6話

「……誰もいないんですかね」

 ところが何も返ってくる気配がなかったので、どうしたものかと肩をすくめる。

「案外、ここじゃないのかもしれないぞ?」

「どういうことですか?」

 レオンさんの言っていることがよく分からなかったので、素直に聞いてみた。

「この大きい家の……残骸の中じゃなくて、別の残骸にいるんじゃないかという話だ」

「なるほど……?」

 とりあえず残骸という表現でいいのかと不安に思ったが、その通りなので否定のしようがなかった。

 そして彼の言う通りかもしれず、私は辺りにある残骸……家の周囲をぐるりと回りながら、すいませんと声をかけていく。

「誰かいませんかー」

 我ながら滑稽だと思ったが、それだけ必死なのだ。それが分かってもらえるようにと願いながら、家々を回っていく。

 ……全然、どこからも反応がない。

 風がゆっくりと吹いている音だけが聞こえる。

 そろそろ誰かいたら、何か反応してもいいはずなのに。

 もしかして、誰もいないのだろうか。

 嘘の情報を掴まされたとか……?

 そんな風に不安になりながらも、声をかけるのはやめなかった。

「す、すいませ」

「うるさい」

 瞬間、凜とした声が真正面から聞こえた。

 そしていつの間にか、レオンさんが私を庇うように前に立っている。

 庇われていなかったら、声の主が持っている剣によって刺されていたかもしれない。

「んん……」

 私はどんな顔をしていいのか分からず、レオンさんと声の主……おそらくネクロマンサーの師だろう人物を、交互に見る。

「慕って来ている人間に対してうるさいとは、大層立派なご身分らしい」

「……なんだ。もう死霊を喚んでいるじゃないか。俺の手伝いなどいらないだろうに」

「いえ、これは事故みたいなものでして……」

 この状況だと、説明するのが難しい。

 というか、先に自己紹介をしないと礼儀を疑われるのではないか? そう思った私は、レオンさんを押しのけて(押しのけられなかったので、彼の横で)頭を下げた。

「は、はじめまして! ペルラと申します! あなた様を師として仰ぎたく、ここに参った次第です」

「知っている。最近ネクロマンサーの界隈では話題になっているからな」

「な、なんと……!」

 そんなことになっているとは、露ほども思わなかった。でも考えてみれば、そういうコミュニティ的なものがあっても、なにもおかしくはない。

「戦争孤児がネクロマンサーになりたがっていると、笑い草になっているものだ」

 そ、それは……。

「は、ご立派な人間が多いものだ」

 レオンさんは、まるで私の代わりとでもいうように肩をすくめた。出来ることなら、私も肩をすくめたかった。師に失礼になるだろうから、そうはしなかったけど……。

「だが俺は、別に教えるのは誰だろうと構わない」

「なら……!」

「ただ、すでに男を召喚しているのにどうして教えを乞おうとしている?」

「いえ、これは事故なんですよ。事故だから、還す方法も分からず……」

「だとしても、何故男なんだ! 不純だろう! 本契約のキスもしたのか!?」

「し、してないです!」

 こ、これは……。

「なんらかのコンプレックスでもあるのか? 面倒なやつだ」

 レオンさんは、包み隠すことなくそう言った。

 私も多分、表情で同じことを言っていたに違いない。失礼に当たるとは分かっていたけれど、面倒だと思わずにはいられなかった。

「面倒で結構。とにかく、その男をどうにかしない限り俺から教えることはなにもない」

「じゃ、じゃあ、この人を還すために勉強させてください……!」

 それだったらどうですかという、ある意味で高慢な考えだったと思う。

 けれど師は、それに対してしばらく考えているようだった。

「……いいだろう。無事に還せるのなら、いくらでもネクロマンサーについて教えてやる」

 しばらくの沈黙ののち、師は……本当に師はそう言った!

「や、やったー!」

「おい、私はいいとは言っていないぞ」

 しかし、レオンさんが食い下がった。どうして食い下がるんだろうと思ってしまう。

「元々事故で喚ばれたんですから、還ったほうがいいじゃないですか?」

「言っただろう。私を好きにならせてみせる、と」

「す、好きに……好きになんてならないって言ったじゃないですか!」

「イチャつくなら他所でやってくれ! 帰れ!」

「ち、違います! イチャついてないです! 帰りません! 今からでもいいので、ネクロマンサーについてなんでも教えてください!」

「やる気だけはあるんだな……」

 やや呆れられながらも、なんとか師として仰ぐことが出来るようになった。嬉しい! 

 不服そうなレオンさんが「絶対に還らないぞ」と言っているけれど、絶対に還してみせるんだから! これから頑張るぞ!

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