第27話 不良美少女とBBQ!?(後編)

 羽川先輩の別荘に、招待された僕たちは、早速キャンプの準備に取り掛かっていた。まぁ……設備はすでに揃っている為、これといってすることはないのだが。それにしても、嫉妬も生まれないほど、立派な別荘だ。

 今まで羽川先輩の口からこんな別荘があるなんて聞いたことはなかった。

 花さん達の反応を見るからに、誰にも話していなかったのだろう。

 僕がこんな別荘を持っていたら、誰かに話したくなっていると思うが……。

 それを公言しないところに、羽川先輩らしさを感じる。


「よし! 準備はできたわね!!

 それじゃあ……各々の役割を決めましょうか」


「はい、えーと、この人数だと

 買い出し担当、料理担当とかですかね」


「そうね、じゃあまずは重要な料理担当

 から行きましょうか」


「はーい!!私が行くッス!!

 料理はたまに作ってるッスから自信あるッスよ!!」


「あら、意外ね。じゃあ、うーん、今回は食材の量も多くなりそうだし、もう一人欲しいのだけれど……」


「あっ! 提案があるッス!! 私、姉御の手料理食べたいッス!!」


「あたしの?」


「良いですね! 僕も是非食べた……」


 ──そう言いかけた瞬間、

 家庭科室での思い出が

 フラッシュバックする。


 *


「まず、ジャガイモから切ってみましょうか」


「……切る……ジャガイモを」


 キラン。ライトに照らされた包丁の光と

 花さんの目が光る。


 プルプルプルと持っている包丁が震え始め、

 徐々に徐々に

 力が込められていくのがわかる。

 そのせいで、包丁は焦点が定まらない。



「よ、よしいくぞ……!!」


 声も気のせいか、震えている。


「ちょっとちょっとストーッッッッップ!!」


 *


 ♢♢♢


「(そうだ……思い出した、花さんは料理が苦手だった)」


「ん? 何だ昴、その顔は」


「あ、いや……」


「……ふふーん。わかったぞ。あたしが料理出来ないって言いたいんだな?

 みてな、あたしの成長した姿を……」


 まな板の上には、一つのジャガイモ。


「すぅ……」


 ゆっくりと息を飲み込む花さん。

 その姿には、一瞬の迷いもなくみえる。


「どりゃああああ」


 スパーン!!


 ジャガイモは、綺麗な音を立て、

 真っ二つに割れた。


「凄いです、花さん……」


 僕は、笑顔で花さんに駆け寄る。


「成長……しましたね」


「あぁ……」


 僕たちは、拳をガチッと合わせて、

 微笑んだ。


「いや、なんか感動シーンみたいになってるけど、ただジャガイモ二つに切っただけじゃない……?」


 羽川先輩が、不審者でも見かけたかのような表情をしながら、何やらボソボソと言っているが聞こえないことにしておく。


 そして、少し成長しているのはわかったが、やはり、何かあっては困ると、

 料理班は、花さんに加えて、羽川先輩と神楽坂さんによく見張ってもらうことにして、僕は、買い出しと、それ以外の力仕事等

 を行った。


 ♢♢♢


 食卓には、じっくりと焼いた炭の匂いがふんわりと香りだし、食欲をそそる美味しそうなお肉たちをより際立たせている。

 そして、香辛料の香りが、これもまた食欲を刺激してくるカレーライスに加え、食後の締めには、夏に対抗するべく作られたとも言える

 バニラアイスクリームがあった。

 まさに、最高の食卓である。


「いただきまーす!!」


 僕たちは、元気よく手を合わせ、

 食材を口へと運ぶ。


「美味しいですね!!」


「あぁ、美味い」


「美味しいッスうううう!!!」


「みんなで頑張ったかいがあったわね……」


「あれ? 委員長泣いてるッスか?」


「な、泣いてないわよ!!」


 そう言いながら、後ろを向いて、

 涙を拭う羽川先輩。

 羽川先輩は意外と涙脆いのかもしれない。


「そんなことよりも、食べたら、

 みんなに見せたい場所があるのよ。

 食べたらいきましょう」



 ♢♢♢



 はぁはぁ。疲れた。


「宮本くん、何くたばってるのよ!

 あとちょっとでしょ! ふんばりなさい!!」


「はぁーい……はぁはぁ」


 僕は、両手で自分の膝をパチンッと叩き、気合を入れ直すと、再び、歩き始めた。

 僕らは、BBQをしたところから、少し離れた丘を、わけもわからず、羽川先輩に

 案内されるまま、ひたすら登っていた。

 行き先を教えてくれれば、モチベーションも上がるかもしれないが、

 羽川先輩は、ついてからのお楽しみという。くっ、意地悪だ。

 羽川先輩の意地悪ー!


 ザッザッザッ



「みんなご苦労様。ここがみんなに見せたかった場所よ」


「はぁ……はぁ……やっとついたんですね」


 もう足がパンパンで動かない。

 チラッと辺りを見回すと、

 息ひとつ切らしていない、花さんと神楽坂さんが首を傾げている。


「ここが、見せたかった場所ッスか?」


「特に何も見当たらないみたいだが」


 えぇ……!? こんなに苦労して登ったのに!!?

 羽川先輩もしかして、意地悪をしたかっただけ……それとも登るのは最高でしょ!!

 なんで登るのかって?

 そこに丘があるからよ!!

 みたいな事を言い出す気じゃ……って……

 あれは……。


 突然、僕の中で時が止まった。

 もちろん、時間が停止して、

 僕だけ動けると言ったことではない。

 目が釘付けになって動けなくなったのだ。


「いや……花さん、神楽坂さん、

 違います。顔を見上げて見てください」


 二人とも同時に顔を上げ、上を見上げた。

 すると、二人とも、ポカンと口を開けたまま

 動かなくなった。


 それもそのはずだ。


 空には満点の星空が広がっていたからだ。

 それも──不思議と手に届きそうな気がするほど近くに感じた。


 とても綺麗で……今日の疲れを一気に癒してくれるようだ。


「綺麗だな……なぁ昴」


「はいとても」


「あたしはこんな夜空を初めて見た」


「僕もです」


「こんな良い景色が見れるなら、

 ずっと、ここにいたいものだな」


「はい」


 夜空を見上げる花さんの横顔は、

 とても美しかった。


「(ずっとここにいたいか……)」


 誰かと一緒に食事を楽しんだり、綺麗な景色を見にきたり、海に行ったりするだなんて、ずっと、窓際族だった僕からすると、本当に不思議なものだな……。


 僕は、いつまで花さんといれるんだろうか。

 関係というものは曖昧だ。

 どちらかが去る時は突然現れる。

 その前に、僕は、きちんと今の想いを伝えられるだろうか。

 尊敬から、別の想いへと

 変わっている感情に、

 僕は気付きつつあった。

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