第32話 犯人
♢♢♢
ガラガラガラガラッッ!!
勢いよく病室の扉を開けると、痛々しい傷を負った昴と
羽川ちゃん、そして、神楽坂もいた。
「じゃあ、お見舞いの品は、姉御の旦那の後ろにおいて置くっスね」
「ありがとう神楽坂さん、って花さん……?」
「姉御!」
「神崎さん!」
あたしは、すぐに昴に駆け寄ると、傷を確認した。
「大怪我じゃないか……」
「花さん、そんな大袈裟ですよ! 確かに見た目は包帯とか巻かれてますけど、
そんな大怪我じゃないですから!」
「本当か?」
「はい」
「そうか……」
その声を聞き、あたしは、ふぅーと、ようやく一息を入れた。
どうやら、呼吸の仕方も忘れているくらい焦っていたらしい。
少し、息苦しい。
「それで一体、何があったんだ」
すると、昴は少し困った顔を浮かべた。
「私たちも、宮本君が病院にいるって聞いて、すぐに駆けつけたの。その時に私達も聞いたんだけど……それが……」
「そうなんス……」
「どういうことだ?」
あたしは、羽川ちゃんと神楽坂からことの経緯を聞いた。
それは、衝撃の内容だった。
「……知らない男に殴られた!?」
私は、意表をつかれたあまり、大声を出してしまった。
すぐに病室だと言うことを思い出し、声を抑える。
「すまん……」
「神崎さんが驚くのも無理ないと思うわ、私も同じ反応をしたもの」
「私もびっくりしたッス!!」
続けて神楽坂も声を重ねる。
「本当に誰かわからないのか昴」
「……はい、後ろから男に殴られて……
気づいた時には、地面に倒れてました。そこからはあんまり覚えてなくて……
目が覚めた頃には、病院にいました」
一体なんの意味があって、その男は、昴を傷つけたのだろうか。
最初から昴を狙っていたのか、それともただの愉快犯か。
なんにせよ、当事者が覚えていないと言うのは、手がかり不足だ。
「心当たりは、ないんだよな?」
「……はい」
「そうか……」
辺りに、どんよりとした雰囲気が流れる。
昴を傷つけた犯人がわからないのだ。
みんな思うところがあるのだろうが、何もわからないという状況。
そんな暗い雰囲気を醸し出しているあたしたちを、見かねてか、励ますように
羽川ちゃんが明るい声を出す。
「まぁ、とりあえず宮本君が無事で安心したわ……! 昴君も色々あって疲れてるだろうし、とりあえず今は、冷静になりましょう」
「そうっスよ! 姉御も走ってきて疲れてるっスよね? ジュースでも買ってくるっス!」
そういって、病院の売店へと駆け出していく神楽坂。
「ちょっと待って、神楽坂さん! あなたのチョイスだけには任せられないわ!私も何か買ってくるわ! まちなさい!!!」
羽川ちゃんも出て行った……。
しかし、いつもの2人を見ていると、なんだか少し冷静に慣れたような気がした。
2人を見ていると何故か安心した気持ちになれた。
そうだな……あたしも落ち着こう。
「あはは、2人とも出て行っちゃいましたね」
「あぁ……そうだな」
「っと。僕、ちょっとトイレに行ってきますね」
「あぁ、動けるか? 肩なら貸すぞ?」
「まぁ、足は大丈夫なので……」
「遠慮するな、ほら」
肩を差し出してくれる花さん。
「では、お言葉に甘えて……申し訳ないんですが、肩をお借りします」
「ああ、わかった。他にもあたしにできることがあったらなんでも言ってくれ」
「はい、ありがとうございます!」
あたしは、昴をトイレまで連れて行ったあと、1人病室へと戻った。
♢ ♢ ♢
「ふぅ……」
1人になって肩の力が抜けたのか、一息入れる。
それにしても、きた時は気づかなかったが、綺麗な病室だな。ここなら昴も安心して体を休めれるんじゃないだろうか。
「さて、これからどうしたものか」
ん……? 何かベットの横に何か紙切れが落ちてる。
誰かの課題プリントとかか……?
あたしは、その紙切れを拾い上げると、
目に入った文字に驚愕した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーーいてて……。
思ったよりも身体が動かしにくい。
しかし、トイレの帰りくらいは自分で歩きたいと思って花さんには断りを入れてきたのだが……。
ガラガラガラ。
「花さーん、戻りまし……」
……いない。
「あら、宮本君、そんな入り口に棒立ちして何をしてるの? なんか適当に買ってきたわよ?」
「早く入るっスよー! あれ、そんな青ざめた顔して、もしかして体が痛いとかっスか、姉御の旦那! 肩、貸すっスよ?」
「花さんがいないんだ……」
「……どう言うこと? それに……手に持ってるそれは何?」
上手く、隠していたつもりだった。
特に花さんにだけは、バレないように、僕の背後に隠したつもりだった。
ーーこの紙切れだけは、見られてはいけなかった。
「くそっ……」
「ちょ、ちょっと……宮川君、何が起こったのか説明してくれるかしら」
もう……誤魔化せない。犯人に心当たりがないなんていうのは嘘だ。
実は、僕は犯人に心当たりがあったのだ。
「すみません、黙っていて……。
でも、余計な心配をかけたくなかったんです」
僕はその一枚のプリントを拾い上げると、
羽川先輩と神楽坂さんに、広げて、見せた。
「!? これって……!」
♦︎♦︎♦︎
覚えているか、神崎花。
お前に、一度は負けた男。
犬飼だ。
公園でやられたあの時のな。
あれから俺はお前に勝つためだけを考えてきた。
お前を、もう一度、呼ぶためには手段だって選ばない。
神崎花。
お前が来ないなら、お前を取り巻く環境を全て壊してやる。
その男のようにな。
♦︎♦︎♦︎
プリントには、
まるで怨念が込められたような、そんな字体で書かれていた。
「こ、公園の時のって……! もしかして私が人質に取られた時の!?」
「はい、おそらくそうだと思います。黙っていてすみません……」
「いえ……それよりも……! そうだ、け、警察……! そうよ、警察よ!! 警察に言えば……!」
「……無理だと思います。今の状態では、証拠が全く無いんです。それに……警察を呼んだとして、もし、彼がそこに現れなかったとしたら。
彼は、僕たちを知っている。警察に連絡したと、逆上して、羽川先輩達が巻き込まれてしまうという可能性は拭えません」
「そんな……」
「勿論、僕だけでなんとかできるだなんて思っていません。証拠さえあれば、警察に連絡すべきだと思っています」
「じゃあそれまでは……何もできないってことっスか!?」
「はい……。それに、恐らく花さんが向かった先は……」
僕らは、顔を見合わせ、その場で最悪の事態を考え、立ち尽くすことしかできないのであった。
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