Data.17 機械の街メカロポリス

「来たぞ! メカロポリス!」


 パーラの町とは比べ物にならない大都市メカロポリス。

 巨大な金属の防壁にぐるりと囲まれていて、非常に堅牢な印象を受ける。

 町中は蒸気と歯車であふれ、メカというよりスチームパンク風だ。

 プレイヤーもたくさんいて、特に町の中心である時計台広場は混雑している。


「このゲームはどこでも町の機能を使えるのに、わざわざ広場に集まる意味があるのか?」


『ちっちっちっ~! いくらメダリオン・オンラインはシンプルさを売りにしているけど、マップの作りこみはどこにも負けないって言ってるにょん! この広場には人が集まるだけの仕掛けがあるにょん!』


「仕掛け?」


『もうすぐわかるにょん! 3、2、1……0!』


 クルッポー! クルッポー! クルッポー!


「な、なんだあれ!?」


 巨大な時計台から、これまた超巨大なハトが飛び出してきた!

 現実では物理法則と建築法が許さないであろうデッカイ機械仕掛けのハトは、時計台から飛び出しては戻り、また飛び出すを数回繰り返した後、静かになった。

 なんともド派手な時間の知らせ方だな……。


「でも、現実ではありえない建物とか仕掛けを楽しむってのも、ゲームならではの醍醐味だな」


『そうにょん! これを見るためにみんな広場に集まってたにょんね!』


「確かにこの町にいる間は何回も見たくなるくらいド迫力だった」


 とはいえ、次にハトが出てくる時間までぼーっとしているわけにはいかない。

 他のプレイヤーたちも潮が引くように町中に散っていく。

 俺も冒険を開始しないとな。


 でも、何から始めればいいんだろうか。

 このまま一直線にメダロシティを目指してもグリフレットは俺を認めないと思う。

 さらに強くなる必要があるわけだ。


「そういえば、このゲームってストーリーとかクエストとかないから、まず何をすればいいのかわかりにくいな。最近のゲームはプレイヤーが迷わないようにガチガチにサポートしてるのに珍しい」


『いや、ストーリーもクエストも一応あるにょん。やってみるにょん?』


 え、NPCが存在しないのにストーリーがあるのか!?


「やってみる!」




 ● ● ● ● ● ● ●




「おお! 苦薬草のメダルを取ってきてくださったんですか! ありがとうございます! これがお礼のメダルです」


<シュウト は 【銅の剣】 を 手に入れた!>


 視界が暗転し、メカロポリスの町の風景が戻ってくる。

 さっきまで俺が見ていた民家とそこに住む老人は消えてなくなった。


「……手抜き過ぎない?」


 このゲームにおけるストーリーは、マップの特定の場所に行って『ストーリーを開始しますか?』の問いに『はい』を選択した後、まったく干渉できないムービーを見ておつかいに行くだけだ。

 少し昔の映像美だけを追求したゲームの悪いところをそのまま受け継いでいる!


『でもでも、たまにボタン操作が求められるストーリーもあるにょん。QTEとか言う……』


「クイックタイムイベントもあるのか!? ボケっとムービーを見てたら急に操作を要求してくるクソシステムの代名詞じゃないか!」


『ちっちっちっ~。現代のQTEはボタン操作じゃないにょん! 特定の場面で特定の動きを求められるにょん! さらにクソ……いや、遊びごたえがあるにょん!』


 そりゃひでぇや!

 まあ、ちょっと時間をかければ確実にメダルが手に入るんだから、口汚く罵るほど悪いシステムではないな。

 しかし、俺はこのストーリーで確定入手できるメダルじゃもう満足できない。


 じゃあクエストの方はというと……。

 メニュー画面に表示される『お題』クリアすると勝手に報酬が手に入るようになっている。

 モンスターを何体討伐とか、何キロメートル冒険したとか、ストーリーより手軽に遊べるシステムだ。

 その分もらえる報酬もお察しだけど……。


 やはり、俺はフィールドに出て強敵を狩るのが正解なのか?


『なら、ダンジョンに行くにょん! 深く潜ることが出来ればレアなメダルがゲットできるにょん!』


 ダンジョンは洞窟、あるいは特別な建物の中を探索するモードらしい。

 プレイヤーは敵を倒しつつフロアを探索、階段を見つけて次のフロアへと向かう。

 また、ダンジョン内では特殊なルールが適応される。


 まず、ダンジョン内で手に入れたメダルを持ち帰るには絶対に一体はフロアボスを倒さなければならないという事。

 フロアボスは全フロアにいるわけではなく五階層や十階層など区切りのいいフロアに存在している。

 このボスを倒すと探索からの『帰還』か『続行』かを選べる。


 帰還を選択するとここまでで手に入れたメダルに加えて、突破階層数に応じた特別なメダルを入手できる。

 続行を選択するとさらに先のフロアに進むことが出来る。


 ダンジョンの奥深くに行くほど良いメダルは手に入りやすくなるが、フロアボスを倒せぬまま死んでしまうと、これまでダンジョンで手に入れたメダルを全部失ってしまう。

 帰還か、続行か……。

 その選択が明暗を分ける。


「面白そうじゃないか! 早速行こう!」


『待つにょん! ダンジョンは四人パーティー前提の難易度だにょん!』


「でも、浅い階層なら俺のメダルの力があれば……」


『ダンジョンには常に他のパーティーがいるにょん! もちろんダンジョン内もPK許可エリアにょん! これでわかったにょん?』


「ああ、それはまずいな……」


 閉ざされた空間で4対1は不利すぎる。

 ちなみにチャリンの話によると、フロアボス戦はパーティーごとに違う空間で戦うことになるので妨害はされないし、報酬も人数分ちゃんと同じメダルが出るらしい。

 本当は争わずに他パーティーと協力するのが正解なんだけど、まあそこはメダリオン・オンライン。

 パーティー間抗争は見慣れた光景のようだ。


「俺にフレンドはいないし、野良で声をかけていくしかないか。でも、あんま人を誘うのって得意じゃないんだよなぁ」


『そういう人のために、メニュー画面にはパーティーを探すための掲示板があるにょん。ちょっと開いてみるにょん』


「メニュー画面の『パーティーを探す』か。こいつは……酷いな」


 そこにはメンバーを探すたくさんのパーティーの情報が書かれている。

 しかし、条件が酷い。


「なになにレアリティ以上のメダルなん枚所持、なになに階層までの突破経験あり、なになにカテゴリーのメダル必須、初心者お断り……ねぇ」


『あはは……ダンジョンは深く潜れば潜るほど、失敗した時の虚無感がヤバいにょんねぇ……。だからメンバーもそれだけガチガチに固めるにょん。それでも失敗した時には戦犯探しも始まるし、本当にトラブルの温床だにょん……』


「俺、やっぱりソロで行くよ」


『でも、危険で……』


「危険でもいいさ。ソロなら負けても自己責任で済む。とにかく、パーティーのギスギス感は俺の思うゲームの楽しさから外れてるんだ」


『むぅ……そう言われると言い返せないにょん。ゲームは楽しいのが一番だにょん! ソロで行けるとこまで行くにょん!』


「そうこなくっちゃ!」


 よーし、待ってろよダンジョン!

 ソロで踏破すればグリフレットも少しは俺を認めるだろう!


「面白そうな話してるね。そこのお兄さんたち」


 急に声をかけられて体がびくっと震える。

 ここは人のまったくいない町の隅っこのはず……。


「ごめんね~? 僕こうやって死角から人に声をかけるの大好きなんだ」


 建物の屋根から降りてくるプレイヤー。

 古風な魔法使いを思わせる黒の三角帽子が印象的な女の子だ。


「僕の名前はドロシィ。お兄さんたちと同じくパーティー探しに困ってたんだ。人のプレイングやメダルカスタムに文句言うくせに、自分の方がへたくそな奴らが多すぎてね」


「は、はあ……」


「でも、お兄さんたちはオーラが違うってね! ぜひとも、お仲間に入れてほしいねぇ~」


 キャラ作りのためかもしれないけど、胡散臭い魔女だなぁ。

 手を組むかはチャリンと相談して決めるか。

 

 ……ん? 

 あっ、ああああああああああああ!?

 その前にチャリンと一緒にいるところを他のプレイヤーに見られてしまったぞ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る