第14話 毒牙 Bパート
勇気が毒を受けてから半日。アリアは懸命に看病をし、セラムは解毒薬開発を急いでいた。
「セラム様、薬はまだなんですか?勇気さん、だんだんと悪化してきてます!」
ベッドに横たわり、苦しむ顔は生気を失い、呼吸も浅くなっていた。
「大急ぎでやってるからもうちょっと待って!」
「ハア、ハア、ハア、母さん。」
毒で苦しみ、呻くように母を呼びながら何かを握ろうと動く手をアリアが握り返す。
「勇気さん、あなたのお母様ではないですけど私はついていますから安心してください。」
目に泣みだを浮かべながらも懸命に励ましているを見て、自分も泣きそうになりながらセラムは開発を急いだ。
さらに数時間後、遂にその時が訪れた。
「できた!できたできたできた!やっぱ僕は天才だね、最高だね!」
「すごいですセラム様!早く勇気さんに!」
「分かってるって!はい、プスっとな。」
かなり太めの針が付いた怪しい色の液体が入った注射器が勇気の首筋に刺され、解毒薬が注入された。
「セ、セラム様、そんなに太い針を弱ってる人に刺して大丈夫なんですか?」
「ダイジョブダイジョブ。それよりも解毒剤が効いてきたみたいだね。とはいえまだ油断はできないけど。」
誤魔化し切れていないセラムはさておき、解毒薬の効果は確かなようで、勇気の呼吸は少しずつ落ち着き始め、生気も戻り始めた。
「そうなんですか?確かに勇気さん、少し楽そうになったように見えますけど。」
「まだ完全に解毒できるかはわからないし、体力もかなり消耗してるからね。とにかくもうしばらくは絶対安静にさせないと。」
「う、うーん、母さん?ここは病院?」
「お、意識が戻ったみたいだね。病院にいたのは君が死ぬ前の話でしょ、ここはラボだよ。後、手を握ってるのはお母さんじゃなくて愛しのアリア。」
「え!す、すいません!」
「い、いえ!こちらこそ!」
ぎゅっと握りあっていた手を二人は顔を真っ赤にしながら慌てて放す。
「はいはい、ラブコメはさっさと終わってよね。それより何があったか覚えてる?」
「えっと、アリアさんと買い物に出かけて、それから・・・」
「蜘蛛みたいな怪人に襲われて毒を注入されたんです。」
「そうだ!糸で簀巻きにされて噛まれたんだ!」
首筋を触ると大きめの絆創膏が3枚張られていた。
「あれ?牙で噛まれたのに何で3枚絆創膏張ってあるんですか?」
「男の子がそんな細かいこと気にしちゃだめだよー。」
絶対3枚目の原因はセラムさんだと確信するには十分な怪しい誤魔化し方をされたがまあ気にしないでおこう。多分そのおかげで助かったはずだから。
「アリアさんは大丈夫でしたか?ケガとかしてないですか?」
「もう、私の事より自分の体を心配してください。さっきまで死にかけてたんですからね。」
怒るアリアさんの目元が赤く腫れていたの見ると、かなり心配をかけたのだろう。
「すみません。それで僕の意識がを失った後、怪人はどうなったんですか?」
「ボクがドローンで隙を作って、アリアがタックルで吹っ飛ばして君を奪還した後はどっかに行ったみたい。ずっと探してるけど見つからないからたぶん島に帰ったんじゃないかな」
「じゃあ他の人には被害は出てないんですね」
「ピンポイントで君を狙いに来たみたいだからね。ごめんね、僕が油断して君からブレードを引き離したりしたからこんなことになったんだよ。良いわけかもしれないけど、油断してた」
「それなら私が買い物になんか行ったのが悪いんです。セラム様は悪くないです」
「ちょっと待ってください二人とも。今回は僕も完全に油断してましたし、そもそも一番悪いのは襲ってきた怪人なんですから」
二人をなだめるが、まだ謝られそうな雰囲気を感じたので無理やり別の話題に替える。
「そういえば先生はどこに行ったんですか?」
「憲兵隊に勇気さんが怪人に襲われたので警戒するように伝えに行くと町の方へ行かれました。」
その時、ラボ中に怪人が出現したことを伝えるアラームがけたたましく鳴り響いた。
「ドローンが怪人を見つけたんですか!」
「違う、これはエレンドルに持たせた端末からの怪人発見時の緊急コールだよ!」
セラムさんがラボのパソコンを操作するとモニターに現場に急行したドローンからの映像が映し出された。そこには大量のゾアッパ兵を従え、先生を簀巻きにして捕まえている僕に毒を注入した怪人が映っていた。
「そんな、どうして先生が捕まってるんだ!」
モニターに向かって叫ぶように問いかけた答えが、聞こえているはずのない怪人から帰ってきた。どうやらドローンを見つけてそれに話しかけてきている様だ。
「可愛い可愛い騎士のボウヤ、この人間を返してほしかったら出てきなさい。このナイスミドル、あなたと似たような恰好してるからあなたと関係あるわよね。まあ、それはどっちでもけど。いいからさっさとでてきなさーい、お姉さんがやさしく殺してあ・げ・る。」
「彼はもうしゃべることすらできんのだぞ!そんな人間を呼び出したところで来れるわけがないだッグハ!」
縛られながらも抵抗を止めない先生が、ゾアッパ兵に腹を殴られ痛みに顔を歪めている。
「あらやだ、そういえばそうだったわね。まあいいわ、誰か連れてきなさい。あの時一緒にいた彼女さんでもいいわ、逃げた時みたいに担いで連れてきなさいよー。」
ドタッ、という音でセラムとアリアはモニターにくぎ付けだった視線をベッドの方に移すと、勇気がベッドから落ちながらも立ち上がろうとしていた。
「ちょっと勇気さん、なにしてるんですか!」
「せ、先生を助けに行かないと。」
「無理だよ、そんな体じゃ戦うどころか変身だってできないよ!」
「それでも、僕が行かないと。セラムさん、ブレードの整備ってもう終わってますよね。」
作業台を見ると、細かい傷まで補修され、新品同様になったブレードが置かれいる。
「終わってるけど。今の君には渡せない!」
慌ててセラムさんは作業台のブレードを取り、ブレードを抱きしめるように持ち、体で僕から隠そうとする。
「セラムさん、お願いします。」
真っ直ぐにセラムの瞳を見つめる勇気に、彼女は観念したようにブレードを差し出した。
「いい、絶対に変身しちゃダメだからね。怪人、データベースを照合して名前が分かったけど、アラクネードが君を見て隙みたいなのができたら前回同様ドローンで援護するからエレンドルを助けてソッコー逃げてくること。いいね!」
まだ少し納得のいっていない顔をしながらも、セラムさんはビシッとこちらを指さして作戦を指示してくれた。
「わかりました」
「私も行きます。そもそもユウキさん、まともに歩けてもいないじゃないですか」
「すいません、お願いします。」
「それでは失礼して、よっこいっしょっと」
肩を貸してくれるのか思ったが、貸すのではなく、肩に担がれてしまった。
「ちょ、ちょっと!ほんとに担がなくてもいいんですよ!」
「この方がユウキさんの体に負担が掛からないと思いますし、なにより早いですから。」
アリアさんの筋力ならそうだろうが、ここは肩を貸してほしかった。
「二人とも、気を付けてね」
「はい、セラム様。行ってきます」
二人ともシリアスな雰囲気を醸し出しているが、僕は米俵の如く担がれているので何とも言えない気分だ。
とにかく僕達は出荷、もとい先生を助けるために出発した。
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