第6話 第1回下克上の作戦会議(書記・俺)


「さぁ、始めるぞ!作戦会議だ!」


 勢いよくトレーを置いて席に着く俺をよそに、制香はポテトをつまみ、河飯はハッピィセット開封の儀をしている。


「ごほんっ!とりあえず、耳だけでも傾けておいてくれ?」


 こくこく。もぐもぐ。カサカサ。


「あー!欲しかった半熟フォーム!」

「よかったね~、河飯君」


(…………)


「あーあー、マイクテス、マイテス。よろしいですか?」

「ごめん、つい……」

「は~い」


 ……もぐ。


 ほら。やーっぱ我慢できてないじゃん、制香ってば。もうポテト残り三割切ってるぞ?まぁいいや。あとで俺の分あげる。そうなると思ってLにしたし。


「で、今日集まってもらったのは、他でもない。親睦を深めるためと、今後の方針を聞いてもらう為だ」


「「今後の方針?」」


「ふっふっふっ……俺の完璧な作戦に驚くなよ?まず、作戦は大きく分けて三段階!」


「三段……」

「階……」


 おっ。ふたりとも興味津々だな?俺ってば結構ジョブスな才能ある系?ろくろ回しちゃうよ?

 俺はどや顔で、ろくろではなく人差し指を一本立てる。


「まず、河飯を発信源にして、女子の票を集める」

「僕が、発信源……?」


「さっきも言った、逆ナンデートのことだよ。それとなく口添えするっていう」

「ああ、あのことか」

「……?」


「制香にはあとで教えるから。まず聞いてくれ?」

「うん……」


 ちょっぴり不満そうに俺のシェイクをちゅーちゅーとすする制香。

 やっぱバニラにして正解だったな。制香ちゃんの間接キスいちゲットだぜ。まぁ、この程度は今更なんだが。


 俺は気を取り直して、二本目の指を立てた。


「次に、集まった女子の票、もとい女子の支持者の中から可愛い子を集めてスクールアイドルを結成する」


「「…………」」


「あっ、やめて。そのゴミ虫を見る目をやめて!制香にそんな目で見られたら俺死んじゃう!河飯も、そんな顔できるんだな!?『星の王子様』フェイスが台無しだぞ?『腹違いの弟を見る王子様』になってるぞ!?」


「「…………」」


「ごめんなさい、真面目にやります!けど、集まった女子の票を元に、男子の票も徐々に獲得していこうっていうのは間違いない!つーか、女子の票さえ集まれば、彼女持ちはまず合わせてくれるだろうし!」


「ちょっと楽観的すぎるんじゃない?」

「僕もそう思う……」


 うう。ふたりとも、結構シビアね?

 けど、苦言を呈してくれる味方がいる陣営は強いんだぞ?


「もちろん、それだけじゃないって!ほら、女子は噂が好きだろう?だから、そのタイミングで『下神君が生徒会長になるとイイらしいよ』的な噂を流してもらって、公約を掲げるわけだ」


「「公約?」」


「ああ。生徒たちにメリットのある選挙公約。例えば、持ち物検査を無くすとか、文化祭の準備期間を増やすとか、修学旅行では団体行動の時間を少なくして、班行動の時間を増やすとか……?」


「お。結構イイね。持ち物検査はいつも身バレしないかヒヤヒヤだから助かるよ」


 ヒヤヒヤするくらいならキャラものの手帳とボールペン使うなって。とツッコミたくなるが、無粋な真似はしない。

 だって、河飯は『愛ゆえに』ほもふむフリンちゃんの手帳を使ってるんだからな。


 うんうん、と頷いていると、制香も感心したような声を出す。


「それに、その他もお金をかけるわけじゃないから、先生さえ説得すれば実現できそうね?班行動は皆仲のいい子と組むだろうから、私もそっちの方が嬉しい」


「だろだろ?今のお堅い生徒会長様には浮かばなさそうなアイデアだろ?なんていうか、生徒に寄り添った政策的な。小さなことからコツコツと。こういう庶民的な考えが共感票を集めるんだよ!」


「うん、うん……!」

「お、思った以上にそれっぽいわね……やるじゃない」


 オーディエンスが乗り気で俺も絶好調。

 そのままの勢いで三つ目の指を立てる。


「最後にっていうか、これは明日からでも気を付けた方がいいんだが、教師からの支持を得る。教師陣に投票権は無いが、不動が教師と結託して俺達に問題があるなんて指摘してきた場合、即脱落なんてことになりかねないからな。日頃の行いには気を付けないとダメだ」


「おお……」

「克己が……マトモなこと言ってる……」

「ちょっと制香さーん?その言い草はないんじゃない?俺はいつだってガチだよー?少なくとも、今回は本当にな」


 トーンを落としてそう答えると、ふたりは感心したように頷いた。


「いや、なんだか本当に不動さんとやりあう感じだね?」

「ちょっと、びっくりかも……」


「おいおい!しっかりしてくれよふたりとも!やりあうっていうか、勝たないとまずいんだって!俺が廃部になる!」


「そういえば、元はと言えばそんな理由だったわね?ひとりの部活なのに、無くなるとやっぱり都合が悪いの?」


「うん。僕もそれは気になった」


「それは……」


 ふたりの問いに、俺は押し黙る。何故かって?それは――



 ここに制香がいるからだ。



 正直、あの場所が無いとアニメが見れなくなるのは困る。けど、それならやりようは他に無いわけじゃない。

 不動に宣戦布告したのも、売り言葉に買い言葉みたいなもんだ。

 けど、俺がここまで本気になるのは……あの部活を守りたいのは――


 先輩との、思い出があるからだ……


 それを言うのを躊躇ってしまうのは、制香というものがありながら先輩に惹かれていた去年の自分が後ろめたいからに他ならない。


 俺は去年、制香と先輩の間で揺れていた。

 勿論、どちらに言い寄られていたとかそういうのは全くないので独りよがりもいいとこだが、制香が俺にそれなりに好意を抱いてくれていることは知っている。

 幼馴染であるがゆえに今ひとつ進展できないでいることも。

 それは俺だって同じだからだ。


 部活に入りたての頃、俺はそれを先輩に相談すらしていた。だが、情けないことに、相談しているうちに親身になって話を聞いてくれる先輩に惹かれていることに気が付いた俺は、そのまま制香に告白することができないまま高一を終えてしまったんだ。


 我ながら、なんつー情けない話……


 だからこそ俺は、そんな想いにケリをつける為にも、この選挙に勝ちたい。

勝って、廃部を阻止し、後顧の憂いを断つことができれば……


 今度こそ、制香に告白できる気がする。


 だって、あの部室とそこにある思い出が、俺の背中を押してくれるはずだから。


 先輩への想いだって、ここ数か月でぐっと飲み込むことができた。俺と先輩はあくまで『同じ目標』に向かって頑張っていた同志のようなものだったんだ、って。

 

 だから……


 俺は、深呼吸してふたりに答える。


「あの部室……部活は、俺にとっては無くてはならないものなんだ。頼む……!」


 ぺこりと頭を下げると、励ますようなあたたかい声が俺を包んだ。


「いいよ。下神は僕の恩人で、同志だからね?喜んで協力する」


「私も……克己がそこまで本気なのはめずらしいから、ちょっとは応援してもいいかなって……ちょっとだけよ?」


「ありがとう!ふたりとも!」


 制香ちゃんも、テンプレ ツンデレありがとな!よくできました!


 今、俺の目の前には、心強い味方の姿が映っている。


 ふたりの期待に、想いに応えるためにも、この選挙いくさ、絶対負けられない!


 役者は揃いつつある。

 女子からの票を強奪するためのアタッカー、河飯。

 生徒会長候補である俺の心を支えるサポーター、制香。

 本丸、もとい司令官は俺として……


 あとは、頼りになる参謀と、殲滅力の高いアタッカーがもう一人欲しいかな?

 そうすれば、夢のパーティの完成だ!


「よし!そうと決まれば、仲間を増やすぞ!」


「「仲間……?」」


「俺の陣営を支持してくれる協力者だ。心当たりは――」


 ごくり、とふたりの喉が鳴る。俺は高らかに声を上げた。


「 な い !! 」


「「え~……」」


 まぁまぁ、そんな干からびたミミズを見るような目はやめろって。なんとかして見つけてみせるから。だって俺、敏腕Pだぜ?スカウトの一人や二人……


「がんばるぞ!」


 気合でな!


 つーか、気合って言葉今までキライだったけど、これ、使ってみると便利すぎじゃね?けど、多用するとパワハラで味方が減っていくからな。今回限りだ。

 そういうわけで、がんばるぞ!


 次回! ロリ巨乳参謀、パーティイン!!


 ……って、ならないかなぁ?なるといいなぁ……為せば成る!

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