New Data AIさんと行く世紀末ゲーム大紀行

 『メダロシティの奇跡』……なんて呼ばれるようになったあのアンケート。

 掲示板などでは運営側の票操作だとか言われることもあったが、騒ぎは次第に収束した。

 きっと、あの場にいたプレイヤーたちが本心で票を入れてくれたからすぐに収まったのだろう。


 運営のセキュリティ強化やツール使用者への対処でメダリオン・オンラインはしばらくサービスを停止した。

 俺はその間、何をするでもなくボーっと日々を過ごしていた。

 ゲームを遊び始めてからはほとんどの時間をあの世界で過ごした。

 今まで無数のゲームを遊んできたが、ここまで熱中したのは初めてだ。


 早くまたあの世界を冒険したい。

 仲間たちに会いたいという気持ちは強くなるばかりだった。


 そして、二週間後……。


「帰って来たぜメダラミア」


 戦場から活気あふれる街に戻ったメダロシティで、そのセレモニーは行われようとしていた。

 第三陣営の勝利特典、マスコットAIチャリンのプレイヤー化セレモニーである!


「あれ? あんま人いないな!?」


 やっぱ二週間も時間が空くと熱も冷めてしまうのか。

 セレモニーに集まったプレイヤーは陣営に所属していた三百人より少し多い五百人程度に見えた。

 まあ、チャリンがプレイヤーになったからって、ほとんどのプレイヤーに得はないからなぁ。

 五百人もいれば十分なのだろうか?


『みんなお待たせ~! この度はみんなのアイドル、チャリンのプレイヤーデビューセレモニーにお集まりいただき誠にありがとうございますだにょん!』


 舞台の上にはカーテンが用意され、その奥にチャリンらしき影が映る。

 会場は大盛り上がりだ。

 それはそれは濃いファンが集まっているからな。

 俺はその圧に負けて人ごみの後ろの方で見ている。

 なんか、前の方で見るのも恥ずかしいしな。


『もったいぶるものでもないし、今から新しい私を公開するにょん! 10……9……8……』


 7……6……5……4……と会場にもコールが起こる。


『3……2……1……ゼロ! じゃじゃ~んだにょん!』


 現れたチャリンの姿は……さほど以前と変わっていなかった。

 服装は少し布面積が増えて冒険に適したデザインになったくらいか。

 あと、今までは少し半透明だったボディが完全に実体を持っている。

 この感じだと、しっかり物やプレイヤーにも触れるようになってるんだろうな。


『んーと、んーと……』


 大歓声の会場をチャリンが見渡す。

 何かを探しているようだ。

 ……俺と目が合った。


『あ、いた!』


 全力で俺のもとに走ってくるチャリン。

 身構える前に、彼女は俺の体に抱き着いていた。


『どうして一番の功労者がこんな後ろにいるにょん!?』


「いやだって……みんな結構年季の入ったファンっぽいし……。俺みたいな新参が前に行くのも悪いかなって」


『一緒に過ごした時間は短くてもシュウトは特別だにょん! もー、ゲームに戻って来てくれてないかと不安になったにょん!』


「戻ってこないわけないだろ。遊び始めたばっかだし、友達も出来たんだから。てか、アイドルがセレモニーで一人のファンを特別扱いしてていいのか?」


『AIに特別な人がいちゃダメだにょん?』


「ダメじゃないけど、仕事中はいないようにふるまうべきかと」


 かなり嫉妬の混じった視線を感じるし……。

 まあ、俺だってちょっとくらい特別扱いされてもいい活躍はしたけどな。


『むぅ……わかったにょん! 今はアイドルに戻るにょん!』


 チャリンはたったとステージに戻っていった。

 その後、存在すると知らなかった彼女のオリジナルソングやパフォーマンスが披露され、セレモニーは大盛り上がりのうちに幕を閉じた。




 ● ● ● ● ● ● ●




 あれから一か月。

 俺はやはりメダリオン・オンラインにログインしていた。

 場所は……初期村だ。


『さあ、今日は初めての動画撮影の日だにょん! 張り切っていくにょん!』


 隣にはチャリン。

 気合は十分のようだ。


 何もしなくても最低限の生活が保障される世界で、俺は特に何もせずに生きてきた。

 世の中にはゲームをやりこんで名を上げるプロゲーマーも存在したけど、俺はあくまで趣味の範囲でゲームをやってきた。


 でも、少し前にそんな生き方が変わった。

 俺はメダリオン・オンラインの運営会社とスポンサー契約を結び、専属のプロゲーマーになった。

 とはいえ明確にこれが仕事ってのはなくて、自分のプレイを生配信または動画として世の中に発信していけばいいだけだ。


 ただ、今日は一味違う。

 チャリンと共に初期の状態からゲームを始めた風のプレイを撮影して、初心者の道しるべになるような動画を作るのだ。

 トーク力には自信がないが、ちゃんと台本も用意している。

 ある程度はそれに合わせていけばいい。


『コレクトソードを含め、レアメダルはしばらく封印にょんねぇ。だって普通はそんなメダルがぽんぽん手に入るもんじゃないにょん! 初心者の参考にならないにょん!』


「ま、俺は手に入れたんだけどな」


『運と優秀なサポートのおかげにょん!』


「ああ、まったくだ」


『出会った頃はこうやって同じ立場でゲームを遊ぶことになるとは思わなかったにょんね』


「俺もかなり軽い気持ちで遊び始めたからな。それが仕事になるなんて思いもしなかった」


『このゲームを盛り上げていけるかな?』


「大丈夫さ。俺たちならな」


 運命の出会いっていうのは、出会った頃には特別だとわからないものなのかもしれない。

 このゲームで強くなるには運命力が必要だって、誰かが言ってたな。

 確かにその通りだし、リアルでもそれは同じ。


 運命ってのには逆らえない。

 そっぽを向かれるとどうしようもない。

 でも、唯一抵抗できるとしたら、それは行動だと思う。


 チャリンと出会ったきっかけは、メダルガチャでクロガネを引いたことだ。

 正直、俺は結構嫌々メダルガチャを引いた。

 最高レアリティの確率低すぎだし、一枚メダルをゲットしたところでこれからゲームを楽しめるか疑問だったからだ。

 でも、せっかくだから引いた。

 それがこの運命を手繰り寄せた。


 行動で言えばわずかワンタッチ。

 ガチャスタートのボタンをタッチするだけ。

 動いたのは指がつながっている手、腕、肩がほんの少しだけだ。


 でも、その行動がなければ何も起こらなかった。

 俺はメダリオン・オンラインを初日引退し、また特にやることもない生活に戻る。

 チャリンは今まで通りサポートAIとして仕事をこなし、メダロシティ決戦でも当然のように負けてプレイヤーになることはなかっただろう。

 ほんの少しの気まぐれと、ほんの少しの行動だ。

 運命を変えるにはそれだけでいい。


 俺はこれからゲームを遊び始めるルーキーが、少しでもこのゲームを長く続けてくれるように活動する。

 人の行動を後押しして、少しでも良い方に変わってくれれば……なんて、うぬぼれかな?

 いや、そうでもないか?


 世の中には「それはやってみなくても結果がわかってるだろ!」ってことももちろんあるけど、これから俺たちがやることは行動してみなければ結果がわからないことだ。

 なら、やってみるしかないって!


「そういえば動画のタイトルって決まってるのか?」


『決まってないにょん。タイトルは再生回数に直結するから悩んでるにょん』


「じゃあさ、『AIさんと行く世紀末ゲーム大紀行』っていうのはどう? どデカい冒険が始まりそうな感じじゃん?」


『えーっ!? そんなのゲームバランスの悪さを広めるようなものだにょん!』


「その通りなんだから隠しても仕方ないって。それにこういうのは目を引くように派手なワードを入れるべきなのさ」


『むぅ……考えておくにょん。さあさあ、そろそろ撮影を開始するにょん! 動画が出来なければタイトルを考える意味もないにょん!』


「それもそうだな」


 ここからまた……新しい冒険の始まりだ!


「さあ、ゲームスタートだ!」

『さあ、ゲームスタートだにょん!』




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 メダリオン・オンライン ~AIさんと行く世紀末ゲーム大紀行~


 -END-


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メダリオン・オンライン ~AIさんと行く世紀末ゲーム大紀行~ 草乃葉オウル@2作品書籍化 @KusanohaOru

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