懺悔其の三十四 きっとくる

「うーん、やっぱホラーはいいねぇ。洋画のスプラッターしかり、邦画のそこにいるようでいない、いないようでいる。あの感覚はやっぱいい『映画って本当に良い物ですねえ』そんな気分だな」


 ホラー映画を一つ見終えた余韻に浸りつつ懺悔室で今日も迷える子羊を待つ。


「そういやぁ、教会って裏に墓地とかあったりしてゾンビの一匹や二匹出てきそうな場所だよなぁ。まぁ、うちの教会の裏に墓地なんて無いけど」


 教会の裏には墓地は無く古い井戸があるだけだし。


「確かあの井戸ってもう使ってないらしいなぁ。そう言えば井戸から女の霊が出てくるホラー映画あったな」


 今日は何故か子羊が来ないな、たまにはそんな日もあるものさ。

 アタシがそう思っていると控えめに扉が開いた。


「コ、ココココ……」


 声なのか? こここと聞こえるが音が小さいので声なのか、何なのかはここからだと判別しにくいな。

 しかし、少しすると入って来たものの姿が見えてきた。


「……ぇー」


 思わずアタシは呟いてしまった、ハロウィンにはまだ早いだろ。

 白いワンピースを着てブリッジ姿で移動してくる髪の長い女がいた。どうやらハロウィンのコスプレのようだが……なんだよあのカ〇コとサ〇コ足して三で割ったようなヤツ。


 そう言えば、貞〇vs伽〇子って映画は微妙だったなぁ……


「アンタ、その体制きつくないか?」

「ココ、コココ」


 コココ言いながら首をかしげているし、なかなかリアルじゃないか。


「で、名前は?」

「ヨ……シ……コココ」

「ヨシコさんねぇ」


 うん、普通の名前だったよ。

 首をカクカクさせながらアタシの事を見ているが……この人何しに来たの?


「えーっと、それでヨシコさんはここに何しに来たの? ハロウィンの仮装なら来月だぞ」

「ココ、コココ」

「コココって口癖かな?」

「ハハハロロロ……ウィィィィンンンン……コココ」


 会話にならん……まさかアッチ系の人か? あといい加減にブリッジ体勢キツくないのか?

 ジっとこちらを見ているが何かをする様子もない。

 随分とまあ、おしろい塗って。皮膚呼吸大丈夫か?


「んで? もう一回聞くけどここには何の用事なんだい? 懺悔か? 相談か?」


 アタシが改めて聞くと、カクカクと首を揺らしながら首を回す回す回すまわ……ちょ、ちょっと

 回しすぎだろすでに九〇度超えて回してるぞ、そろそろ一八〇度だぞ。


「……あんた身体柔らかいんだなぁ」

「コココ、コココ」


 一八〇度回った所で頷いている……正直キモイ。

 人間鍛えりゃあんな芸当もできるのか?

 首を一八〇度回したまま、そこら辺を歩きだすヨシコ。

 当然ブリッジのまま、ブリッジ体勢なんで一八〇度回した首が丁度正位置のように見える……

 要するに、おへそは天井向いてるけど頭も上を向いてる体勢だな、やはりキモイ。


「うーん、会話が成立しないとなると困ったなぁ」


 ヨシコは床から壁に向かって歩いていくと、そのまま壁を登り始めた。


「おいおい、あの体勢で壁登ってるぞ」


 しかも壁の途中で停まってるし。


「コココ、コココ」


 ははは、また首が回ってるぞもう二七〇度まで回ってるじゃないか……


「まてまてまて! いくらなんでもおかしいだろ! 首回り過ぎだろ!」

「ココ」


 そして凄い勢いで天井まで登っていく、天井に着くと更に首を回しついには三六〇度回ってしまった。


「あー、アレかコスプレって極めるとここまで出来るのかぁ」

「コ、コ、コ、ココ」


 ビョンビョンビョンと高速で体を上下に振りだしたぞ、ヨシコのヤツ!

 アレだアレ夏に網戸とかにくっついてるデカイ蚊みたいな虫! ガガンボの動きに似てるんだなアレ。うわー……超キモイ。


「ヨシコ! お前キモイから帰れよ!」

「ココ、ココ、ココ」


 首をブンブンと左右に高速で振っている

 身体は上下に首は左右に高速で動いている、勘弁してほしいな……これ夢に出てきそうだぞコイツ。

 今度は床に向かって髪の毛伸ばしだしたぞ何がしたいんだ?

 そして髪の毛を使って歩き出した、もう滅茶苦茶だなコイツ。


「ヨシコ! ステイ! 待て!」

「ココ、ココ」


 髪の毛で立ったまま停止する。


「てか、ヨシコお前人間なのか?」

「ココ、コココ」


 首を振って否定する,どうやら人間ではないようだ。


「なんだよ、人間じゃないのか」

「コココ」


 頷いて肯定するヨシコ。

 なるほど本当に人間じゃないのか、なら悪霊の類かな?


「じゃあお前は悪霊か何かか?」

「コココ」


 頷いて肯定している、そうかそうかそれならあの動きも納得できるな。

 さて、悪霊相手にどうしたものかなぁ。

 ダメ元でやってみるか。


「ヨシコ! ゴーホーム!!」

「コココ」


 ヨシコは髪の毛を縮めるとまたブリッジ状態に戻りそのまま走って窓を開けて裏の井戸の方へと走っていった。

 案外有効なんだなゴーホームって。


「なんで悪霊がおるんじゃー! しかも井戸から出て来てるじゃないかアイツ!!」


 くそ! 霊能者よぶぞ、霊能者!

 あ、ここ教会だったな、よし後で聖水撒いて封印しとくか、リナにでも手伝わせるかまったく。

 面倒なヤツが住み着いてるなあこの教会は。


 アタシは後でリナを巻き込んで井戸の封印を試すことにした


 ――

 ――――


 後日リナと二人で井戸に行ったら、小さなヨシコが沢山いたので封印を断念して撤退。

 さらに後日、害虫駆除業者を呼んで駆除してもらってからヨシコを見る事は無くなった。

 最近の害虫駆除業者って悪霊も駆除できるんだな、はじめて知ったよ。

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