SSSお菓子祭り - ヴァルハラに舞うヴァルキリーはキャベツとフランスパンのどちらを好むのか-


「相沢さん、私の知っているお菓子祭りと、ほんの少し違う気がします」


「私が知ってるお菓子祭りじゃない」


 現代からの召喚組である俺と相沢さんは、広場の中央に留められた馬車の前でただその光景に圧倒されて棒立ちになってしまう。


「さあ早く、どっちに着くかはもう決めたんですか、ミキネお姉ちゃんとなななお姉ちゃん!」


 今日は旧型紺色スクール水着に身を包むエリィは、ピンクのボブカットを揺らしながら、未発達な身体で準備運動を始める。


「ふふふ、エリィめ、まだあの時の城の前での暴走の礼、返しておらぬな」


 準備運動をする向かいには、『自然魔術研究組』の可愛い制服姿に着替えたイヴァが、自前のレース付き傘を持って先頭に立っている。


 彼女たちの背中には、各々、女子小中学生が十五名づつ並んでいる。


 エリィの後ろにはスクール水着軍団。イヴァの後ろには制服軍団である。


「私が審判をいたしますね」


 ささーと馬車の前に立ったミリャ先生は、いつものきちっとしたタイトスカートの姿だ。俺と相沢さんは流れるままに生徒に連れ去られ、俺は制服軍団に、相沢さんはスクミズ軍団に配属された。


「それでは三十分、一本勝負、お菓子祭り、かいさああい!」


 ぶおおおぶおお、と何処からともなくホラ貝の音が鳴り響き、生徒たちは一斉に走り出した。


「領主さま、わ、私がサポートいたします」


 スッと俺の横に出てきたのは、一緒に買い物に行った大人しい巨乳眼鏡文系少女フィフィオだ。


「な、何が起こっているんですか、まるで戦争です」


 地は地震のように揺れ、ミリャ先生は巨大な旗を片手づつにもって、二本振っている。


「まさか領主さま、お菓子祭り初めてなんですか?」


 キャベツを構えて俺を守りながら、フィフィオは飛んできた生クリームをひと舐めする。


「敵軍のファーストクリームがもう出てますね」


「ファ、ファーストクリーム?」


 聞いたことねえぞ、なんだファーストクリームって!


「私たちも早くアリメントゥムを確保しないと——アリメントゥムを確保してもロイヤルトラベリングには気を付けてください。ミリャ先生はお菓子祭りの公式審判の免許を保有していますから」


「もう全然意味が分からないです!」


「私に着いてきてください、東側空回りアリメントゥムを確保して、自軍のクリーナへ運び、キュイジーヌにゴールすればスリーセンセーショナルを確保できます」


 なるほど!


 遠くに見える相沢さんも意味がさっぱり分からないのか、飛んでくる生クリームを一身に受けて顔や胸から生クリームがしたたり落ちている。


全身を流れる生クリームは、正直もったいないが舐めるのもはばかられる逸品だ。地味に涙目なのが可哀想ですらある。


「ここはヴァルハラ——」


 間違いなく戦場、お菓子の食材を集めようとしているヴァルキリーたちの戦場なのだ。意味は分からないが、大体分かった。


 敵の生クリームを避けながら食材を後方のキッチンに持ち帰って、料理しろというだけの話だ。


「行きます——!」


 フィフィオは物陰に隠れながら馬車を目指し、俺も後について回る。


「ふふふ、そう簡単にはいかせませんよ!」


「なに!?」


 俺たちの行動を先読みしていたのか、物陰から姿を現したのは、腰にバナナホルダーをセットし、両手にフランスパンを持った魔法剣士エリィだった。


「このオリーブオイルまみれの食パンの餌食になるがいい」


 どこかの目が行っちゃってる軍人さんのように、パンの側面を舌を出してゆっくりと舐める。それ誰が食べるんだよ。まてよ、その腰のバナナはコンバットナイフのつもりなのか——!?


「ほうら、オリーブオイルが目に入ると染みるってもんじゃないですよ!」


 普段から腰に油をぶら下げてるやつが言うと、説得力あるわあ。


「行って下さい、領主さま。ここは私が食い止めます」


「駄目です、フィフィオさん! ああ見えてエリィは頭のネジが五本くらい弾けています!」


「それでも、です——!」


 フィフィオは震える足に力を入れ、エリィとの戦闘態勢に備えた。


 防御よりのキャベツと攻撃よりのフランスパンが、今、激突する——。

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