12月

第28話

 雪華があの日から、ふさぎこんでしまった。

 前十字靭帯損傷……よく聞く名前のケガは、復帰するのには半年以上かかる。

「お姉ちゃん……バスケ、できなくなっちゃった。試合にもう、出られなくなっちゃった」

 三年生が引退してからは女子バスケ部のキャプテンだったから、とてもがんばっていたし……本人がめちゃくちゃ悔しがっているのは、とてもつらいのがわかる。

 雪華ゆきかはとてもバスケが好きだったから、余計にだよね。

 そのことは話せないから、心の中に留めておく。

 三年生は受験に向けて、大詰めの人も多い。

 最短で私立の推薦入試がある一月の終わりだ。

 わたしは都立高校を志望校で、三月一日に発表があるという。

「みゃーちゃんは聖愛女学院だよね?」

「そうだね、わたしはそのままスポーツ推薦で行きたいしね。もう部活も陸上部からスカウトされちゃってて」

 みゃーちゃんの陸上の成績は全国大会に出たこともあって、結構有名なんだよね。

平津戸ひらつと、先生が呼んでた」

「うん。わかった! 小夜さよ、じゃあ!」

「わたし、じゃあ帰るね!」

「バイバイ~!」


 外周をたぶん男女バスケ部が始めているけど、けがをしていた雪華が練習には参加せず、みんなのタイムを記録したりしている。

「あと、一分! ガンバ~!」

 雪華の表情はとても明るくなっている。

 そのまま早く帰ると、永莉えりちゃんが来るまで少しだけ勉強を始めた。

「あら。おかえりなさい、小夜、帰ってたのね」

「うん、雪華は部活だよ?」

「わかってるわ、永莉ちゃんがもうすぐで来るみたいよ。宿題とかを確認してみてね」

「さっき、終わったよ!」

 母さんがしている美容室の仕事は午前中だけど、午後からは家事を中心にしている。

 そのとき、インターホンが鳴った。

 わたしが玄関のドアを開けると、家庭教師として来た永莉ちゃんだった。

「永莉ちゃん。今日もよろしくね!」

「うん。冬休みの冬期講習は申し込んでる?」

「模試の会社が冬期講習と模試を込みでやってくれるから。そこに応募した」

 永莉ちゃんが母さんにあいさつをして、勉強を始めたんだ。

 今月に入ってからは中学の復習を始めていた。

 都立高校の入試のほとんどは、いままで習ったものが出てくる。

 その過去問の問題集を買って、たまに解いたりしていたけど、数学と理科がかなり難しいんだ。

「小夜ちゃん、ここの問題はかなりの確率で証明問題が出てきてる。証明が苦手だと思うけど、がんばろう」

「う~ん。わかった、数学の証明は何個くらい?」

「二つから三つ、そのうちの二つは図形」

 ノートに突っ伏した。

 図形の証明は数学の証明のなかでも、最もやりたくないものだ。

 全然違うことを書いてたりして、それが嫌すぎて諦めていたんだけど……永莉ちゃんが根気強く教えてくれた。

「ありがとう、数学の証明、がんばってみるね」

 それから、他の教科の問題もやっていたから、総合得点は合格ラインがギリギリだったけど、結構上がってきている。

 そして、冬休みまであと二週間に。

 もうすぐで二学期の成績が返される。

 どうかな……上がってれば、いいけど。

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