6月6日 15:00 推理小説部

「これ! これおかしくないか?」

 昴が突然叫び始める。6時間近くスマホと睨めっこしているせいか、意識がぼーっとしている。昴は元気なままなことが絶対おかしい。


「私は全然見つからないよう……どれ? なに?」

 昴はタブレットとスマホを指さす。

「この男性、遠くて分からない5時過ぎの高速バス乗り場にいるでしょ? それから、この新幹線乗り場の写真のここ。同じ人だと思うんだよな」


「いやいや、全然ちがうでしょ。服がスーツだし、こっちは私服だし、靴も違うよ? 骨格は似てるけど……」

 昴が指差す男性は、背が高く姿勢が良い。顔は分からないが、おじさんという感じではない。


「待って、こっちの写真にも写っている人かも……」

 そう言って渉が自分のスマホに映る写真を指差す。現場近くの24時間スーパーに、何人か写っている。

「え? どこ? なんで同じ人だと思うの?」

 私にはサッパリわからない。


「弥生は、昔から間違いさがし苦手だもんな」

 ニヤニヤとしながら昴がからかってくる。

「高速バスの写真のバックと新幹線乗り場の写真のバック。リュックと肩掛けだけど、同じものだろ? それから、スーパーから出てくる男性も同じ物を持っているんだ」


 確かに改めて見ると、同じ物だ。


「でもそれだけじゃ分からないよ?」

「いや、そんなことない。改札を通る写真、首に大きいホクロがある。そしてスーパーの写真も拡大すると、大きいホクロがあるんだ」


 ハッとすると同時に、鳥肌が立つ。この人が悪魔……。早計かもしれない。でも、当たっているような気もしていた。


「この人が犯人だとしてどうする……弥生は会って話したいんだろ? どうやって、名前や場所を突き止める?」

 昴は、私をしっかり見つめて言う。

 どうすべきだろうか……。


「ここまでしか出来ないのかな?」

 正直、手がない。警察に情報提供したら、犯人と話すことは出来なくなる。


「いや、この人の正体ならもう分かってるよ?」

 渉の発言に、思わずぎょっとする。


「いやいや、なんで? 顔より下しか分からないんだぞ?」

 昴と私も同じ気持ちだが、渉が嘘を言っているようにも見えない。


「もちろん、投稿されているのはモザイクがかかっているから、誰か分からないが、投稿者に頼めば、編集前の写真を貰えたよ。これ、見覚えあるでしょ?」


 渉は机の上に、元の写真を取り出す。私と昴はそれを見た途端、驚きのあまり顔を見合わせてしまう。


「これ、テレビでCMもしてる建築会社の社長じゃん! え、社長が犯人ってこと?」

 Y県と近接している県のみでCM放送している会社で、この辺で知らない人はいないだろう。社長が犯人ということはありえるのだろうか。


「社長出勤という言葉がある位だから、社長という立場であれば多少自由がきくこともあるんじゃないのか? 学生の俺らにはよく分からないが……」


 確かに渉の意見も一理ある。しかし、犯人をつきとめられたからといって、何かできることがあるわけでもない。社長なら尚更会えるものではないかもしれない。


「弥生は、会えないと諦めてる? 俺は、会えると思うぞ。とにかく準備しながら話そうか」

 そう言って、身の回りを片付け始める。


「俺もどうやって会うか分かったもんねー!」

 昴はすでに自慢気だが、隣の県にいる社長に会う方法などあるのだろうか。


 玄関で靴を履いて、そっと扉をあけて出ていく。親に気づかれると余計な心配をかけるからだろう。

 道路にでて、すぐに私は渉に詰め寄った。


「で? どうするの?」

「ん、それはな。会社のホームページにラジオ出演が予定されているのを確認したのさ。これの終了時間に合わせて、待機していれば少し話せるかもしれないだろ?」

 確かに。社長とはいえ全国規模の大きな会社ではない。秘書やボディガードを付けるかまでは怪しい。

 私達は、そのまま隣の県にあるラジオ局へバスで向かった。


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