懺悔其の十三 僕の悩みを聞いてください

 

 さて、今日の迷える子羊は……何だろうなコレ、多分小学生だと思う……そう思いたい。

 半袖Tシャツに半ズボンにランドセルを背負っているけど、筋骨逞しく身長は一八〇センチ近い、正直オッサンにしか見えない……

 ちなみにそろそろ春でまだ肌寒い時期である。


「あー、えーと。ボクは何歳かな?」


 一応、確認をしておく。


「ボクは片平浩平、九歳です」


 九歳となると小学三年か四年くらいかな?

 だが声も見た目通りで野太いオッサン声だ、反応に困るタイプだなぁ今回も。


「浩平君ね、それで懺悔室に何のようなのかな?」

「ここでは相談をうけてくれると聞いたのできました」

「ああ、相談も受け付けてるよ」


 ボクの特殊性癖はどうですか? みたいな質問だったらどうしよう……

 それか最近一部で流行ってるバブみ? そのバブみを極めし者とかじゃないだろうな?

 あ、バブみって年下の女性に母性を感じるとかそういうやつだったか。とりあえず聞くだけ聞いてみよう。


「それで浩平君の相談って何かな?」

「はい、ボクの悩みは学校の他の子よりも老けて見える事です」

「……」


 相談事はマトモっちゃあマトモなんだけど、お前どう見てもオッサンだもんとしか答えられない、どうしよう……助けてシスターケイト。


「えーと、何と言いますか正直に言って、浩平君はオッサンにしか見えないですね」

「うぅ……ぐす、やっぱボクは老けて見えるんですね」


 浩平は涙ぐんでいる、事実を述べてるだけなのにアタシが虐めてるように感じるし、やりずれー!!

 しかも小学生の恰好したいい歳のオッサンを虐めてるなんて、シュールな光景に見えるんだろうなぁコレ。


「あー、えーと。個性だよ個性、それも個性の一つだと思えばいいんだよ」

「個性?」

「そうそう、オッサンっぽく見えるのが個性、しかも悪いように考えちゃいけない」

「どういうことですか?」


 取り合えず泣くのは阻止したな、しまった何時の間にか修道女モードが切れてしまった。


「ほら、あれだ。老けて見えるんじゃなくて大人びて見えると考えるんだ」

「大人びて見える、という事は僕は別に老けてはいないんですか?」

「ウン、オッサンジャナイヨ……じゃなくて老けてないから大丈夫!」

「本当ですか!」

「ウン」


 ほんとやりずれーな……ビジュアルってやっぱ重要だね。正直見た目と口調が合わなさ過ぎて笑いをこらえるのが結構大変なんだよなぁ。


「ボクが皆より老けて見えるから、皆が僕を避けるんだと思っていましたから、老けてないなら別の理由があるはずですね」

「そうだねぇ、別の理由があるかもしれないねー」


 お前がオッサンだからだよと言えないもどかしさ、だって言ったら泣くぞきっと。


「じゃあ、よく思い出してごらん、何故避けられているかを?」

「えーと、うーんと。そうだ! ボク、トイレに行った後手を洗わないや」

「うえー、きったね。他には?」


 オッサンだったとしてもトイレの後に手を洗わないとかないわー、そして浩平は少し考えると。


「あれかなぁ、給食後につま楊枝で歯の隙間をシーシー言いながら掃除する事かなぁ?」

「ぇー」


 コイツ、思考は小学生だけど基本的な本能がオッサンのまんまじゃねぇか。


「あ、人前でも平気でおならするからかも!」

「浩平君、思い当たる節が多すぎないか?」

「どういう事でしょう?」


 もう我慢できない! 言っちゃうよ。


「いやね、お前さ中身までオッサンだわ」

「……やはり僕、老けて見えるんですね?」


 老けて見えるとかそんな優しい話じゃないんだよ。


「いや、ちげーよ。見えるんじゃなくてオッサンそのものだわ」

「そんな……」


 浩平はショックを受けたようだが仕方ないよね、だってオッサンだもの。


「言わないようにしてたが無理だよ……どこからどうみても立派なオッサンなんだもの」

「嘘だ!! そんな僕がオッサンだなんて……」

「アンタがなんでそんなになっちまったか分からないけど、認めようよ自分がオッサンだってこと」


 アタシは自分の手鏡を浩平の顔の前にかざす。


「誰? このオジさん」

「いや、お前だよお前」


 鏡に映った自分を認識できていなかったのか、魂が抜けたような顔で鏡を見ている浩平、しかし突然雄たけびを上げだした。


「うおおおおおおおおお!!」


 浩平が絶叫を始めたぞ、なんかヤバいんじゃないかこれ?


「お、おい! 落ち着けよ」


 アタシも流石にこれはビビる、浩平が暫く雄叫びを上げた後、黙り込む。

 数秒の沈黙の後、憑き物が落ちたような晴れやかな表情をしていた、そして浩平がアタシに。


「シスター、ありがとうございます。何かずっと悪い夢を見ていたようだ」

「あ、あぁ。そうかそいつは良かった」

「ええ、何で私は自分が小学生と思い込んでいたのでしょう?」

「しらねぇよ」

「とりあえず、もう一度お礼を言わせていただきます」


 浩平は椅子から立つと。


「ああ、今という時が輝いて見える、それはまるで長き眠りから覚めたかのようだ」

「あ、そう。良かったね」

「シスター、本当に有難うございました。それでは失礼します」


 そう言って浩平は帰っていった。

 そして浩平と入れ替わりにリナのヤツが入ってきた。


「レナ、今出て行った人は最近この近所で噂になってた人じゃないか?」


 リナが入ってくるなりそう言った。


「どんな噂なんだ?」


 アタシはリナの言った噂とやらが気になったので尋ねてみた。

 噂の人物でアレだったと考えるとロクでもない噂だぞきっと。


「なんでも、あのオッサン。とある小学生女子にガチ惚れして告白した所あっさりフラたって噂なんだ」

「なんだそりゃ」


 ロリコンだったのかあのオヤジ?


「しかしこの噂続きがあってね、あのオッサンはその失恋がショックで幼児退行を起こし、自分が小学生だと思い込むようになってしまったらしいんだ」

「なるほど、その噂は本当だったって事だな」


 幼児退行起こすほどのショックだったて事か……なんとも言えないなぁ。

 そしてリナが扉の方を見ながら。


「どうやらレナのおかげであのオッサンは救われたようだね」

「アタしゃ真実を容赦なく突き付けただけだよ」

「ショック療法か、流石は私の女神だね」

「うるせー、キモイこと言ってるんじゃないよ」



 結果救ってしまったってだけなんだけどねぇ。

 まあ、あのオッサンがこれで救われたなら良しとするか。

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