懺悔其の十七 可愛らしく、男らしく

 

「アタシはいつも思うんだが、お前のその恰好どうにかならないのか?」

「ふえぇ、ボクですかー?」

「ここにゃ、アタシとお前しかいないだろうが」


 今日は懺悔室の掃除で担当はアタシとマティアだ。


 アタシが言うその格好と言うのはマティアの服装だ、コイツ何故かいつも修道女の服を着ている。

 教会ではおかしくないじゃないかと言うだろうが、マティアは修道士だ。

 修道士という事は男である! しっかしフワフワナヨナヨとした雰囲気でなんつーか男らしさは全くない。


 少し前に流行った男の娘ってヤツだなコイツは、悲しいけどコイツの修道女の恰好は似合うんだよ。

 女性と間違えられることも多く……というか女性にしか見られてない。

 いつもリアに強烈なツッコミを入れられているが、マティアには効果が無い。こないだも長州力ばりのラリアット食らっていたがうっとりとした顔をしていた。そう、マティアはマゾだ。


 少女のような顔立ちに綺麗な金髪をショートボブにしている、華奢で線は細く見た目はほぼ女。

 確か親父はイスラエル人で母親は日本人だったかな? しかも親父はイスラエル空軍だったそうだ。だったというのは既にこの世にいないからだ。訓練中の事故で亡くなったのを何故か笑顔で話していた。


「えへへー、似合うでしょ?」


 スカートをひらひらさせながら、クルクルその場で周ると無邪気な笑顔でいいやがった。


「ああ、似合うな。だがそうじゃねぇだろうが!」

「ふえ? なんで怒鳴るんですか」


 何でそれだけで涙目になってるんだよ。アタシが悪いみたいだろうが。


「修道士なら修道士の服を着ろよ」

「えー、あの服可愛くないんですよぉー」

「大差ないだろ、修道士服いやって、お前オカマかなにかなのか?」


 驚いた顔をするマティア、何故驚く?


「レナさん酷いですよぉ、ボクのどこがオカマなんですか! 立派な男の子じゃないですか」

「立派の意味を辞書で調べてこいコノヤロウ」

「十分に整っているさま。不足や欠点のないさま。うわー、ボクみたいじゃないですかぁー」

「……は?」


 コイツの認識は何かがおかしい……アイツ鏡見た事無いのか?


「いや、もっと男らしくなりたいと思わないのか? ガチムチとか極端な話じゃなくてな」

「もうー、ボク凄く男らしいじゃないですかー。良く見てくださいよ」


 良く見ても男らしさは微塵もなかったな。

 さて、お喋りばかりしてても掃除は終わらないので仕方なく掃除もしていく

 すると、重そうな箱が懺悔室の奥にあった。


「あの箱をどかさないと、奥の箒がけができないな」


 アタシがそう言うと、マティアがアタシの方にやってきた


「ふっふっふ。レナさんここはボクに任せてくださいよ、あの重そうな箱はボクが運びますから! 男らしいってこと見せちゃいますね」

「お前があの箱運ぶって? やめとけ腰痛めるぞ」

「もう! ボクにだって運べますからね!」


 マティアは袖まくりしながら箱に手をかけると……


「ふん! んんんー! むーん!」


 ……びくともしないじゃん。


「ぴくりともしないじゃん」

「おかしいです! 重いですよコレ」

「まったく、ほらどきな」


 マティアを下がらせ、アタシは箱を掴むと箱を難なく持ち上げる


「なんだ、ちょっと重いが持てない重さじゃないだろ」

「あれー、レナさんがバカ力なだけですよー」

「やかましいわ」


 箱をどかせると掃除の再開である、マティアはこういう細かな作業は得意なんだよねぇ、手際も良い。


「まあ、男らしくは無いけどこういう細かい作業は得意よねアンタ」

「ふっふっふ、凄いでしょう」

「凄い凄い」


 しかし、なんでこんなに男らしいという概念に差があるのかな?


「マティアあんたの男らしいって概念はなんかズレてるんだけど、心当たりはないの?」

「ズレてるのかなぁ。父さんが『マティアは可愛らしく、そんな男らしい男になりなさい』ってずっと言ってたから」

「可愛らしいのが男らしさってことか?」


 コイツのオヤジさんにゃ悪いが……何言ってんだ?


「うん、可愛くなることが男らしい事だって、父さんは言ってたんだ」

「そうか、お前の親父、ちょっと変だな……独特すぎる感性の持ち主だったんだな」

「どうだろうねー、母さんも何故か買ってくれる服はスカートやワンピースと言った女の子用だったしねぇ」

「そっか、失礼だけどお前の両親変だわ」


 うん、こいつの両親おかしい……

 しかしマティアはマティアなりの男らしさって奴を目指してるなら、アタシがどうこう言う必要はないのかもしれないな。


「お前はお前の男らしさを目指してるんだな」

「えへへー、レナさんもボクを見直した?」

「ああ、どんな道だろうとタマ張って挑んでるなら、アタシはお前の男らしさにはもう口出しはしないよ」

「でも、レナさんもカッコイイよねー。ボクにはお兄さんがいないけど、いたらこんな感じなのかなぁってね」

「はは……お前の両親がアレならそれはない!」


 兄貴もコイツと同じになるのは目に見えてるっつーの!

 マティアの手際の良さもあり掃除はそろそろ終わるところまで来ている、しかしアタシは知っているマティアがマティアである事を……


「さあ、レナさんもう少しで終わりますよ! 頑張っていきましょう!」


 気合を入れてマティアが水の入ったバケツを取りに行こうとする。

 マティアの前方には雑巾が落ちている、ヤバイなマティアはそれに気付いていない。


「マティア! 足元に注意だ雑巾が落ちてるぞ!」


 マティアはアタシの方を向きながら答えた


「わっかりましたー」

「バカ、前向け!」


 分かってねぇ! 前向けよ前!ヘラヘラ笑いながら手まで振ってる……だが


「あら? わわわ……」


 やはり雑巾を踏んで滑りやがった、そしてそのままバケツに目掛けてヘッドスライディング……

 水のこぼれる音と共にマティアは水浸しになる、あぁ……水の滴る良い男(自称)


「ふえぇぇん、濡れちゃいましたー」


 そう、マティアはついでに最後で大抵ドジを踏むことをアタシは知っていた……

 アタシはタオルをマティアに渡しながら。


「はぁ……床はやり直しだな」

「ドンマイ!」

「お前のせいだろうが!」


「はぁ、マティアはマティアか……」

 アタシはそう呟くのであった。

 さて、掃除を終わらせるとしようか……

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