愕するドン・ゲビー、無傷のはずの彼の心身が震える。

 降り注いだ光の粒子が、傷ついたアバレオンのスーツも中身の心破の傷も癒した上に更なる力を与える。

 アバレオンの全身から紅炎が噴き上がり、彼を捕らえた十字架を破壊する。

 「……たっく、人の情けが身に染みるぜ♪ 獣王刑事アバレオン、皆から貰った力でドン・ゲビー! お前を野望ごと、ぶっちめるっ!」

 復活したアバレオンが拳に紅炎を纏いながら突進しまずは一撃、殴り返す!

 「ぐはっ!」

 金棒で受けるも、得物を砕かれ吹き飛ばされる。

 「まだまだ行くぜ!」

 全身から紅炎を噴出させ、殴る、蹴る、締める、投げ落とすと猛攻で反撃するアバレオン。

 「が! 馬鹿な、ここでは我らは三倍に強化されているはずっ!」

 蹂躙ショーで公開処刑を演じるはずだったドン・ゲビーの目論見が砕けて行く。

 「その三倍より、俺が皆から力をもらって強くなってるんだよ!」

 アバレオンの猛攻が止まり、獅子頭を模した胴鎧が炎と同時に一振りの大きな鉞。

 「これが俺が貰ったプレゼント、アバレオンアックス!」

 アバレオンがサンタクロースに報酬としてもらったプレゼントは鉞型のガジェットだった。

 アバレオンが鉞を振り上げる!

 鉞の刃に炎が集まり、燃え盛る太陽の如きエネルギーの塊が作られる!

 ドン・ゲビーはその力に恐れを抱き、心が折れて逃げられなくなった。

 「これで終わりだ、アバレオンフィニッシュ!」

 燃え盛る断罪の斧鉞をドン・ゲビーの頭へと振り下ろすアバレオン。

 その一撃は、ドン・ゲビーを跡形もなく消し去ると同時にゾクアック空間ごと崩壊させた!

 空間の崩壊に巻き込まれ、元のザイアーク号の甲板上に戻ってきたアバレオン。

 だが、アバレオンフィニッシュにより繰り出されたエネルギーは消えておらずその余波がザイアーク号も飲み込み大爆発を起こした。


 後日、地球に戻ってきた心破は書類仕事に追われていた。

 「やりすぎましたごめんなさい、休みを下さい!」

 最後の一撃が、ゾクアックが盗んだ財宝の現物や隠し場所のデータなど敵が犯したあらゆる犯罪の証拠も消し飛ばしてしまった為またしても上げた功績と失態の釣り合いが差し引きゼロとなってしまったからだ。

 相棒のマゼンタは、賞罰の対象とはならず休暇旅行に出かけていなかった。

 戦いには強くても仕事の要領は悪いまま、心破は年を越して今に至る。

 

 ゾクアックとの戦いには勝利した、だがアバレオンの一番の敵は書類仕事だった。

 ありがとうアバレオン、これからも戦えアバレオン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

獣王刑事アバレオン ムネミツ @yukinosita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ