第10話 時間差攻撃を開始する

「副官、お前は艦長権限で明日の朝まで営倉行きだ」

 青い顔でパルミュラ艦長は命じた。


「ひ、酷すぎます。わたしはウェルスさんに協力しただけで、艦を暴走させるつもりなんてありませんでした」

 転んだ弾みに、壁に顔をぶつけて歪んだ眼鏡でルセナは抗議する。

「いや。私を出し抜いてウェルスと二人きりになるような奴は許せん」

「あ、そっちなんですね」


 半べそ顔で連行されるルセナを見送り、パルミュラは額を押えて座り込んだ。あー、気持ち悪い、と呻く。

「まったく何年ぶりだろうな。こんな船酔いしたのは」


「それに、危うくこの艦が分解するところだったぞ」

 ウェルスがやっとの事でエンジン出力を下げるまで、『シー・グリフォン』の暴走は続いた。その強烈な揺れで、ほとんどのクルーは酷い船酔いになっていた。丁度、近辺に他の艦がいなかったのが不幸中の幸いだった。


「すみません。僕が勝手なことをしたばっかりに……」

「まったくだ。だからウェルス、お前も一緒に営倉行きだな」

「あの。一緒に、というのはまさか」

 パルミュラは頷いた。

「ああ。今日はルセナの順番だからな。楽しみにしていたから、それまで取り上げるのは酷というものだろう。まあ、これが艦長の恩情というものさ」

 そうだ、あれも持っていくか?

 艦長はスロットルレバー代わりにおっ立っている大人の玩具を指さした。

「いりませんっ!」


「なあ、ウェルス。だがこれは使えそうだな」

 艦長は超高出力エンジンを指差して、にやっと笑った。

「明日までに、他のエンジンとの連携手段を考えておいてくれ」

 この機動力とアームド・スーツ、それにパワードスーツを上手く使えば、この海域最強の海賊艦になる事も夢ではない。


 さっそく前艦長に報告だ。そう言って、今度こそパルミュラ艦長は蒼白になった。

「……そういえば、前艦長あのひとは無事だったのか?」

 覚束ない足取りでエンジンルームを出て行った。


 ☆


「この度はわたしのために、ご協力ありがとうございます」

 ルセナ副官は営倉の簡易ベッドに正座すると、ウェルスに一礼した。

「色々と練習してみたんですけど、上手くできるかどうか……」

 痛かったら、そう仰って下さいね。ルセナはそう言いながらウェルスのズボンを脱がそうとする。

「あのルセナさん。自分で脱ぎますから」

「そうですか……」

 ちょっと残念そうにルセナは手を引っ込めた。


「す、すごい」

 露出したそれを見て、ルセナは声をあげた。

「あの玩具と若干形状が異なるような気がしますが。なるほどそうか、本物はこうなっているんですね」

「あの、ルセナさん。あまりまじまじと見られると恥ずかしいです」

「触ってもいいですか。まだ出たりしないですよね」

 そう言うと、恐る恐る指先を近づける。


 ばたん、と営倉のドアが開いた。

「あ、艦長」


 パルミュラは倒れ込みながら部屋に入って来ると、力尽きたようにへなへな、と横座りになった。

「どうしたんですか、艦長」


「お、怒られた……もの凄く」

 息も絶え絶えにそれだけ声にする。

「ああ。ゼノビア前艦長ですか。そうだ、あの茶室。ひどい事になったんじゃないですか?」

 パルミュラは、はあーっ、と大きなため息をつく。

「もちろん、それもなんだけど。どちらかと言えば、君を営倉に入れた事の方が、あの方の逆鱗に触れたらしい」

「あらら」

 ウェルスにも他に声のかけようが無かった。


「という訳で、私も一晩この営倉に入る事になった。よろしく頼む」

「駄目ですよ、今日はわたしの番です!」

 ルセナが立ち上がって叫んだ。


「分かってるよ。副官が飽きるまで手は出さないから。存分に堪能してくれて構わないぞ。私はその後からで我慢しよう」

「まあ、そう云う事なら」


 それで納得したらしい。ルセナはいそいそとウェルスの服を脱がしにかかる。

「ちょっと。僕の意見は聞いてくれないんですか」

「うん、三人で陸み合いたいという君の気持は十分に分かっているぞ。そう焦るな。チャンスは必ず来るからな」

 それはパルミュラ艦長の個人的願望じゃないか、ウェルスはがっくりと肩を落とした。


 ☆


(そうか。あの超強力エンジンを主推力にして、従来のエンジンは左右に振り分けて操舵用推力として使えばいいんだ)

 左右から艦長と副官の甘く柔らかな攻撃を受けながら、ウェルスは空母艦体構造の組み換えと制御システムの再構築に頭を振り向けていた。


「このベッドも、もう少し大きい物にする必要があるな」

 行為の最中に何度も転落したせいで、パルミュラは本気でそれを考えているようだ。


「艦長。ここは本来、営倉だという事をお忘れなく」

 でもしっかりと副官に釘を刺されていたけれど。


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