懺悔其の十六 宗教も楽じゃないんです

 いやー、風邪ひいたのは何年ぶりだ? バカは風邪ひかないっていうがアレ嘘だなアタシが引くんだしな。

 そして何かリアはずっとグッタリしてたし、何かやったなありゃ。


 取り合えず復帰はしたし今日も今日とて懺悔室で待機だよ、病み上がりだからあまりキツイのは来ないでほしいね。

 っと、さっそくお出ましだね……あぁー、病み上がりにゃキツイかも。


 一人の、背格好からすると男かな? いかんせん笠を目深にかぶっていやがるから表情が見えない。

 笠だけならまだいいが、その服装……直綴じきとつ袈裟けさ切袴きりばかま。いやいやここ来ていいの?


「ほう、ふむ。ここが懺悔室というやつですな? 説法を行う所ということですな」


 どう見ても僧侶、坊さんじゃねーかよ。


「えっと、どういったご用件で?」


 アタシがカーテン越しに尋ねると、坊さんは笠を取りお辞儀をする。

 人の良さそうな五十くらいのオヤジだ、頭に毛は無かった。



「ああ、失礼。拙僧は衆煎寺しゅうせんじで僧侶をしている甲斐と申します」

「はあ、どうも。アタシはこの教会のシスターで幕田といいます」


 しかも隣町の寺の坊さんじゃねぇかよ、何しに来たんだ?


「それで、どういった用件でしょうか?」

「はい、少し相談がありまして」

「相談ですか? 分かりました聞きましょう」


 坊主がシスターに相談って何かシュールだな。


「最近はですね檀家さんが減っておりましてな、お寺の経営も苦しくなっておりまして、お恥ずかしながらどうにか出来ないものかと相談に参りました」


 なるほど、寺もキツイんだな……しかしそれうちに相談に来る内容じゃねぇよな。


「スイマセンがなんでそんなことを、うちに相談するんでしょうか?」

「いやー、同じ宗教法人ですから何か良い案が無いのかと? 確かそちらのシスターがアイドル活動のような勧誘をしてると聞きましてね」


 リアのバカしか思い当たる節がねぇ……しかも増えてるのってどう見てもアイドルオタクみたいなばかりだしな。


「あー、バカが一人なんかやってますが気にしないでください」

「そうなんですか? 最近はここの教会のシスターが別嬪ぞろいで信徒が増えてると聞いていますからな」

「しかし、これといった活動なんてしてませんが」


 北岡のブログのせいだな、まあブログの件は片付いたからいいが。


「確か、教会の美少女どうとかってブログがあったと聞いております」

「それは盗撮魔のバカが勝手にやった事ですね」

「しかし色々な噂がありましてな、うちも信徒を増やすに何かすべきかと思いまして、ここに来た次第なんです」


 くあー、世間ではかなり怪しい宗教だって思われてそうだなこりゃ。


「周りが色々勝手にやって自爆してるだけですよ、事実うちも寄付金少なくて結構火の車なんで」

「ふーむ、お互い大変ですな」

「そうですよ。強引な勧誘なんてしたら今じゃ叩かれますし」

「何か良い考えはないものですかな?」


 甲斐和尚は腕組みして考え込む。普通に考えてるな、良かったどっかの小坊主みたいに指に唾つけて頭のとこでくるくるして胡坐かいて考え出さなくて。


「ふむ、うちも美人ばかり雇い、尼僧を前面に押し出すとかどうでしょうかね?」


 なんかアホなこと言いだしたぞ、尼僧を雇うとか言うなよバイト巫女かよ。

 確かちなみに尼僧ってのは二十歳以上の未婚の女性が出家してなるんだよな。


「尼僧の服を身体の線が分かるような服にして前面に押し出せば、男性の信徒が一気に増えるかと思うのですがどうですかな?」

「いや、ダメだろ何言ってんだ、煩悩まみれのクソ寺かよ」

「ダメですか? ここにいるピチピチの修道服を着ているシスターの方を参考にしたのですが」


 マリアさんかよ……あの人マジなんなの?


「あー、あの人は参考にしたらダメだから、正直あの人シスターモドキだから」

「そうなのですか……難しいですな」


 そう言うとまた考え出す。

 コイツ真面目そうに見えてとんでもない生臭坊主かもしれんぞ、思考が俗っぽ過ぎる。

 少しすると、甲斐和尚はまたもや頭の悪いことを言い出した


「では尼僧のグループで広報活動をするのはどうですかな? 読経ライブとか売れそうじゃないですかな?」

「いや、読経ライブって何だよ。だから尼僧はそういうモノじゃねーだろうが。何で考えが俗っぽいんだよ」

「これもダメですか……お宅の小さなシスターと少し演技臭い喋りをするシスターが近くの広場で賛美歌ライブとかやってたのを参考にしたのですが」


 リアとリナのバカ二名か、アイツ等何してるんだよ。リナって歌も上手いから似合うだろうけど意味が分からん。


「いや、尼僧から離れろよ。煩悩だらけじゃないかよ」

「むむ、確かにそうですな……尼僧はやめておきましょう。そしたらどうしましょうかな?」

「地道に行くしかないんじゃないの?」

「それではいけない、宗教もビジネ……おおっと失礼。仏の教えをもっと広めなければ」


 いま、ビジネスって言いそうになったろコイツ。


「んー、そうなると檀家さんの奥さん狙いになりますかな」

「は?」

「いや、基本的に家庭の財布を握ってるのは奥方の方が多いではありませんか」

「んー、よくわかんないけどそんなもんなのか?」

「ええ、そうです」


 今度はアゴの手でさすりながら考え事をしている。

 そして名案とばかりにポンと手を叩くと。


「そうだ、尼僧ではなくアレですなジャニーなんとかみたいに、最近流行のイケメングループみたく坊主のグループを結成して読経ライブしかないですな」

「まてや! 女が男になっただけでさっきと同じ案じゃねぇかよ!」

「しかし煩悩度は下がると思いますが……」

「いやいや、昼下がりのマダム甘く見るなよ」


 ニヤりと笑う甲斐和尚。


「夫婦仲が上手くいってないマダム狙いは行けると思いましたな? 流石はシスターですな」

「いや、ちが、そういう事じゃないから」

「そうですな、この教会の二番煎じではいかんですな」


 く、あのバカどものせいでうちまで煩悩教会だと思われていやがる……なまじ思い当たる節があって反論できねぇ。


「こうしてはいられん、小坊主共の中からイケメンを集めねば!」


 いかん! イケメン坊主ユニットが誕生してしまう。


「甲斐和尚! 考え直すんだ、それきっと上手くいかないから!」

「いやいや、いけますぞユニット名も考えないといけませんな、読経ライブこれは流行る。ではこれにて失礼いたします」


 甲斐和尚は立ち上がると急ぎ足で出て行った……


「あー、アタしゃ知らね」




 しばらくすると、イケメン坊主五人組ユニット『Buddha』が一時世間を賑わせたが檀家は増えなかったそうだ。

 坊主達個人のファンは増えたそうだが宗派変える人はいなかったそうだ、そらそうだろうなぁ。

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