第22話 不良美少女とすれ違い!?

「いってきまーす」


「お兄ちゃん行ってらっしゃい!」


 ──元気よく右手をブンブンと振っている

 妹に見送られながら、今日もいつもの通学路を歩く。


「あー海楽しかったなぁ……みんなの色んな姿が見れたし」


 思い出に浸りながら、トボトボと歩いていると、突然、海で、身体が露わになり、恥ずかしそうに身体を隠そうとする花さんの光景がフラッシュバックする。


「うわあああ! ダメだダメだ!! なんで鮮明に覚えているんだ!!

 花さんはあくまで先輩で……尊敬しているだけであって……! やめろ俺の煩悩よ……!!

 思い出すんじゃない!大人しくしろ!!」


 自分で自分を説教しながら、その光景を忘れようと必死に歩くペースを早める。


 ♢♢♢


 キーンコーンカーンコーン。


「よいっしょっと、次の授業はどこだったかなと……そうだった次の国語の授業は、移動教室か」


 国語の教科書と筆記用具を小脇に抱え、

 次の授業の教室先へと向かっている途中、

 見覚えのある姿が、見えた。


「あれ? あれは……花さん?」


 勉強会があるので、放課後は、よく会っているが、学年も違う為、

 勉強会以外で会うのはとても珍しい。正面からスタスタとこちらへ向かってくる花さんを確認すると、声をかける。


「花さん、珍しいですねこんなところで会うなん……」


 プイッ。


 え……。無視……された……?

 僕の姿は、確実に捉えていたはず。

 だが、僕が言い終わらないうちに、花さんは方向を変え、何処かへ行ってしまった。


 どうしてだ……?

 気づかなかったのかな……。

 いやでも正面だったし、視界には入ってたと思うんだけど……。


 だとしたら考えられる可能性は……。

 まさか……!

 嫌われた!?


 ──思い当たるのは、海の件。

 花さんの恥ずかしい姿を僕が見てしまったから……?


 そんな……。

 あれは、勿論、意図的に見たわけではない。だが、見てしまったのも……事実。

 くそ……!

 こんなことになるのなら、女の子を傷つかせないエスコート本でも探して、読んでおくべきだった!!

 うっ……。どうしよう。

 想像以上にショックだ。


 トボトボ。

 歩幅が短くなり、歩くペースが自然とゆっくりになる。

 そんな時だった。


「あ、あのー…… 蓮香れんかさんのお友達ですよね?」


「え?」


 俯いていた顔を上げると、見知らぬ顔の。

 ノートを大事そうに両手で握りしめた

 女の子が立っていた。

 だ、誰だろう。というか蓮香さんとか言ってたけど、そんな名前初めて聞いたぞ?


「えっと……僕は蓮香さん? という方は知らないので人違いではないかと思うんですが……」


 すると、女の子は、ハッとした表情を浮かべると、申し訳なさそうに、大事に抱えていたノートを差し出しながらこう言った。


「失礼しました! 蓮香さんです!!」


 渡されたノートを見ると、

 名前のところに、

 神楽坂蓮香かぐらざかれんかと書いてあった。


 蓮香って神楽坂さんのことか!!


 ♢♢♢


「くらうッス!!神楽坂流奥義第一の型かぐらざかりゅうおうぎだいいちのかた!!」


 ♢♢♢



 いつも神楽坂さんって呼んでたから、一瞬、誰かと思った……

というか、どうして神楽坂さんのノートを僕に?


「さっきそこでこのノートを拾って……、

 神楽坂さんと貴方が良く遊んでいる姿をよく見かけていたので、もし、良かったら届けてほしいなと……」


 なるほど。落とし物か。

 それで、僕に届けたんだな。


「わかった、ありがとうございます。神楽坂さんに渡しておきますね」


「良かった……! お願いします!!」


 よし、じゃあ、さっそくこのノートを届けに……って、僕、移動教室だった!! 急がないと!!

 神楽坂さんには悪いけど、次の休み時間に渡そう!!!


 ♢♢♢


 授業が終わり、神楽坂さんのいる

 教室へ来た。


 ガラガラガラ。


 静かに扉を開ける。


「あれ? 姐御の旦那じゃないッスか!! どうしたんすか?」


「あ、いたいた神楽坂さん。これノート落ちてたって女の子が届けに来てたよ」


「あー!! 通りで見つからないわけッス!!

 まさか落としてたなんて……!! 姐御の旦那!! 感謝ッス!!」


 無邪気な笑顔で、言葉を交わされる。

 ここまで、嬉しそうに喜ばれると

 こちらまで嬉しくなる。


「うん、じゃあ僕はこれで……」


「……? ちょっと待つッス!!」


「え、な、なに?」


 神楽坂さんは、先ほどよりも一歩近づき、

 僕の顔をジーっと見た後、顎に手を当て、

 少し考えた表情をしながら口を開いた。


「何か元気ないッスね?」


 ギクッ。


 上手く取り繕っていたと思うんだけど、

 意外と鋭いところがあるな、神楽坂さん。


「その顔は図星ッスね!? ふっふっふっ……

 姐御に関係する人のことはちゃんとわかるんッスよ!! これでこそ姐御に相応しい存在というものッス!!」


 あくまで、花さん意識なんだ……。

 本当に花さんに対する気持ちが凄い。

 称賛するレベルだ。

 まぁ、もうバレているようだし、神楽坂さんに話してみようか。


 僕は、今日、花さんに無視をされて、嫌われてしまったのではないかということについて神楽坂さんに全て話した。


 すると、数秒も経たないうちに、

 真顔で返答を返してきた。


「いや、姐御が姐御の旦那のことを嫌うなんて

 それはないと思うッスよ?」


「え……そうなのかな」


 うーん。どうしたものか。

 ただの勘違いなら、それは嬉しいんだけど。


「なんか事情があったんッスよ!!

 よし、そんなに心配なら直接確かめに行くッス!!」


「直接……!? ちょ、ちょっと待ってよ神楽坂さん! 心の準備がああああああああああああああああああ!!」


 ズルズルと身体を引きづられながら、花さんの元へと向かった。


 ♢♢♢


「あーうん。えっと……どうしたんだ二人とも」


 引きづられ疲れ切った僕と、対照的に

 元気そうな神楽坂を見て、花さんは不思議そうに問う。


「さぁ! 姉御の旦那! ちゃんと直接聞くッスよ!!」


「う、うん……」


 まぁ、もうここまでお膳立てされれば、逃げられない。

 ここで逃げたら、スライム以下だ。スライムは、初期キャラにおいて非常に弱いモンスターだ。しかし、必ずと、勇者たちに、戦闘を仕掛けるのである。その志、カッコイイぞスライムよ。その心行きは、賞賛に値する!

まぁここまで、お膳立てされたんだし、僕も少し、勇気を出して、直接聞いてみよう。


「あの……花さんって僕のこと嫌いですか?」


 小さな勇気を振り絞って、

 聞く。

 すると、あっけらかんと花さんが答えた。


「あたしが昴を嫌い? そんなことあるわけないだろ」


 ……。良かったあああああ!!

 嫌われてなかったんだ。


「というかなぜそんな話になるんだ?」


 何故、今更そんなことを聞くのか? と言った不思議な表情を顔に滲ませながら、

 花さんは続ける。


「あ、いえ今日花さんと会った時に、

 無視された気がして、もしかして嫌われたのかなと……」


「今日? あたしが昴と? あー。そういうことか……

 だんだんとわかってきたぞ。昴、それは何時ごろの話だ?」


「え……10時くらいですかね……?」


「あー、やはりそうか。実は今朝、コンタクトを落としてしまってな。ほとんど見えてなくて、誰かに声をかけられた気はしてたんだが……」


 なるほど、そういうことか……!ただ見えていなかっただけ。

 よかった。じゃあ本当に嫌われていたわけじゃなかったんだ。


「良かった……」


「ほら! やっぱりそんな事だと思ったッスよ!! 良かったッスね!!」


「うん!!」


 ツルッ。


 ホッとしたのも束の間、普段であれば気付いていただろう足元に潜む奴の存在に僕は気付いていなかった。


 それは、雑巾ぞうきんである。

 安堵していた僕は、何故か力が抜けて、

 その場でつまづき、花さんに倒れかかってしまった。


「いたた……花さんすみませんって……

 うわ!!」


 ……顔が近い。

 もうすぐ顔同士が触れてしまうんじゃないかというくらいの近さ。

 微かな息遣いまで聞こえて来るようだ。

 心臓の音も聞こえる。

 ドクッドクッ……。

 これは、花さんの心音なのか僕の心音なのかそれはわからない。

 というか……。


「っっっ!! すみません!!」


 急いで身体を離し、花さんに全力で謝る。


「あ、あぁ! 昴、怪我はないか?」


「は、はい、花さんも大丈夫ですか?」


「あ、あたしは大丈夫だ」


「じゃ、じゃああたしは授業があるから……! また放課後にな」


 そういうと、いつもより、少し早足に、消えていく

 花さんの頬は電灯に照らされてよく、見えなかったのだが、頬が紅潮していたようにも見えた。


「これは、また後で謝らないと……」


「今日は色々と大変ッスね……」


──放課後、全力で謝ったのはいうまでもない。

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