第6話

 体育大会まであと一週間を切り、みんなの気合いはますます入っている。

 それと反比例する形で、わたしは体調を崩していた。

小夜さよ、大丈夫? 今日も先生に連絡するね」

「うん、ごめん。お願い、母さん」

 原因不明の発熱……病院で診てもらったら、心因性の発熱だった。

 母さんが学校に連絡して、仕事に出かけていった。



 目が覚めると、午後二時半だった。

 昼食は一応用意してあったうどんを食べて、少しだけ勉強するけど、やっぱりフラフラする。

 午後四時半……また、寝ていた。

 そろそろ下校時刻かな? と思っていた頃。

 インターホンが鳴った。

「はーい。あ、みゃーちゃん」

 玄関のドアを開けると、みゃーちゃんがいた。

「ごめんね。体育大会の直前で忙しいのに」

「あ~、小夜も無理しないで。足首の捻挫、ひどくなってる?」

「みゃーちゃん。うん、鎮痛剤を飲んでないと、少しだけ速くは走れないの」

 それを先生には伝えてあるけれど、クラスのみんなには伝えてはいなかった。

「うん。雪華ちゃんから、その事を聞いてね、クラスでも小夜は棄権した方がいいよ」

「でも!」

「体を大切にして、小夜は色んな家事をしているけど、まだ十四歳の女の子なんだから」

 わたしはその言葉が心にストレートにきた。

「みゃーちゃん……足首の捻挫のこと、みんなに話したら、陰口言われそうで怖かったの。無理はダメって感じたけど、まだまだ大丈夫だって、思ったから」

 自分が思ってたことをずっと言っていく。

 それがストレスの原因になって、熱が出たんだと思った。


「小夜、ありがとう。言ってくれて、わかったから」

「みゃーちゃん、うん。少しスッキリしたかも」

 体育大会については行っていたお医者さんでも話が出たため、競技には全部出ないことが決まった。

 急なことだったのにみんなが対応してくれたのがありがたかった。

 わたしは放送委員だったから、競技に出ないぶん少し多く仕事をもらったの。









 そして、体育大会当日を迎えた。

 わたしは最初は校庭にあるクラス席にいて、全力で応援をしていた。

「あ、櫻庭が出るよ!」

 みゃーちゃんに肩を叩かれた。そのとき、三年男子の二百メートルの競技が始まった。

「第二レーン、B組、櫻庭さくらば悠里ゆうりくん。」

「櫻庭~!! ガンバ~!」

「がんばれ~!」

 わたしはその競技を息を飲んで、見つめていた。

 スタートのピストルが鳴り、全力疾走で生徒が走っていく。

「がんば! 櫻庭~、行け~!」

 悠里がスピードに乗って、二百メートルの本部前のゴールテープを切った途端、クラス席で歓声が上がった。

 あと、妹の雪華ゆきかは二百メートルを二年連続で記録更新をしている。

 学級対抗リレーも、雪華は記録更新していた。


「それじゃあ。放送席に行くね」

「行ってらっしゃい」

 本部の放送席に到着したとき、悠里と会った。

「お疲れ様、櫻庭」

 悠里は不意打ちされたような顔をして、少しだけ顔が赤かった。

「ありがとう、小夜」

 名前で呼んだ?

 と、思ったけど、悠里がそのままクラス席に行ったから聞けなかったけど。

 全員リレーはゴール前までA組と競り合ったけど、惜しくも二位だった。

「惜しかった~! ムカデは絶対に優勝してやる!」


 午後の部に突入した。

 放送委員の仕事を終えて、生徒会が企画した学年対抗で総当たりの綱引き。

 学年全員で出場する競技だから、わたしも参加した。

「三年生~。準備はいいか~!」

「オオー!」

 最初の相手は一年生(四クラス、百二十人)で、人数は三年生より多い。

「よーい、スタート!」

 本気で三年生が綱引きをしたため、そのまま決着は三年生の勝ち。

 そのつぎは半分の生徒と交代して、二年生(三クラス、百四人)との人数も似たような感じで、予行練習では負けていた。

「みゃーちゃん。本気で引っ張れ~!」

 終わったけど、後輩には負けられないから、みゃーちゃんや悠里を応援する。

「よーい、スタート!」

 すると、二年生が優勢かと思ったけど、三年生が本気になったからなのか、すぐに形成逆転。

 そして、綱引きの結果は三年生が全勝で終わった。

 そのあとは一年と二年の全員リレー。

 そして三年生の学年種目が始まった。

 三年生は午後の部から各クラスのクラスカラーのTシャツに、背中にはクラス旗のデザインが描かれている。

 わたしも雷神が描かれたクラス旗を片手にトラックを三周する。


「B組、準備はいいか~!」

「オオー!!」

「優勝を目指すぞ!」

 先生が話していたけど、クラス旗を持った手に力が入る。

 スタートのピストルとともにスタートする。

 第一走のムカデでトラック一周する。

「一、二、三、四、せーの!」

 掛け声をかけながら、先生と同じペースで走る。

 一位のまま、第二走のムカデに襷が渡され、そのまま走り出した。再び一周する。

 クラス旗を高く持ち上げて、わたしはみんなのムカデを初めて見た。

「揃ってるよ。みんな」

「このまま、大ムカデになるよ!」

 最後の一周はクラスで一つのムカデになって、最後にトラック一周する。

 体力的にもきつくなっていているのに、トップでみんなが走っていく。

 そのまま、一位でB組はゴールすることができた。

「やった~!! 一位だ!」


 そして、全ての競技を終えて、結果発表が始まった。

「三年生の総合優勝は…………A組!」

 B組は準優勝、次は合唱コンクールでリベンジするって、みんなの気合いが入っていた。


 片付けを終えて、教室で話をしていた。

「橘。お疲れ様、先生がバテてるのに、本気でついてきてたからびっくりしたよ!」

「小夜の掛け声、結構、みんなが気に入ってたんだ」

「え……でも、競技に出ないから、出ないぶん、みんなががんばれるようにって……がんばっただけだよ」

 わたしは少しだけ泣きそうになったけど、それは内緒だった。

 最後の体育大会は出場できなかったけど、思い出に残る行事になった。

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