Data.18 三角帽子のドロシィ

『あわわわわわわ……にょん』


 チャリンも姿を見られたことに気づいて慌てている。

 しかし、いまさら姿を消しても意味がない。


「あれれ~? そこにいるのはこのゲームのマスコットキャラのチャリンちゃんじゃん! また初心者の面倒を見てるの?」


「……また? チャリンは俺以外にも初心者の面倒を見てるのか?」


『あはは、これでも私は運営スタッフだからねぇ。シュウトがログアウトしている間は他の困っているプレイヤーを助けてるにょん』


「ふーん、そうだったのか」


『あー! もしかしてやきもち焼いてる?』


「焼いてねーよ!」


『もー、心配しなくてもいいんだにょん! ここまでべったり一緒にいるのはシュウトだけだにょん! だってみんな慣れてくると私のアドバイスを鬱陶しがるにょん! 自分の力でいろいろ試したくなるにょんねぇ~』


「悪かったな。自分の力でいろいろやらなくて」


『そんな拗ねなくていいにょん。アドバイスを素直に聞くのは大事なことだにょん!』


「あのぉ~、お二人さん? 僕を放置して痴話喧嘩はやめてほしいねぇ」


 三角帽子の魔女ドロシィがイライラを隠さずに話に割って入ってくる。


「すまない。それで……なんの話だっけ?」


「ダンジョンに行くんだったら僕を仲間に入れろって言ってるんだよ!」


 か、完全にキレてる!

 俺たちが悪いとはいえ、こんな短気な人を仲間に入れていいものか?

 なんかミスったら後ろから撃たれそう……。


「こんな怒りっぽい子は簡単に裏切りそうとか考えてるんでしょ?」


「い、いやいや、思ってないさ」


「ふんっ! パーティーを組めば仲間の攻撃は当たらないように設定できるんだよ。そんなことも知らないの? もしかして、僕の見込み違いだったかな? 実は相当弱いんじゃないのお兄さん?」


「くっ……! そんなことはないぜ! わかった! 一緒にダンジョンに行こうじゃないか! そこで俺の実力を証明する!」


「よしよし、そうこなくっちゃ!」


 半ばノリでドロシィとパーティーを組むことになった。

 その後、お互いに見栄の張り合いが続いた結果、他の仲間なんていなくても俺たちなら問題ないという結論になり、二人パーティーでダンジョンに挑むことになった。


『こんなんで本当に大丈夫にょん……?』




 ● ● ● ● ● ● ●




 俺たちが向かったダンジョンは『ハグルマの遺跡』。

 メカロポリス周辺に存在するダンジョンの中では比較的難易度が低く、階層も30までしかない。

 出てくるのは機械系モンスター。

 防御力に優れている代わりにノロいタイプと、その逆の速くて脆いタイプの敵が混在しいてるらしい。


「今回はダンジョン素人さんがいるから、この程度の場所にしといてあげるよ」


「ドロシィはダンジョンを踏破したことがあるのか?」


「もちろん! 自分が出来もしないことで人をバカにするほど見下げた人間じゃないさ。メカロポリス周辺のダンジョンはまだだけど、他の町のダンジョンはそれなりに踏破してるね」


 ふむ、さっきはケンカ腰で話してしまったが、話を聞いてみるとなかなかすごいな。

 良いプレイヤーと巡り会えたのかもしれない。


「メダルスロットは万全かい? ダンジョンに入る前に一度だけメダルスロットの変更が可能だけど」


「ああ、問題ない」


 今回の俺のメダルカスタムはこうだ。


 ●W クロガネ 【コレクトソード・ジェミニ】

 ●W プラチナ 【シュレッダーブーメラン】

 ●A プラチナ 【アルマジロアーマー】

 ●S ゴールド 【破断粉砕撃】

 ●S ゴールド 【火炎旋風】

 ●S ブロンズ 【ハイジャンプ】

 ●S ブロンズ 【ヒールポーション】


 そう、ルーキーコロシアムの頃とほぼ一緒だ。

 変わったのはコレクトソードが進化してジェミニになったところだけ。

 やっぱダンジョンには炎が必要そうだということで、氷槍雪連弾を外して火炎旋風を抜擢している。


「んじゃ、ダンジョンにとつにゅ~う!」


 遺跡の中へと足を踏み入れる。


「あれ? なんかこの遺跡……外から見た時より広くね?」


「ダンジョンの外観はあくまでも雰囲気づくりのためにあるだけだよ。内部は現実的にはあり得ないほど広くて深い、もしくは高い。そして、時期ごとにダンジョンの構造も変わるんだ」


「ああ、ランダム生成ダンジョンってやつね」


 それは繰り返し遊べて面白そうなシステムだ。

 しかし、今の俺が気になっているのは、やはりダンジョンの敵のレベルだ。

 ドロシィの前で見栄を張ったのはいいが、本当に倒せるんだろうな?


『今のシュウトで倒せないモンスターは出ないにょん。そんなんじゃ低難易度ダンジョンとは呼べないにょんね』


「そうか、じゃあ他のプレイヤーとの遭遇にだけ気をつけとけばいいんだな」


『ちっちっちっ~。1対1で倒せないモンスターはいないって言っただけだにょん! ダンジョンでは……』


 チャリンの言葉を聞く前に、俺は理解した。

 今まさに目の前の通路から多量のモンスターが押し寄せてきている!


火炎旋風ファイアトルネード!」


 通路を塞ぐように炎の旋風を起こす。

 炎に焼かれたモンスターは良し、焼け切らず抜けてきたやつはコレクトソードでぶった切る!

 第一波はなんとか退けることが出来た。


「ふーっ! どうだ? 俺の実力は?」


「なかなか良いスキルと剣を持ってるね。やっぱり僕の目に狂いはなかったな。でも、僕ほどのプレイヤーではないね」


「もう見栄を張らなくてもいいさ。同じパーティーなんだし、仲良く行こう」


「僕は事実を述べたまでさ。次のモンスターの群れは僕に任せてみてよ」


 そう言って先を歩くドロシィの小さな背中は自信に満ち溢れていた。

 そして、次のモンスターが現れた時……。


火炎球ファイアボール!」


 ゴォォォォォォォォォ!!!

 放たれた巨大な火の玉が通路を埋め尽くす。

 逃げ場を失ったモンスターはすべて焼き尽くされ消滅した。

 これがたった一枚のメダルの効果……。

 それもブロンズのメダルだというのか!?


「実力の差……よくわかったんじゃない?」


『お、おかしいにょん! 火炎球はブロンズの中ではかなり強いメダルでも、あんな威力はないにょん!』


「でも、あったでしょ? 僕のこと認めてよね」


『ぐぬぬ……』


 謎多き魔女ドロシィ。

 まだまだ信用ならないが、一つだけ信じられるものがある。

 彼女の実力は本物だ……!

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