2-3

 暑い日差し。南国の木。青い海。白い砂浜。たくさんのビーチシートの中に、不自然な絨毯があった。

 不自然とはいえビーチシートの中に紛れているのであまり目立たない。

「ベルナデット。フェアリーサークルはどこにでも行けるアイテムなのか?」

「何処でもOKだよ。さぁ、次はどこ行く?」

 智浩はあらん限りの行き先を考える。クラスの皆に自慢できそうな場所。

「みんなに自慢できそうな場所に行きたい!」

 ベルナデットはう〜ん、と唸り始めた。

「トモヒロ。旅行そのものを楽しむのが一番だよ。誰が一番良いところへ行ったかを競うなんてナンセンスさ。今を楽しもうよ。近くにロブスター料理が美味しいお店がある。そこに行こうよ!」

「ベルナデット。男には引き下がれない局面というものがある。わかってくれ!」

 智浩はキリリと男前の表情で語る。ただ単に見栄を張りたいだけなのだが。

「ヤダヤダ! ロブスターが食べたい!」

「ベルナデット? 本音は?」

「他人のお金で豪華な食事がしたいデース!」

「却下する。さぁ、まだ見ぬ新天地を目指すぞ!」

 智浩はベルナデットを無視してフェアリーサークルへと突き進んだ。

「トモヒロのいけずぅ!」

「ドルに両替していないから却下だ! …ベルナデットは食べ物をどうしたの?」

「USドルくらい持っているデスネ。基軸通貨は便利だから。天国でも一部で使えるよ。主にアメリカエリアの天国だけど」

「地獄の沙汰も金次第ってやつだね」

「お布施は天国へ。富は天の国に積めとイエス・キリストも言っているし、あの世でもお金は必要なんだよね。世知辛い」

「まるでこの世の延長線だなぁ…死んでもお金で苦労するなんて…」

「公共施設の維持にもお金がかかるからネ! 天国の維持にも財源がいる。労働力は主に地獄へ」

「天国は?」

「トモヒロ。天国の住人に労働は課せられないのだよ」

 智浩は目を丸くする。

「天国に行きたいなぁ!」

「HAHAHA! 精々徳を積むことサ!」

 ベルナデットは快活に笑った。ふと、何かを思い出したようだ。

「トモヒロ。また迷子にならないように電話番号を交換しておこう」

「えっ、ベルナデットもスマホを持っているの?」

「地上にあるものはなんでも天にもあるよ。困ったことがあったらすぐに連絡すると良い。私はハワイを楽しんでいくとするヨ」

 ベルナデットは智浩と連絡先を交換する。「おでかけフェアリーサークルがあれば、ベルナデットはいつでもどこにでも行けるんじゃないの?」

「残念な事に、トモヒロの問題に関してのみ私は天界の全権が委ねられるんだ。天の財宝を私的理由では持ち出せないからおこぼれに預かろうって話だヨ」

「僕ってそんなに特別なんだ」

「特別も特別。その上で問題課題。将来は救世主になってもらわないと困る」

「それってなれるかなぁ…」

「大丈夫。ならざるを得ないように追い込むから」

 智浩は一瞬聞き流した。

「えっ?」

「言い間違えた。天使らしく導くから大丈夫デース。あなたは神を信じますか?」

「なんとなく無理!」

「トモヒロ。君に選択権はないから。運命を受け入れたまえ!」

「なんだか急に心配になってきた!」

「飛び切りの少年期をプレゼントするのには間違いない。全力の今を楽しみたまえ。私はそうする!」

 ベルナデットは一見良さげなセリフをはきながら、自己肯定して去っていった。行き着く先はハワイのレストラン。

「フリーダムな天使だなぁ。僕も見習わなくちゃ。これからどこへ行こう…」

 智浩はおでかけフェアリーサークルの前で行き先を考え込んだ。クラスのみんなに自慢する為だけの行き先選び。なんともかんとも。

 と、その時であった。

「やぁ、坊や。こんなところでどうしたんだい?」

 智浩に日本語で話しかける声。智浩が振り返ると一人の金髪碧眼の青年がいた。

「えっと…」

 智浩は返事に困った、ハワイで外国人に話しかけられるとは思っていなかったのだ。

「もしかして迷子かな? 僕も迷子になったことがあってね。いやー、あのときは困ったものだ」

 青年は言葉を続けた。

「お兄さんはどなたですか?」

「僕はたまたまトラベル中に彷徨ってここへ出ただけさ。先程君たちが救世主がどうとか話をしているのを聞いて、つい話しかけたくなった」

「えーと、まぁ? 僕が救世主にならなきゃいけない話ですか?」

 青年は優しく微笑んだ。

「そう。それだ。大変よね。救世主って神の試練にあったり、世界の困難と向き合わなきゃいけないんだから」

 智浩は意外な話を聞いて嫌そうな表情を浮かべた。

「ベルナデットのやつ。そんな事は言っていなかったぞ! あいつめ!」

「ハハハ! まぁ、あまり天使・・を困らせないようにね? …君の人生には無理難題が降りかかるかもしれないが、負けないようにね。ま、今は顔見せだけにしておくよ。まだ君の将来が確定しているわけでもない」

 そう言うと青年は去っていった。

「何だったんだろう…」

 智浩が青年の後ろ姿を見送る。あっという間に人混みの中に消えて行った。

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