第10話 飛び散ってませんか?

 私は10年間タバコを吸っていました。そしてタバコをやめました。

 喫茶店や、ファミレスとかでコーヒーを飲みながらタバコを嗜んでいるというのはかっこいいと思っていました。周りの風景とか見た目ではなく、ただ単にその行為に大人びた魅力を感じていました。

 今でも、喫茶店などでタバコを嗜む姿をみると、格好良く思うこともあります。

 私はまだ、かっこよさの呪縛から完全には解放されていないのかも知れません。。

 しかし、非喫煙者となりそのかっこよさを見る場合でも、喫煙者の頃と違う視点で見るようになりました。

 タバコの一番の悪影響って、ヤニが飛び散るって事かも知れません。

 私は、喫煙者の頃は全く気付いていませんでした。もしかしたら、タバコの快楽が「飛び散らす」を超えてしまっており、気付けなくなっていたのかも知れません。もしかして、人間って快楽が強すぎると小さい不快は気にならなくなるのではないでしょうか?

 タバコをやめてしばらくした頃、駅前の喫茶店に入る機会がありました。入るなり感じた独特の乾いた臭いは当然の様に不快な気持ちになりましたが、ふと周りを見渡すと、それよりも壁の黄色さがさらに気になりました。白い壁の喫茶店だったのもありますが、妙に気になりました。

 そして帰宅後、我が家の壁も黄色かったので、興味本位で触って見ました。みょんってなりました。タバコだけが全ての原因では無いとは思いますが、タバコもその一因であることは、間違いでしょう。それから、私は黄色の箇所を見るようになりました。

 換気扇の下でしかタバコを吸わないと言っていた友人の壁も黄色かったです。

 禁煙席と喫煙席が分かれているだけで、仕切りの無いファミレスの禁煙席付近の壁も黄色かったです。

 会社の喫煙ルームの中はもちろん、外側の喫煙ルーム付近の壁も黄色かったです。

 タバコって、煙を出すだけじゃなくてヤニを飛ばしてるとは知っていましたが、まじまじとそのヤニとは向き合っていませんでした。結構広範囲に渡り飛び散ってるなーというのが、向き合ってみた感想です。

そしてこんな疑惑も…

ヤニって壁だけに付くの?

 部屋のいたるところを拭いてみました。すると、やはり雑巾は黄色くなりました。

 私は決して潔癖ではありません。むしろ、部屋は汚い方ですので、それが全てヤニなのかは分かりませんが、その時の私は、ヤニは壁だけに付着するのではなく、周りに飛び散ってるという解釈をしてしまいました。

 水風船が破裂し水が飛び散る時の様なイメージです。

 「いい雰囲気のお店だから」

 非喫煙者になり、行きました。喫煙者の頃とは、感じる雰囲気は違いました。ただ、飲み物の飲むだけでしたが、お店が作る空間を楽しめました。お店の外見、内装、使用される食器に至るまで、こだわりを感じる事が出来ました。

 しかし、残念な事に、壁は黄色かったです。もしかしたらこの食器も?とも思いました。

 今は分煙化が進んでいますが、非喫煙者1年目の頃はあまり進んでおらず、禁煙席、喫煙席ぐらいはありましたが、完全に吸えない店はあまりありませんでした。

 今は症状は治っていますが、私は、一時期ちょっとした黄色恐怖症になってしまっていました。

 こないだ、先輩社員と食事に行きました。先輩社員の食べ物の中に髪の毛が入っており、お店側にクレームを入れてました。そのクレームに関しては、別に大袈裟でも無く、お互い大人の対応で、作り直して頂く事になったんですが、私の食事は既に提供されており、食事の提供されるタイミングがズレてしまいました。

 喫煙者の先輩社員は、待っている間に喫煙を始めました。気を使ってか、やや横向きに吐き出してはいましたが、心の中で僕は思い出しました。

 そのヤニは、僕の食事の中に飛び散って無いですか?さっきの髪の毛の様に。。

 そんな事に気付かなかった10年間の私は、お店の雰囲気すら楽しめていませんでした。

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