024話 すくろーる

俺は、ごうごうと燃え盛る階下に吹雪の巻物ブリザードをぶん投げた。

着弾した地点から、吹雪が起こり、炎を相殺していく。

だが、炎の勢いの方が強く、思ったほど消火できない。

ならば…。

吹雪の巻物ブリザードの着弾地点を目掛けて、竜巻の巻物トルネードをぶん投げた。

『簡易合体魔法のブリザードストーム』だ。


吹き荒ぶ雪に風が勢いを与え、ホワイトアウトが起きるほどの吹雪が、荒ぶる炎を消し去ってしまった。


あと、竜巻の影響で、8階だけではなく、上階にも吹雪が起こってしまった。

そう言えば、竜巻って横もだけど縦に長く伸びるんだったなー。

のんびりとそんなことを考えていたが、オブジェクト化していなければ、被害はこんなものじゃなかっただろうことを思うと、なんて便利な世界なんだ、と改めて思うのだった。


さて、火も消えたことだし、俺達は早速8階を攻略することにした。


8階に降り立つと、大きな蜥蜴が一匹ひっくり返った状態で煙を吹き出していた。

なるほど、こいつか。


俺はこのトカゲの正体を知っていた。

炎の精霊サラマンダーである。


何でこんなところにいるのだろうか。

よくよく考えると、このチュートリアルダンジョンに出現するモンスターは、街や線路に出ていたヤツとはまた違う。


管轄の部署でも違うのかと思うくらいに、全く被っていない。

強さが違うのかとも思ったが、強いのから弱いのまで幅はまちまちだ。


一番弱いコボルトはだいたいレベル10位でも倒せるし、オルトロスは70以上無いと倒せない。

レベル帯と言うと、サラマンダーはだいたいキラーベアー位だろう。


ソラが巻物スクロールの購入を進めたくらいなので、きっとウンディーネやシルフ、ノームなんかも出てくる気がする。


だが、俺は兎も角、他のチュートリアルを受けている最中ような連中がどうやってこんなに強いモンスターを倒せるのだろう。

もしかして、チュートリアル中にだけ特別な加護のようなものが起こったりするのかもしれない。


だとすると、エリカがあんなにも上階に行くことを拒んだ理由がわかる気もする。

もしかすると、行けないのではなく、行くと帰ってこられないと言うことだったのかもしれない。


結構甘く考えていたが、俺が『チュートリアルすることはない』と言われたと言うことが手加減なしで攻略しろと言う意味だったならば、気を引き締めなければ危ないのかもしれないと、思うのだった。


そう考えれば、ウララがあそこまで心配していたのも大袈裟ではなかった訳だ。


―――


7階に降り立った。


待ち構えていたのは、オーガだった。

後ろから、グロウが声をかけてきた。


「そろそろ、あたしにもやらせてもらえない?」


色々な関節を回したりしながらグロウが準備万端と言った様子で俺の前に躍り出る。


7~8㎝暗いしかないグロウが3~4mはあろうかと言うオーガと戦うと言うのだ。

しかも、勝つ気でいる。

多分だけど、あいつキラーベアーよりも強いぞ?


まぁ、余計なことを言って水を指す必要もない。

明らかにグロウの方が俺には強く見える。

ステータスなんかみなくても、俺にはそれが手に取るようにわかった。


俺は、少し後方に下がって、二人の戦いを眺めることにした。

その様子を横目で確認したグロウが、「ふっ」と軽く息を吐いた。


そして、グロウはオーガに向かって不規則に飛びながら攻撃を開始するのだった。


グロウは普通にしていると、淡いピンク色に発光しているが、どうやらそれを意識的に変えることが出来るらしい。


わざと強めに光らせて、注意を向けてから今度は光を消して死角に潜り込む。

そうやって、オーガの攻撃を翻弄しながら一方的に攻撃を繰り返して行く。

一方的に攻撃され続けたオーガは怒りのあまりに雄叫びをあげた。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおー!」


すると、オーガの肉体が薄い灰緑色からどす黒く変色し始めた。

血管が浮き上がるほどに、筋肉も盛り上がってきた。

あのオーガ、何かの筋力強化系スキルを使いやがった。


だがグロウは慌てた様子も見せずにしらっとしている。

あいつが使うなら私もくらいに考えているのかもしれない。


グロウは空中にいるにも関わらず、地面を爪先で蹴るような動きを数回繰り返して、こう呟いた。


「あたしもちょっと試してみたいことがあったのよね。」


すると、グロウが……あれ?

俺は、二度見したあと、目を擦ってもう一回見た。

やっぱり……。


グロウが8人くらいに見える。

その8人のグロウが不規則にオーガに突撃し、チマチマと体力を削っていく。


最後は、その8人が全員で同時に突撃して………。

結局オーガは体の色を変える以外の攻撃がなにも出来ずに煙になって行った。


「お前、あれ、どうなってんだ?」


「あぁ、【分身】ってスキルもらったから試しただけだけど?」


いやいや、違うだろ。

俺が知ってるのは、攻撃をスキルだ。


分身して攻撃するスキルなんか聞いたこともない。

しかも、8体に。


だが、俺の知識は自分を型にはめる行為だったのかもしれないと反省すると共に、グロウのことを見直すのだった。


「でもさ、分身するまではすごいけど、攻撃地味だよな。」


「あたしもそれ気にしてたんだから、あんたも何かアイデア出しなさい!」


この発言が後に、俺とグロウの必殺技を産み出すことになるのだが、それはそのときに改めて話すことにしよう。


―――


6階。


やっとここまで降りてきた。

行きはさくさく上ったと言うのに、帰りはこんなにも毎回邪魔をされるとは正直思っていなかった。


「さぁ、次は何だ?」


現れたのは緑色の小さな精霊だった。

実態を持たないタイプのモンスターで、名前はさっき話題にも上がったシルフだ。

ちなみに、ダメージを与えるには巻物スクロールなどの魔法攻撃しかない。


俺は迷うことなく炎槍の巻物フレイムランスをぶっ放つ。

中級魔法は敵を倒した感があっていいい。

バッドステータスでチマチマ削るのもまぁ、別にいいのだが当たると消滅させられると言うのは中級魔法の魅力だろう。


倒し終わって、下に降りようとした時、突然魔法攻撃が俺とグロウを襲った。

脇腹を激しい痛みが襲う。

グロウも激しくオブジェクト化した棚にからだを打ち付けている。

もしかしたら、この世界に来て初めてまともにダメージかもしれない。


幸いそれほど深刻なダメージではなかったので、回復アイテムを使うまでもなく全回復出来たが、さっきのシルフは一体ではなかったと言うことのようだ。


俺は、目を閉じて、【心眼】を発動させると近くにいる敵の数を数えた。

今までの階には一体ずつしかモンスターが居なかったので、この階にも一体しか居ないと思い込んだ俺が間違いだったらしい。

どうやら初めのヤツ以外にあと、4体のシルフがこの階にはいるようだった。


「グロウ、お前のクローだと魔法攻撃も出来るんだよな?」


「えぇ、出来るわよ。」


「じゃあ、一体任せた。俺は残りの3体をぶっ飛ばす。」


「仕方ないわね。任されたわ。」


そう言い合うと、俺とグロウは背中合わせに立ってそのまま前方に向かって走り出すのだった。


―――


俺は走りながら、イノリのスマホで石の巻物ストーンを3つと俺のスマホで風の巻物ウィンドを3つ取り出す。


イノリのスマホで取り出した石の巻物ストーンを俺のスマホで取り出した風の巻物ウィンドでそれぞれシルフα、シルフβ、シルフγに対して打ち出した。

『簡易版ストーンバレット』だ。


思い付きが成功し、3体のシルフを撃破することに成功したのだった。


―――


まったく、オーガを倒したばかりでSPも回復し終わっていないあたしに、あいつはシルフを倒せと命令してきた。


まぁ、この爪がある限り、ただ殴るだけでも倒せるんだけど…。

こんな時、飛び道具でもあると便利なんだけど…。

と、思ったらひらめいた。

そう言えば、あたしには投げられるものがあったわ。


あたしはをシルフに対して打ち出した。

シルフδはあたしが打ち出したあたしの爪につらぬかれ、蒸発するように煙になった。


あたしのステータス欄には…

 A 【分身攻撃 LV1】

 A 【グロウ飛ばし LV1】

が、追加される事になるのだった。

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