第19話 ショッピング


「じゃあ、おにーちゃん! 行ってらっしゃい!!」


 妹の舞が、元気よくジャンプしながら

 僕に手をブンブンと振っている。


「はーい、大人しく待ってるんだぞー」



 ♢♢♢


 ──ここは、最近できた大型ショッピング

 モールだ。毎日のようにテレビcmで『最先端の○○があります!』とか、『最先端といえばここ!!』だとか、とにかく最先端、最先端うるさいので、少し気になっていたところ、母からおつかいを頼まれたので、見に来たのだ。


「それにしても広いなぁ……」


 予想していたよりも遥かに、広く、

 雑貨屋から、食品まで、色んな種類のお店があった。僕が今まで来たショッピングモールの中でも圧倒的に広いのではないのだろうか。


「さて、何買うんだっかな」


 右ポケットに入っていた、メモを取り出したあると

 背後から、聞き覚えのある

声が聞こえた。


「あれ? 姐御の男じゃないッスか!?」


「あれ、神楽坂さん?」


 そこには、いかにも女の子らしいといった私服姿の神楽坂さんがいた。


「姐御は……いないみたいッスね。

 何してるんッスか?」


「あぁ、僕はちょっと家族の買い物をね」


「へぇー! えらいッスね!! 流石は、姐御の男ッス!!」


(姉御の男って……)


 ……なんか慣れない響きだなぁ。嫌な気は全くしないが、周りの人が聞いたら、色々と誤解されそうだ。


「神楽坂さんは?」


「私は、買いに来たんッスよ! プレゼントを!! 姐御の男は、その様子だともう買ったんッスか?」


 プレゼント? 神楽坂さんは一体、

 何の話をしているんだ?


「まさかその顔は知らないッスか!?

 明後日は、姐御の誕生日ッスよ!!」


「ええっ!?」


 全く知らなかった……。というより、花さんは、迷惑をかけたくないのだろう、

 あまり自分のことを話したがらないから、

 聞いたことなかった。

 お世話になっているし、勿論、

 渡したい気持ちはあるのだけど。


「そうなんだ……でも、何渡せばいいかわからないな……」


「じゃあ、一緒に探すッスよ!!」


「え、ちょっと待っ……うわああああああああああああああ!!」


 グイグイと両手を引っ張られ、神楽坂さんの思うがままに連れさられていくのであった。



 ♢♢♢



「このお店とか良さそうッスね!」


「う、うん……」


 気がつくと、the 女の子!

 というような、アクセサリー店にいた。

 それにしても……。

 つ、疲れた。運動会が終わってからまた

 運動してないからどうしても体力が……。


「というか、神楽坂さんは、花さんの誕生日知ってたり、すごく親しいんだね」


「当たり前ッスよ!! 私と姐御は一心同体ッスから!! 離れていてもいつでも一緒ッス!

 まぁ誕生日は、生徒手帳を勝手に見たからッスけどね! そんなこと関係ないッス!」


 あ、あれ? なんか後半、とんでもないことを言っていた気がするが、そっと胸のポケットにしまって、忘れておこう。

 それよりも……。

 花さんは、何をあげたら喜んで

 くれるんだろう。


「私は、決めたッスけど……姐御の男は決めたッスか?」


 いつの間にか、神楽坂さんの手には、女の子向けの可愛い香水が握られていた。

 香水か。神楽坂さんは、女の子だし

 花さんのことをよく知っている分、よく似合うプレゼントを選ぶのが得意そうだ。

 僕のチョイスだと香水は難しいだろうなぁ。どんなものが良いのかわからないし。

 それに、今まで、女の子にプレゼントなんてしたことないから、どうしよう。


「……そんな難しく考えなくても良いと思うッスよ。姐御の男からなら何貰っても喜ぶと思うッス!」


「そうかなぁ……」


 辺りを見回す。夏……。

 あっ、これとか良いんじゃないだろうか。

 喜んで貰えるかわからないけれど、

 これにしようか。


 ♢♢♢

 

──不安を隠せないまま、花さんの誕生日の日を迎えた。


カランコロン。

お店の扉を勢いよく、神楽坂さんが開ける。


「こんにちはッス!!」


「どうも」


「いらしゃいませーー……ってあれ、昴に神楽坂まで……。一体どうしたんだ?」


花さんは、何が起こったのかわからないという感じで、首を傾げている。


「今日は、プレゼントを持ってきたんッス!」


「プレゼント……? どうしてまた急に」


首をさらに傾げ始める花さん。


「……花ちゃん、本当に、今日はなんの日か覚えてないの?」


「あ、店長」


話を聞いていたのだろうか、店長さんが花さんに声をかける。

その表情は、我が子を見守るような、そんな優しい笑顔で僕らを、

見つめていた。 

どうやら、店長さんは、僕らの様子を見て、もう既に察しているようだった。


「店長まで……。今日は……、

あっそうか……あたしの誕生日だ」


「そうッス! だから、これを受け取って欲しいんッス!」


「あ、ありがとう。ん……てかあたし

誕生日、二人に教えたことあったっけ……」


「そ、そこは気にしないで欲しいッスよ!!

ほ、ほら! 姐御の男も渡すッス!!」


誤魔化すかのように、神楽坂さんが遮る。


「昴もあたしに……?」


花さんは、一瞬驚いた顔をしていた。


「はい……僕のチョイスなので自信はないんですけど」


「……開けて良いか?」


「はい、勿論です」


ガサガサ。

プレゼントの封が開かれる。

僕の心臓は

ドキドキだった。

プレゼントって、こんなにドキドキするもんなんだ。


「これは、シュシュ……?」


「は、はい。夏なので、髪を結べるように。

あと、普段使いできるかなと思ったんですけど……」


花さんは、シュシュをずっと見つめている。うーん。やっぱり僕のチョイスだと

ダメだったんだろうか。


「……あたし、家族以外に、こうやって誰かに祝われたことなくてさ。本当に嬉しいよ。ありがとう。大切にする」


「は、はい!」


ホッ。

良かった、気に入ってもらえたみたいだ。

花さんの表情が明るくなり、

頬が、不思議と赤く

染まっているのがわかった。

僕も、それをみて、プレゼントをあげる緊張が身体からスッと抜けて、

とても嬉しいという気持ちに変わっていく。


「……あのー、二人とも良い感じのとこ悪いんッスけど、私の香水も使ってくださいね姐御!!」


心配そうに、神楽坂さんが、

僕と花さん

を見つめている。


「あぁ勿論だ。ありがとう」


「えへへ……改めて言われると照れるッスね」


神楽坂さんも口元に、手をやり、

笑みが溢れるのを防いでいるようだった。

とても満足そうだ。


「二人とも本当にありがとう……でも、

なんで、あたしの誕生日を知って……」


「そ、それは内緒ッス!!!!」


考えようとする花さんを、制止させるかのように神楽坂さんが必死に誤魔化すのであった。



♢♢♢



──その頃、委員長。羽川美鈴の

自宅にて。


「そういえば、神崎さんの誕生日っていつなのかしら……」


視界の端に提出用の

クラス名簿が目に入る。


「あっこれを見ればわかるわ……ってええ!? 誕生日は今日じゃないの!!

こうしちゃいられないわ!!

い、急いで買いに行かなくちゃ!!」


ドタドタドタ。


猛スピードで誕生日プレゼントを買いに行く

委員長、羽川美鈴であった。


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